秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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メラウとバリセラス1
第一話 メラウとバリセラス


 太陽から燦々(さんさん)と光が注がれている。風も微風で心地よく、街道の端では1匹の猫が気持ちよさそうに昼寝をしている。なんとも長閑(のどか)な風景だ。
 ここは『サヌ』という人口数千人程度の田舎町で、野生動物などが攻めてこない限りは平和だ。
 猫は大きく欠伸をする。
少々暑くなってきたのか、徐(おもむろ)に起き上がると、伸びをしようと前足を突き出す。瞬間、猫はまるで漫画のように飛び上がった。
それは。
『うお~~~~~』
 などと街中で雄叫びが轟いたのだ。しかも1人や2人ではなく、周りにいる人間全員から発せられている声で、形成されている。
 猫は一目散に逃げた。それこそ脱兎のごとく。身の危険を感じた訳では無いだろうが、地響きのように鳴り響く声の横で今まで通り寝ることは出来なかった。
 さてさて、その人間たちは何故それほど騒いでいるかと言うと。
「これでこの町は救われた!」
 からである。

 時間は少しさかのぼり、約1時間前のこと。
「あの教会が寄生していた町はここか……」
 腰に剣を差し、軽甲冑に身を包んで肩に中年男を担いだ少年、バリセラス・ガルガートは町の入り口で汗を拭いつつ呟いた。
 バリセラスは男1人を担いで移動していたので、流石に疲れていた。
 取り敢えず適当に叫んで、この男を引き渡す為に町の自警団の場所を聞くことにする。幸い、男一人担いでるだけあって人目が多く集まっている。
「この町に寄生している教会、その大神官リィーキ・シジンを倒し、連れてきた。自警団等の組織団体を呼んでくれ!」
 バリセラスはそう叫び、担いでいた男を目の前に放り投げる。
 人々からざわめきが起こった。
 近くにいたリーダー格らしきおばさんが、バリセラスを睨みながら口を開く。
「あんた、本当に倒してきたのか?うちらを騙して金を取るつもりじゃないだろうね?教会だよ教会。分かってるのかい?」
 教会というのは、竜を神の使いとして崇めている、大宗教「コルド」の末端施設である。コルドとは世界最大の宗教でありとても信者が多い。町からは献金という名目で金をもらい、害を成す野党や野獣などから町を守っている。信者が多い大きい街などから見ればとても助かる宗教だ。
 しかしその内容は、信者がいない小さい村からしてみれば理不尽なものが多い。
 例えば、「竜は殺してならない。殺したのならば、その者に相応の罰を与える」というもの。罰というのは大体が罰金なのだが、その額はやや高い。
 基本的に町を襲う野生動物の5割ほどが竜の類なのだ。しかも竜は普通の動物よりも強く、殺すだけでも被害が出る。それを殺すなといわれるのである。無謀もいいところだ。
 その他にもさまざまな制限が掛けられているため、信者以外は嫌っている。
「その男も、隠蔽系のO・Hで化けた偽者じゃないのかい?」
 他の人間も同じような目でバリセラスを睨んでいる。コルドというのは、世界最大というだけありそれほどまでに強大な組織。「倒した」と言われても、にわかに信じられないのは当たり前なのだ。
「嘘だと思うのなら、手錠(スィール・パルス)でも付けてみるといい。一つくらいはあるだろう」
 人間は必ず何か能力を備えて生まれてくる。その能力は人それぞれ違う。
 人間は普通の赤い心臓こと『赤臓(せきぞう)』の他にもう1つ、白い心臓こと『白臓(はくぞう)』を持っている。その心臓は、特殊能力を使うため体に透明な血液を送り出す心臓。
自分1人だけの特別な能力、自分1人だけの特別な心臓。それ故にO・H(オリジナル・ハート)。
 しかしそれがあるので、通常の拘束具では意味が無い場合がある。手錠(スィール・パルス)と言うのは、逃げ出さないようO・Hを抑制するため特殊な素材で作られた拘束具である。かなり高価なので、小さい町などでは数が少ないのだ。
「……分かった。自警団を呼んでくるよ、少し待ってな」
「頼む」
 そう言い、リーダー格らしきおばさんはこの場を去っていった。
 ひとまず休もうとバリセラスは男をその辺りの人に任せ、この場を離れようとした。すると、
「待て」
 という声に引き止められた。
「お前本当に教会とやりあってきたのか?そうだったらさぞ強いんだろうなぁ」
 声をかけて来たのは、いかにも不良やってますと身で表わしているような若者だ。
「ちょっとオレ達も腕に自信があるんだよ。どうだ、オレ達と勝負してみねぇか?」
 言われてみると、その若者の周りには数人ほど同じような若者が並んでいる。どうやら教会の頭である総司を倒したと聞いて、腕試しをしたいようだ。いや、バリセラスが嘘を言っている雑魚と決め付けて、袋にしようと考えているかもしれない。コルドには散々痛い目を見ているのは、彼らも同じだからだろう。
「断る」
「なんだ、怖いのか?」
「どうせこいつはペテン野郎の弱虫なんだろうぜ。俺らと戦ったら泣いちまうぜ」
「そうだな。ぎゃはははははは」
 よってたかってバリセラスに絡む若者たち。見た通りの驕(おご)りがあるのだろう。
「くだらん」
 バリセラスにとっては心底くだらなかった。元々彼は好戦的な人間ではないし、町の人間と戦う気はまったく無いのだ。しかし、
「んだとコラ?」
 その態度が若者達から見れば気に食わなかった。空気はどんどん険悪になってゆく。若者たちはバリセラスを取り囲み、周りに居た人々は巻き添えを受けぬよう、後ずさりしてゆく。
「くだらん?てめぇみてぇのが教会倒せる訳ねーって言ってんだよ。ほら吹くんならもっとマシなもん吹いてみせろよ!」
「特に嘘をついているつもりは無い。それを調べるために今自警団を呼んでいるんだろう。もう少し待て」
 バリセラスは冷静に正論を言う。しかしその正論が若者達の神経を逆撫でしていく。
「この野郎!」
 とうとう若者の一人がバリセラスに向かって殴りかかる。力任せに拳を突き出しているだけだが、まともに当たればなかなかな威力があるだろう。
 バリセラスは体を半身にすることでその拳をかわし、一歩間合いを詰める。そのまま足を前に出すと、若者は面白いように足を引っ掛け、転倒する。
 周りから見れば、若者が石にでも躓いたようにしか見えない。他の若者達もなにが起こったか分っていないようであった。
 余計に怒らせたのだけは確かだろうが。
「これでも喰らえや!」
 そう叫んだ男の指の間から、バリセラスに向かって何か弾丸のようなものが飛来する。これまた軽く避けるが、そばにあった木に幾つかの小さな穴が穿たれる。
「射出系のO・Hか……」
「当たりだ!そらそら!」
 ―ダンッダンッダンッ―
 先ほどよりも倍の数の弾丸が襲い掛かる。
「……」
 どんな動体視力か、バリセラスは避けつつもその弾丸を掴み取る。その弾丸は、土で出来ていた。
 よく見ると、攻撃してくるのは1人だけであり、他の人間は横でいそいそと何かをしている。
 まず一番左の男が塊を自分の右側にいる男に渡す。渡された男はその塊を小さくして右側にいる男に渡す。次に渡された男は小さくなった塊に何かを施し更に小さくし、一番右端の男に渡す。最後に渡された男が、その塊を指に挟めて打ち出している。
 見た目のわりに地味な作業だ。
「……」
 右端の男が受け取る瞬間を見計らって距離を詰めていき、腹に拳を突き入れる。
 狙った通りに拳が決まり、男は気を失って倒れた。
「……気が済んだか?」
 バリセラスはどこか面倒臭そうに立って他の男達を眺めている。
「あ……」
「マジか……」
「おい嘘だろ?兄ちゃん」
 攻撃役がいなくなって一気に戦意喪失している。とそこへ、
「連れて来たよ。おや?何してんだい?」
 丁度先程のおばさんが帰って来た。辺りの状況を見て首を傾げている。
「俺よりこいつらに聞いた方が良いだろう」
 バリセラスは「ふぅ」と息を吐いた。


 数分ほど経って、おばさんが事情を聞き終えたとき、
「あはははは。ごめんなさいね」
 と笑いながら頭を下げた。
「この子達はこんな身なりでも真面目な子達でね。あんたのことを悪者だと思ったんだよ。許しておくれ」
 聞けばあの若者たちは地元での有名人で、なかなか腕の良い5人兄弟の猟師らしい。
それぞれのO・Hを用いて狩をするのが仕事だそうだ。
 兄弟の末っ子が土を掘って取り出し、四男がそれを一瞬で等間隔に切り、三男がそれらを圧縮して、次男が打ち出すと言うことらしい。ちなみに一番最初に殴りかかってきたのは長男で、役割は探索だそうな。
「別にいい。それよりも宿を探しているのだが」
「ああそうだね。でもちょっと待っておくれ。もうすぐ結果が出るみたいだから」
 そう言って後ろを振り向く。そこには鎧を着た数人の男たちが険しい表情でリィーキを取り囲んでいた。
 それからしばらく待っていると、結果が出たらしく1人の男がこちらに歩いてくる。
「結果が出ました」
「どうだい?」
「はい。サミナルコ王国シルガ半島サヌ村付属教会、その大神官「リィーキ・シジン」に間違いありません。そして教会に確認の為に人を送ったところ、建物がほぼ全壊とのことです」
「え、つまり……」
「教会が滅んだ、というこです!」
 少しの間、村の時間が止まった気がした。気がついたときにはすでに、
『うお~~~~~』
 という雄叫びが轟いていたのだった。


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