秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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メラウとバリセラス3
「あ~美味しかった。人間たまには贅沢が必要よね~」
 その後メラウは、注文した大量の料理を全部しっかり1人で食べきり、食堂を後にした。メラウが痩躯なのは変わらないが、いったいこの細い体のどこに、その大量の料理が入ったのかは謎である。
「あと1940セイルくらいかな。今日はちゃんとした宿に泊まって、フカフカのベッドに寝るとしよう」
 などと、今後の予定を考えながら歩いていたメラウの表情が、不意に深刻な顔に変わり、動きが止まる。
「囲まれたわね……。何、なんか用?確か、タガルだっけ?」
 メラウがそう言うと、物陰から筋骨隆々とした男が現れる。
「へ~。覚えててくれたか。そいつはうれしいな」
 その男、タガルは、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらメラウに近づいてくる。その周りからは、どこに隠れていたのか、ぞろぞろと百人ほど出てくる。
「一応記憶力はいいのよ。しかし、いかにもって感じで出てくるわねぇ。それも、こんなに仲間集めて」
「集めたんじゃねえよ。集まったんだ。なんせ、ほとんど観客だからな」
「観客?ああ、負けた腹いせね。よくあなたがやられなかったわね」
 人は必ずなにか特殊な能力、O・Hを持っている。5千人近い人間がいれば、間違いなくさまざまな能力が飛び交う。そんな中をたった一人で戦える人間はそうはいない。
 負けたのはタガルなので、観客の怒りの矛先が向くのは、普通に考えてタガルだろう。だがタガルは見たところ、ピンピンしている。
「お前が反則技を使って勝ったからだ。じゃなきゃ俺が負ける訳無いからな。そう言ったらあっさり付いてきたぜ」
「反則技~?私が?あなた頭大丈夫?」
 メラウが、一言ごとに首を少しずつ捻りながら言う。
「おいおい、まだ認めない気か?ならはっきり言ってやろう。お前、O・H使っただろ、あの試合の最中に、堂々とな」
 ほとんどの闘技場は、O・Hの使用が禁止されている。戦闘向きなO・Hを持たない人間でも参戦可能にするためと、強すぎるO・Hによって死ぬ人間を出さないためだ。
 闘技場は基本的に誰でも参加可能であるが、攻撃用のO・Hを持たない人間は参加し辛い。それに、下手にO・Hを使われれば簡単に死人が出る場合がある。
 あの闘技場もその例に漏れず、O・Hの使用は禁じられている。
「堂々とって。それじゃあ私がどんな能力だか分かるの?」
 メラウは半ばあきれたように言う。だがタガルは、自信満々に、
「当たり前だ!それは……衝撃波だ!!」
 と声高らかに叫んだが。
「違う」
 メラウに即答される。
「じゃあ空気を操る能力だ!」
「はずれ」
「それじゃあ爆発系の……」
「いいえ」
 などという不毛なやり取りを分十数分ほど続け、メラウは精神的に疲れ果てていた。まわりの観客などはとても暇そうにしている。
「ねえ……これいつまで続けるの……多分当たらないわよ?永遠に」
 メラウが頭を押さえながら言う。
「んだと?」
 メラウの言葉に、タガルが他に何の能力があるか考えるのを中断し、怒鳴る。
「だって、私のO・Hは戦闘用じゃないし。あえて言うなら戦闘補助かな?」
「補助? なら防御力場展開の能力や筋力増加能力か!」
 タガルのこの言葉に、メラウの怒りが爆発した。
「ええい、いい加減にしろ! ぜんぜん、全く、これっぽっちも合ってないわよ!」
 そしてメラウの怒りにつられてタガルも怒りだす。
「じゃあなんだ、言ってみろ!」
「なにそれ!ほとんど逆ギレじゃない、あんた何様のつもりよ!」
「てめえに指図される理由は無ぇ、さっさと答えやがれ!」
「ええ分かったわよ!私のO・Hは『怪我を癒す』O・Hよ!」
「ならさっさとそう言え、もったいぶってんじゃねえ!」
「あんたがいつまでも当てないのが悪いんでしょうが、人のせいにするな!」
「人のせいだぁ?だいたいお前がO・Hなんぞ使ったのが悪いんじゃねぇか!」
「そんなもの使ってないって言ってんでしょうが!ったく頭悪いわねー」
「んだと。誰が頭悪いって?あぁ?」
「あんたよあんた、他に誰がいるのよ。そんなことも分からないから頭悪いのよ!」
「言わせておけばこのアマァ……」
「言わせておけば、ですって?あんたには言われたくないわよ!」
「生意気な小娘が。その口、二度と利けなくしてやる!」
「そのつもりでここに来たんでしょうが、白々しい!来るならさっさと来なさい!」
 まさに売り言葉に買い言葉である。周りの空気はどんどん悪化して行き、メラウとタガルは一触即発の状態だ。両者とも何かのきっかけで飛び掛って行きそうな雰囲気である。
「ちょっと待ってくれ」
 と、そこに観客の一人が二人を止めようと声をかける。が、
「なんだ!」
「なによ!」
 同時に叫ぶ。
 観客の制止によって飛び掛り損ねた、タガルのメラウの気迫に押されてしまう。だがその観客は、弱々しくながらも何とか言葉を続ける。
「えぇー……とですね……タガルさん。たぶん、メラウさんがO・Hを使っていなくとも、タガルさんは負けていたと思います……」
「んな訳ねーだろーが!俺が負けると思うか、あぁ?」
 タガルがその観客に向かっていき、胸ぐらを掴み怒鳴る。その威圧と声に負けて、その観客の声はさらに弱々しくなってしまう。
「す、すいません!で、ですが、メラウさんのO・Hは怪我を直す能力なのでしょう……?でしたら、メラウさんはタガルさんの攻撃を受けていなかったので、結果は変わらなかったと思います……はい……」
 その観客が言い終わると、タガルは怒ってその観客をメラウの方に投げる。だが周りの観客は、その観客の説明を聞き、口々に「ああ、確かに」と納得している。
 元々観客たちは、タガルが負けたことに怒っていたので、あっさりとメラウに対しての怒りが引いていき。再び観客たちの怒りの矛先はタガルへと向き始める。
「な、なんだよ……こ、この女が嘘を言ってるかもしんねーんだぞ!?」
 流石に観客全員に睨まれて、尻込みしながらタガルが言う。
「じゃあ見せましょうか?」
 なにやら勝ち誇った顔でメラウはそう観客たちとタガルに宣言し、ちょうど目の前に飛んできた観客の前に立った。
「あなた怪我は無い?あるなら見せて」
「えぇ?あ、はい……」
 性格はどうあれ、一応美女であるメラウに優しくされ、ドキリとしながらもその観客は、いそいそとタガルに投げられてできた右腕と左足部分の怪我をメラウに見せ始める。
「右腕と右足だけね。分かった」
 メラウはその観客の右腕の怪部分のすぐ上に手をかざす。するとメラウの手から光が放たれる。やがてその光に当てられた右腕の怪我は、跡形もなく消えていた。
「はい、これでおしまい。どう、治ってるでしょ?」
「え、ええ。傷もなくなっていますし、痛くもないです。
 すいません、ありがとうございます」
 その観客は、頬を赤らめながらメラウに礼を言う。
 それを聞くや否やメラウは、
「ほ~ら、嘘は言ってないでしょ?タガルさ~ん」
 イヤミったらしく、タガルに向かって不敵な笑みを浮かべる。なんともいい性格をしているようだ。
「くっ、じ、じゃあ二重能力者(ダブラー)だ!」
 まだ引き下がる気が無いのか、タガルは苦し紛れにそんなことを言う。
「ダブラー?あんたねぇ、そんなのがほいほい町の中を歩いているわけ無いでしょうが。ダブラーがどれだけ珍しいか分かってる?」
 二重能力者(ダブラー)とは、生まれながらにして二つのO・Hをもつ者のことだ。
 通常人は一種類のO・Hしか持たないが、突然変異で稀に二種類のO・Hを持つ者が生まれてくることがある。当然二重能力者と言うぐらいなので、通常の人間より能力ははるかに高い。
 だがその確立は数万人に一人生まれるかどうかと言われるほどに希少で、生まれても、あまり見ることはできない。なぜならほぼ自動的に軍隊のエリートコースを歩き、数年で高い階級を与えられるからだ。
 ダブラーが生まれると、その家族はほぼ間違いなく自分の国の軍隊に連絡する。軍隊はダブラーをとても重宝し、そのダブラーの家族も丁重に扱うからだ。
 ダブラーのいる家族は王都などで裕福な生活を送れる。そのため、王都ならばありえなくもないが、ここのように大した規模ではない普通の町の中を、ほいほい歩いている訳が無いのだ。
 タガルとて、そのくらいは分かっているはずなのだが、悔しいため尚も食い下がる。 
「い、いや。ありえない話じゃ……」
「ありえないありえない。
 だいたい、ダブラーがわざわざ格闘場でお金稼いだりするほど、お金に困ってるわけ無いでしょう」
「ぐっ……」
「タガルさん、もう止めません?多分もう無理ですよ」
「そうだそうだ、完全にあんたの負けだ。諦めろ」
 観客たちは全員つまらなそうしていて、すでにメラウを咎(とが)める気は無いようだ。
「う……くっ…………」
 流石(さすが)のタガルも、これ以上は無理だと悟ったのか、何も言わなくなってしまった。
「すまないなメラウさん、変な因縁つけて」
「ああまったくじゃ。確証も無いことを理由に押しかけてしまって」
 観客たちは、自分たちが悪かったとメラウに詫びを入れる。
 賭けに負けたために起きたメラウへの怒りも、元はただの腹いせだったので、メラウが悪くないのが分かるとあっさりと引いていった。
「いいっていいて、あのタガルの馬鹿が悪いんだから。気にしないで」
 メラウも観客たちに対しての怒りは無かった為、簡単に許している。
「さて、それじゃあ俺たちはまだやることが残ってるから」
「そうそう、まだな……」
 そう観客達が言うや否や、タガルが取り囲まれる。
「さて……これからどうなるか分かってるよな?タガル」
「逃げられねえからな」
「安心して病院送りにしてやるよ」
 百人ほどいるの観客から殺気があふれ出す。どうやら怒り自体は収まっていなかった様子である。
「え?あ、そ、その……」
 タガルもこの人数の殺気に尻込みする。
ところでメラウはどうしたかと言うと。
「んじゃ、後始末がんばってね~」
 などと、右手をヒラヒラと振りながらさっさと歩いて行ってしまった。
「じゃあ、覚悟はいいか?」
「え~と、その~……許しては……」
「もらえると思うか?」
「もういい、殺るぞ!」
『おーう!』
 観客達がタガルに一斉に飛び掛る。
「ま、待て話せば、話せばきっと分かち合えるからって、うぎゃあーーーーーー!!!」
 こうして、夜が更けるで、近隣一帯にタガルの悲鳴と断末魔の叫び声が轟いたという。



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