秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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メラウとバリセラス4
 その晩バリセラスは村長の家に招かれた。
 あまり大きな家ではなかったが、比較的田舎の村なので土地が広い。その為村人の殆どを呼んでパーティを開けるほどに庭が広大だ。
 ざっと眺めただけでも、100人以上は居るだろう。よく見ると、バリセラスに挑みかかったあの5人兄弟もいるようだ。並べられている料理を早速がっついている。
「どうもありがとうございました」
 バリセラスが居心地悪そうに佇(たたず)んでいるところに、1人の老人が声を掛けてきた。にこやかな顔をした人の良さそうな老人だ。
 老人はバリセラスの横に並ぶと、何かのグラスを手渡した。酒の類だと思ったが、匂いから察するに普通のジュースのようだ。
「すまない」
「いえいえ、あなた様はこの村の恩人です。ささ、思う存分お召し上がり下さい。
 ああ、申し送れました。私は村長のジーマ・ニルスツと申します」
「バリセラス・ガルガートだ。そういえばまだ名乗っていなかったな」
 思う存分と言われたので、とりあえず目の前にあった肉を自分の皿に盛る。何の肉かは分からなかったが、なかなか美味そうだ。
「まことに助かりました。これで意味のない献金や、竜の恐怖から開放されます」
「そうだな。だが野獣などの駆除役がいなくなるぞ?」
「竜より野獣のほうが駆除しやすいのはお分かりでしょう。それに竜と言う獲物も増えて、食糧も増えます」
 竜はコルドの目が光っていない場所では、食糧として狩られているのが一般的だ。
 バリセラスとて、その程度のことは知っているのだが、念のために聞いたのだ。
 自分の皿に盛った肉を食べようとしていたバリセラスだが、ふと何かを思いその肉をよく見てみる。
「この肉、まさか竜の肉か?」
「その通りでございます。昨晩村を襲った1体の竜がおりまして、何とか捕獲しました。教会に引き渡そうと檻の中に入れておいたのですが、バリセラス様が教会を潰していただいたお蔭で、このように食用とすることが出来ました」
 そう言われたバリセラスは、肉を口に運んでみる。
「とても美味い肉だ」
「ありがとうございます。どんどん召し上がってください」
「分かった」
 言われた通りに目の前に置かれている料理に手をつけていく。どれも美味かった。
 とそこへ、昼間のリーダー格らしきおばさんが村長の横に現れる。
「お父さん、準備が出来ましたよ」
 このおばさんは村長の娘のようだ。どうやら何かを伝えにきたらしい。
 村長はその言葉を聞くと、それは嬉しそうな顔になった。今までも嬉しそうではあったが、それとは比べ物にならないほどだ。
「おお、そうかそうか。ようやく終わったか。思ったより時間が掛かったな」
「ええ。なにぶん急な話でしたからね。でももう大丈夫ですよ」
「バリセラスさん。孫の準備が整いましたので、こちらに来てはいただけませんか?」
 バリセラスをもてなす為の催し物の準備をしていたようだ。このパーティを開くと決まったときに計画されたのだろう。
「なにか始まるのか?」
「ええそれはもう。きっと気に入ってもらえることでしょう」
 村長はバリセラスの腕を掴み、簡易的なステージの前に連れて行く。ステージの周りには、かなりの人だかりが出来上がっている。1000人近くは居るだろう。食事よりもこちらがメインのようだ。椅子が無いのでそれぞれ地面に布を敷いて適当に座っている。
 バリセラスはステージの真ん前に座るように言われ、そこに腰を下ろした。村長たちは横に座る。
「ではこれより、サナリィ・ニルスツによる舞(まい)をご披露いたします。どうぞ皆様、最後まで御覧ください」
『わーーーーーーー』
 大地を割るような歓声が響き渡る。その歓声に答えるように妖精のようなドレスに身を包んだ20歳程度の女性が一人、ステージに上がって行く。その女性が村長の孫、サナリィだろう。艶(あで)やかさは無いが、いい香りがする可憐な花のような女性だ。
「よろしくお願いします」
 澄んだ声で挨拶をして、頭を下げる。するとステージの横に待機している楽器を持った人間が曲を奏で始める。少女は前を向くと、両手を振り上げ舞を披露する。
「ほう……」
 バリセラスは思わず息を飲んだ。サナリィという女性は、それほど美しく写ったのだ。
 飛行系のO・Hを使っているらしく、空中を優雅に舞っている。曲と共にドレスを風に靡(なび)かせて舞うその姿は、風に戯れる妖精そのものであった。
 周りにいる観客などは呼吸をも忘れたかのように見つめている。
10分ほど過ぎ、サナリィは舞いを終えたのであろう、空から降りてきた。
『わーーーーーーー』
 再び大地を割るような歓声が響き渡る。その中でサナリィは頭を下げ、ステージから降り、そのままバリセラス達が座っている所へ歩いてくる。
「初めまして、サナリィ・ニルスツと申します」
 サナリィはバリセラスの前へ来ると、挨拶をして頭を下げてから座った。
「どうでしたかな、バリセラスさん。私の自慢の孫娘です。この子は「風に乗って飛ぶ」というO・Hを持っていましてな、このような祝い事の場ではよく舞うのです」
「ああ、確かに綺麗だった」
 バリセラスは素直に感想を述べる。元よりお世辞を言う人間ではないのだが。
「あ、ありがとうございます……」
 村民がこれほどの歓声を浴びせるほどだ、美しいと褒められるのは慣れているだろうに、サナリィは顔を赤らめて俯(うつむ)いてしまった。
「喜んでもらえましたか。それなら急いで準備した甲斐があります」
 孫を褒められて村長は随分ご満悦のようだ。
「俺の為にわざわざ用意してくれたのか。それはすまないな」
「とんでもない。この程度のこと、して当たり前ですよ」
 バリセラスはしばし何かを考える。
「そうか……。では欲しい者が有るのだが、頼めないか?」
「ええ、なんなりと!」
 横に座っているあのおばさんが村長の言葉に対して、「そんな安請け合いを!」と目で訴えていたりするが、村長は気づいていない。
「数週間分の食糧と100セイルほど貰えないだろうか。明日ここを発(た)つ積もりなので、早めに用意してもらえるとありがたい」
「…………」
「駄目か?」
「それだけでいいのですか?」
 村長は信じられなさそうに首をかしげている。
「ああ。他に必要なものはないからな」
「武器や防具なども如何でしょうか?」
「能力上その辺で調達できる。大丈夫だ」
 なんだか納得いかないようで、しかめっ面をさらしている。ちなみにサナリィは未だに顔を赤らめて、バリセラスの方をチラチラ盗み見るようにしている。
「そうです!孫を、孫を嫁に差し出しましょう!」
『ええ!?』
 村長の暴言を聞いて、周りの人間すべてが同じように悲鳴のような声を上げた。まあ当たり前だろう。
「お父さん、そんな勝手に!」
「そうだそうだ、サナリィちゃんの意見も聞かずに勝手に決めるなー!」
「なに考えてんだじじい!」
「サナリィ先生がいなくなったら、誰が子供たちに勉強を教えるんですか!」
 周りの人間、仮にも村長に言いたい放題である。サナリィとはそれほどこの村の人間に好かれているのだろう。ついでに、この村では教職に就いているらしい。
「あのー……私は……」
 そこで本人がようやく口を出す。皆そちらを向いて次の言葉を待った。
「私は……その……構いません……」
『ええ!?』
 サナリィの言葉を聞いて周りの人間が再び悲鳴のような声を上げた。
「サナリィ、ほんとかい?」
「ええ……」
「確かにその気持ち、分からないでもないけど」
 おばさんはチラッとバリセラスの方を覗いてみる。
 目が少し釣り上がっていて怖いイメージがあるのだが、顔立ちがとてもよく整っており、文句なしの美形だ。娘が結婚しても構わないというのが分かる気がする。
「そうかいサナリィ……これから寂しくなるねぇ」
「そうだな……」
 雰囲気が完全にサナリィ嫁ぎモードになっている。
「ちょっと待て、俺の意見は聞かないのか?」
 横で微妙に忘れられていた存在のバリセラスが抗議の声を上げた。
「どうしました。私自慢の孫である、このサナリィを嫁に貰うのが不満なのですか?」
「そうじゃない。だが、別に嫁など必要としていない」
「あの、私じゃ駄目でしょうか……?」
 村長は怒っている眼で、サナリィはすがるような目でバリセラスを見ている。周りの人間は、特に男が恨みがましいような視線を発している。
「この野郎、サナリィちゃんが頼んでるのに断る気か?」
「オレとタイマンで勝負しやがれーー」
「サナリィいいな~。私もお嫁さん候補に立候補したいかも」
 またもや周りの人間言いたい放題だ。バリセラスは「お前らは良いのか悪いのかどっちなんだ」と呟いている。
「じゃあ聞くが、俺はある男を捜して殺すために教会を破壊して回っているんだぞ。そんな危ないところで、この人を連れまわして良いのか?」
「それは……」
「バリセラスさんが守ってくれれば」
 村長は口篭るが、サナリィはまだ諦めて無い様だ。
「正直言って、俺自身の命がどこまで続くか分からない。守る対象が増えればそれだけ死ぬ確立が高くなる。そして俺が死んだら、間違いなく殺されるか、辱(はずかし)めを受けるだろう。それでもいいのか?」
 一同沈黙する。
「ということだ。すまないが、止めてほしい」
「……分かりました」
「気持ちだけは有り難く受け取っておく」
 話はこれで終わっただろうと思い、その場から立ち去り宿に行こうとする。
「では、今晩だけでも夜伽を……」
「くどい!」
 お前はそんなに孫を嫁がせたいのか。そう考えるバリセラスであった。


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