秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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メラウとバリセラス5
 さて、タガルが観客達の怒りの処理をしている頃、メラウはどうしたかと言うと。
「さ~て、どこに泊まろうかしらね~」
 宿を探していた。辺りも少しずつ暗くなってきているので、早めに見つけたいのだろう。それに、夕食のこともある。
「んー、どこが良いかな。まあどこでも良いわよね。じゃああそこにしよ」
 メラウが選んだのは、ちょうど目の前にあった小さな民宿だ。ちょっと汚い上に、少しばかり壊れているところがあるような所ではあるが、メラウは気にしていないらしい。
「すいませーん。泊まりたいんだけど、誰かいるー?」
 メラウは玄関の扉を開け、大声でこの民宿の人を呼ぶ。すると奥から、小柄で気の弱そうなおじさんが出てきた。どうやらここの宿主のようだ。
「ただいま参ります。
 ご利用ありがとうございます……ん?あ、あなたは!」
 宿主はメラウの顔をみると、目を見開いて驚いている。
「うい?私のこと知ってるの?」
「はい、それはもう。あなたのおかげで助かりましたから。そうそう申し送れました、私(わたくし)はここの宿主のコクロウ・セキと申します」
 と、コウロウは頭を下げる。
「えと、私はメラウ・クレメーア。ところであなたに何かした?ぜんぜん覚えてないけど」
「ええ、それはもう大変なことを」
 なんでも、このおじさんはかなりの借金を抱えていたそうだ。返済期日も近いのに、金を稼ぐ当ても無く、利子を払うこともできそうに無かったらしい。
 なにせ女房と子供はコクロウを見捨て数日前に家から出て行ってしまったくらいだ。
 このまま金も無いまま返済期日を迎えれば、どうなるかは言うまでもないだろう。だがそんな時に、一筋の光が見えた。ギャンブルである。
 こんな時に遊んでいる暇があるのか!と思う人もいるだろうが、彼は本気だったのだ。少ない金をかき集めて近くの格闘場へ行き、なるべく多くの金を稼ぐため、あえて勝機の薄いメラウに賭けた。普通なら彼の人生はそこで終わったも同然なのだが、知っての通り、メラウは当然のように勝ってしまった。
 しかもそれで運が回ってきたらしく、今日一日さまざまなギャンブルに手を出しては、大儲けしてきたそうなのだ。
「おかげで借金は全額返済できて、この建物の改装工事もできそうなくらい、お金に余裕ができました。これもメラウさんさまさまですよ。本当にありがとうございます」
「それは良かったわね。じゃあ何かおごってよー」
「良いですとも。では今晩の宿代とお食事は無料(タダ)ということで、どうでしょうか?」
「ホント?!やったーーー」
 メラウは半ば冗談で言っていたつもりだったのだが。それが通ってしまったので、文字通り両手(もろて)を上げて喜んでいる。だがもしここで、先ほどの食堂のことを知っている人間がいたとすればこう言っただろう『止めたほうが良いんじゃないか?』と。そして案の定。
「じゃあここで作れる料理、全部2品ずつお願いねー。あ、追加注文とかもできる?もし足りなかったらするから。そうそう、ルームサービスとかもお願いね!」
 こうなったりする。しかも先ほどより増えている模様。
「はい?ああ、冗談ですか。ハハハ、メラウさんもお人が悪い」
 冷や汗を流しながら営業スマイルでそれを流そうとするコクロウ。
「冗談?私、大真面目のつもりだけど」
 メラウは椅子に座りながら当然のように言い放つ。全く容赦が無い。
「…………」
 コクロウの冷や汗は大量に増加、顔は営業スマイルのままで固定、しかも若干引きつっている。
 この状況でメラウも注文通りの物を作って出すことになれば、それはもう途轍もなく大変な事になる。材料費もそうだが、作る人手が足りないのだ。
 現在ここの宿を経営しているのはコクロウ1人。従業員もいない。妻と子供は、どこか遠い空の下。これでは何十品も1人で作らなければならない。
 今更ながらメラウを宿に泊めた上、宿代食事代すべておごると言ったことを後悔したコクロウ。これでは骨折り損のくたびれ儲けに他ならない。しかもそれを言い出したのは自分だ、こうなった以上断るわけにはいかない。と言うより断れない。
「……分かりました、少々お待ちください!」
 覚悟が決まったようだ。コクロウは近くにあった手ぬぐいを掴んで頭に巻き、もうヤケだと言わんばかりに厨房に突撃していった。
までは良かったのだが。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」
 厨房に入った際に、止まろうとしたが勢いを殺しきれず、そのまま何かに突っ込んだらしい。なにやら床の上で騒ぎながらもがいている。
「ぐうー……すうー……こー……」
 しかしメラウはすでに椅子に座って寝息を立てている。そのためコクロウが騒いでいることに気付いていない。
「あぁぁぁぁぁ!」
 騒ぎながらもがくコクロウ。
「くー……すー……かー……」
 まったく気付かず爆睡するメラウ。
「うわぁぁぁぁぁ!」
「すぴー……すこー……すいー……」
「しぬぅぅぅぅ!」
「ぐー……ぐがー……ぐごー……」
 なんだかコクロウが可哀想な気もするが、メラウが気付かないんだからしょうがない。おかげで隣に住んでいるおばちゃんが何事かとやってくるまでの間、しばらくこれが続いた。


「大丈夫かい?コクロウさん。一体何が起こったんだい?」
「す、すみません。ちょっと張り切りすぎてしまいまして……」
 メラウの座っている椅子の後ろの椅子に腰をかけている状態で、コクロウは隣のおばちゃんに包帯を巻かれながら、どういう経緯で怪我をしたのかをかいつまんで話した。
「それは自業自得ってやつなんじゃないかい?」
「はい……その通りです…………」
「それにしてもあのメラウって娘(こ)、よく寝るねぇ。まだ起きないよ」
 おばちゃんは、後ろで未(いま)だに爆睡しているメラウの方を向く。起きる気配は微塵も無い。
「よし、これで終了。今度は気をつけるんだよ」
 包帯を巻き終えたらしい。おばちゃんは包帯の入っていた救急箱のようなものを片付け、帰ろうとする。随分と親切なおばちゃんのようだ。あまりにもコクロウが騒ぎ過ぎて仕方がなかっただけかもしれないが。
「ありがとうございます。助かりました」
 コクロウは頭を下げて礼を言った後、おばちゃんを見送った。
「あ、そうだ忘れてた。早く料理つくらなきゃ。かなり遅くなったな」
 おばちゃんを見送った後、自滅したおかげで全く料理していないことを思い出す。
「もうかなり暗くもなってきてるし、早く作らなければメラウさんが起きた時に、怒られてしまうな」
 などと言いながら厨房に立ちさっさと料理を作ろうとする。しかしそこに、今はあまり聞きたくない声が聞こえてきた。
「ねー料理まだなの?いつまで待たせるのよー」
 メラウだ。今まで完全に爆睡していたはずなのに、なぜか起きている。
「え?わ!メ、メラウさん!い一体いつの間に起きたんです?」
「いつの間にって、今だけど」
 そう言うメラウの様子には、寝起きの後の倦怠感(けんたいかん)などが全く見られない。本当に寝ていたのかどうか怪しいくらいにサッパリしている。
「あれ?その手と頭にある包帯、どうしたの?」
「あ、これですか?何でもありませんので気にしないでください」
「何でもないって、血が滲んでるじゃない。大丈夫?ちょっと見せてみて」
 コクロウの手と頭に包帯が巻かれていて、しかも少し血で赤くなっているのに気づいたメラウは、怪我を見るためにがっちりとコクロウの頭をつかむ。
「痛い痛い。メラウさん止めてください、痛いです。治療ならもうしましたから大丈夫です」
 ナニマが抵抗するのも気にせず、メラウは問答無用で包帯を巻き取っていく。
「うわー。結構すごい怪我ね。痛くない?」
「だから痛いんですってば。なんで包帯とっちゃうんですか」
 せっかく隣のおばちゃんに巻いてもらった包帯を取られて、コクロウはかなり怒っている様子だ。当たり前のことだが。
「治すのよ。大丈夫、私のO・Hは『怪我を癒す』能力だから、こんな怪我なんてすぐに治るわ」 
 メラウはそう言いながら、コクロウの頭の怪我の部分に手をかざしている。 最初は抵抗していたが、メラウが言った意味を理解すると、おとなしくなっていた。
「はい、頭は終わり。それじゃあ手の方を出して」
「はい。お願いします」
 頭に続き、手の怪我を治すメラウ。コクロウも完全に身を任せている。そこでふと、コクロウは今の状況を考えた。
 現在この民宿にいる人間は自分とメラウの二人だけ。メラウはスタイル抜群な上、かなりの美人。しかもそのメラウは隣で自分の怪我を治してくれている真っ最中。そう考えたとたん、心臓の鼓動が跳ね上がる。
(こ、この状況は……やばい、何かがやばい。だけど……)
 そう考えながらコクロウは徐に横を向く、するとそこにはメラウのとても美しい顔があった。
「……!」
 さらに心臓の鼓動が早くなる。どくどくどくどくと、それはもういつ破裂してもおかしくないくらいに。
(どうするコクロウ、一体どうするんだコクロウ。こ、このシチュエーションで、どうすればいい?)
 心の中で自問自答する。しかも思考はかなりヤバイ方向へと向かっていく。
(そ、そうだ。これは据え膳食わぬは男の恥、というものではないのか?いやそうに違いない!)
 完全に自分勝手な思考の末、もうどうしようもなく愚かな結論に達したコクロウ。
 当然、このような結論に至(いた)った後に行(おこな)う行動と言えば、大体決まっているだろう。ということで。
「メ、メラウさーん!」
 コクロウは体に存在する全てのリミッターを解除し、煩悩をフル活動させた。体の内に潜む欲望と言う名の猛獣が体に憑依したかのごとく、メラウに覆いかぶさるように抱きついた。
 か弱い乙女であるメラウの体は、欲望の化身と化したコクロウに蹂躙されて――いくことは無かった。当然ながら。
 なにしろメラウは190cm以上もある大男を殴り飛ばしたような少女である。コクロウ程度の小柄なおじさんなど、遊び相手にもなるまい。
 そのことを完全に失念していたコクロウは、半死半生どころか、生きているのが不思議なくらいに蹂躙された後、メラウの注文通りに働いた。いや、こき使われたそうな……合唱。



第2話『蒼髪の悪魔』へ
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