秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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メラウとバリセラス2
 二人の人間が対峙している。
 片方は、飾り気が無い代わりに動きやすそうな服に身を包んだ少女。
 もう片方は、筋骨(きんこつ)隆々(りゅうりゅう)で身長190cm以上もある大男。
「せい!」
 少女が気迫と共に拳を放った。
それをまともに受けた大男は、鈍い音を響かせながら吹き飛んでいく。
「タガル選手ダウン!」
 周りにいる観客が息をのむ中、試合続行可能かどうか確認するために、審判がタガルと言う選手に近寄る。
 だがタガルという選手は完全に沈黙していて、動く気配がない。取り敢えず審判は頬を軽く叩いてみるが、やはり反応がない。
 行動不能と確認した審判は、試合を止めるべく、敗者の名とその理由。そして、勝者の名を告げる。
「タガル選手試合続行不能。よって、勝者メラウ!」
 審判の判定が出ると、周りにいた観客からざわめきが起きる。だがその刹那、
「や……やった…………やったー勝ったーーー!」
「本当に勝っちまった。夢みたいだ!」
 と歓喜する人と、
「なにやってんだテメェ!そのデカイ体は飾りかカスが!」
「んな小娘に一人相手に負けてんじゃねーよ!」
 逆に怒り狂っている人もいる。
 それもそうだろう、ここは『リーア』という町の格闘場。あまり大きい町ではないが、それなりの規模の闘技場である。そのため当然賭け事が起こる。というより、賭け事をするために闘技場を開いているようなものだ。だから勝ち負けが出るのは当然だ。勝つ人がいれば負ける人がいる。それが賭け事なのだから。
 だが比率は怒り狂っている人の方が圧倒的に多い。観客は全員で5千人ほどいる。その中の約9割くらいだろうか。いやもっといる、だいだい95%くらいだろう。
 なにせ歓喜している人は、怒り狂っている人の間にちょこちょこ見られるくらいしかいないのだ。
 ではなぜそんなに怒り狂っている人のほうが圧倒的に多いのか。その理由は当然ながら試合をしていた選手にあった
 まず一人目は、今現在運び出されようとしている選手『タガル・ガッドス』。長身で筋骨隆々なのは先ほど述べた通りだが、この選手は51勝3敗2分で、しかも現在43連勝中というとんでもない成績を持っている選手だ。
 そして。
「イェ~イ。どうもどうも~♪」
 などと言いながらポーズをしていて、どう見ても負けた観客を挑発(ちょうはつ)しているようにしか見えない行為をしている、もう一人の選手『メラウ・クレメーア』。この選手は先に述べた通り少女で、見た目はお世辞でも強そうとは言えない。なぜなら、女性としてはとても好ましい体形ではあるが、どちらかというと華奢(きゃしゃ)な印象の方が強いからだ。身長は168cmと、女性で言えばやや長身ではあるが、相手が190以上もあるような大男だ。どう頑張っても小さく見えてしまう。
 大抵これを見たのなら、普通はタガルの方に賭けるだろう。メラウに賭けるのならば、勝ったときには膨大(ぼうだい)な金額を受け取ることができるが、相当なリスクを伴(ともな)う。そのため、メラウに賭ける人はよほど切羽詰った人間か、もしくは大穴狙いのギャンブル狂、そうでなければただの馬鹿だ。
 だがメラウは勝ってしまった。大半の観客の予想はむなしく、しかも見たところ全くと言っていいほど無傷。これではタガルに向かって観客が怒鳴るのも当然だろう。
 やがてメラウが控え室に戻りタガルが運ばれていくと、観客も興味が無くなったように怒鳴るのを止め、ぞろぞろと闘技場から出始めた。



「いや~儲かった儲かった」
 メラウは闘技場から受け取った賞金入りの袋を抱え、嬉々として道を歩いていた。
喜ぶのも無理はない。なにせその賞金は2000セイル。分かりやすく言えば、日本円で約200万円程度の感覚だ。うれしくない訳がない。
「さて、これからどうしようかな~。お腹もすいてきたし、しばらくは豪華なものでも食べて、怠けてますか。でもそれじゃあ体が鈍(なま)るわね~」
 アハハハハ~と笑いながら、近くの食堂に入っていく。因みにメラウが入った食堂は、お世辞にも高そうな店とは言えない、いかにも庶民的な食堂である。
 店に入ったメラウは、空いている席に座り何を食べようかと、壁に下がっているメニューを眺める。
「う~ん。どれにしようかな~。よし、お金も有るんだしどうせなら……。
 すいませーん。ここのメニューにあるもの全部くださーい!」
「あ、はーいかしこまり……へ?」
 近くにいた女給(じょきゅう)が応対しようとするが、あまりの注文に素(す)っ頓狂(とんきょう)な声を上げて固まってしまう。
 全部?ありえない。メニューなんて20品以上あるのだから、1人で全部食べるなんて無理だ。それに、どれもあまり高くない物だとはいえ、20品も頼めば結構な金額になる。たった一食分でそんなに使うのならば、燃費(ねんぴ)が悪すぎる……。
 だが自分の聞き間違いだと思い、失礼だと思いながらも聞き返してみる。
「申し訳ありませんが、もう一度ご注文よろしいですか?」
「だから、ここのメニューにあるやつ全部」
「……」
 どうやら間違いではないらしい。女給は少しの間、止まった。
 だが注文は注文だ、拒否をする理由は無い。
「かしこまりました。メニュー全品ですね……」
 営業スマイルを浮かべながら復唱し、女給は厨房へと向かっていく。
「おねがいしま~す」
 と、メラウは女給に向かってニコニコしながら、ヒラヒラと手を振っている。
「注文はいりました。メニュー全部、お願いします。」
「あいよ……って、はい?今なんて言った?」
「だから、メニュー全部お願いします」
 やっぱりこうなるよな~と思いながら、女給は説明を始めた。
 さてさて、女給の苦労と作った当のメラウはといえば。
「くおー……くかー……すぴー……」
 椅子に体を預けるようにして寝ていた。
というより完璧に熟睡している。しかもその手には、しっかりと賞金入りの袋を握っている。間違いなく引っ張っても奪えないだろう。
 いくらなんでも注文してから5分もたっていないはずなのに、完璧に寝入っているのはいろいろな意味で凄い。
 なにせ周りにいる者は、ほとんどメラウのことを眺めている。やはりそれだけ物珍しいのだろう。
「すげ~な~あの娘。オレ声掛けようかな」
「おいちょっと待てよ、なんでお前が行くんだよ。オレが行く」
「なに言ってるのよ、きっと何人も彼氏いるわよ。いいわね~きれいな娘は」
 ……どうやら違ったらしい。眺めている人間は皆、珍獣を見るような目ではなく、男性と一部の女性は羨望(せんぼう)の目で。残りの女性は敵対心むき出しの目でメラウのことを眺めている。
 今までのメラウの行動を見ていると、あまり美しいだの綺麗だのといったイメージは無いが、実は相当な美女だったりするのだ。
 手足は細くて長い。体は痩躯だが胸と腰はどちらも申し分なく、武道家なので背筋も伸びている。髪はつややかな黒髪で、腰まで届く長髪を一つにまとめている。そして顔の造型はとてもよく整っており、かわいいというより、美しい寄りの顔だ。そのため、化粧を施しドレスを着せ、どこぞの貴族パーティに出し黙らせておけば、何の違和感も無く通用するだろう。メラウにそれができれば、の話だが。
 だがメラウが美しい女性であることは確かなので、さまざまな人が彼女に見とれるのだ。
 と、ここでメラウに近づく男が現れた。周りの男は、遅れをとったとばかりに立ち上がるが、その男の方が明らかに早い。
 男はメラウの横に立ち、声をかけようとした、刹那。
「そこのお嬢さ……」
「せいやぁ!」
 突然何の前触れも無く起き上がったメラウは、横に立ち声をかけようとした男の顔面に拳をめり込ませていた。
 いや、めり込ませたのは一瞬で、男は数メートルほどテーブルと店の客を巻き込んで吹き飛んで行く。
『…………』
 数秒の間周りが凍りつく。それも何かを決定的に破壊しながら。
 その数秒ほどの時間の後、立って凍りついていた男達が、意気消沈し脅えながら自分の席に戻る。自分の席が吹き飛んでいた物は回収しに行く。吹き飛んでいった男はピクリとも動かない。しかも何故か誰も助けない。そしてメラウは、何事も無かったかのように再び寝息をたてている。
 条件反射なのか、それともただ寝ぼけていただけなのかは分からない。おそらくメラウは殴ったことを全く覚えていないだろう。
 やがて注文したメニューが運ばれてくると、いつの間にか目を覚ましたメラウが、幸せそうにそれらを口に運んだ。



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