秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
プロローグ
プロローグ

「報告します!」
 手に細身の剣を持ち、全身鎧で身を固めた男が慌ただしく部屋の扉を開け叫ぶ。
 部屋には30代半ばほどの男が机で書類整理をしている姿があった。男は書類から目を離し、部屋に入ってきた男。自分の部下を不服そうな目で眺めている。
「なんだ騒がしい。剣など抜いて、町で暴動でも起こったか?」
 男はあまり興味がなさそうに言い放つと、再び机の書類に目を移して黙々と作業を続ける。
「侵入者。いえ、突入者です!」
 部下は洒落を利かせたつもりで叫んだ。いまこの場所で起こっている出来事は、まさしくそれなのであったからだ。
 しかし部屋にいた男は、部下の焦りなど本気にしていないため、書類から目を離さない。
「突入者?……お前は俺を笑わせに来たのか?面白くもない冗談を考えている暇があるなら、見回りにでも行ってこい」
 付き合ってられんとばかりに部下に退出を命ずる。だがその瞬間、男は部下の言っていた事が真実だと嫌でも知ることになる。
 自分の横を、何かが鈍い音を響かせながら通り過ぎていき、後で潰れるような物音を聞いた。
 一瞬の間の後、嫌な予感が体を走り抜ける。
 男は恐る恐る首を後ろに曲げると、そこには今まで自分に報告をしていた部下が転がっている。悲鳴が聞こえなかったと言うことは、その一瞬の時間さえ与えられずに吹き飛ばされ為であろう。
 全身から汗が滝のように流れ出す。
 今度は恐る恐る前を向くと、一人の少年が立っていた。今まで部下がいた場所と同じ場所でこちらを睨んでいる。
 適当に切り揃えたような蒼い髪に、なかなか美形な顔つき。体には襷(たすき)の様に鎖が付いている軽甲冑を纏い、右手には反り返った片刃の剣が握られている。
 “怖い”それが少年を見た男が、心の中で始めに浮きでた感情であった。
 少年は殺気を放っているのだ。近付いただけで切り殺されそうなほどに異様な殺気を。
 このままでは殺気に飲み込まれてしまう。俺はこの『教会』で最も強いんだ、こんなガキに負けてたまるか。
 男は恐怖を押し込め、腹に力を入れて少年を見据える。
「貴様は一体何者だ」
 恐怖を押し込め、少年を問う。
「お前がここの『教会』の大神官か?」
 少年は男の誰何など全く聞いていないような様子で、逆に問うてくる。
 男は頭にかなりの量の血を頭に上らせるが、必死に冷静さを保つ。
「そうだ、俺がここの大神官だ。もう一度聞く、お前は何者だ」
 普通の人間ならば、すくみ上がるほどの凄みを込めて言い放つ。
 しかし少年は。
「さあな」
 と、全く効いている様子もなく返す。
「お前が大神官だと分かればそれでいい。後は町に引き渡すだけだ」
「引き渡す?まさかお前、俺を……」
 言い終わる前に少年が動いく。凄まじい速さだ。
「うお!」
 間一髪ではあったが、何とかかわす。
 男は一瞬怯む。しかし一呼吸置き、相手の能力が何かを考え、そして自分との能力の相性を考えると、自分の有利さに笑った。
「ほう、成る程。その動き、どうやら速度上昇系のO・Hのようだな。そんなもので俺は斬れんぞ」
 一瞬にして、少年に対しての恐怖が消え失せる。完全に目の前に立っている少年より自分の方が有利だと決め付けているのだ。
「……そんなもの、やってみなければ分からないだろう」
 少年の言葉に、男は更に声を上げて笑った。
「はっはっは、やってみなければ分からないか。やってみろ、斬れるものならな!」
 男は自らの能力を発動し、少年に襲い掛かる。見たところ、ただ力任せに殴り掛かっているようにしか見えないのだが。
――ズガン――
 少年が今まで立っていた場所に、穴が一つ出来上がる。
 少年は軽々しく避けたが、もし命中していたら、それだけで致命傷になっていただろう。
「肉体強化系か、もしくは対象軟化系か?」
 少年は男の能力を冷静に分析している。恐怖感など欠片も見当たらない。
「教えてやろう、俺のは『身体を鋼に変える』O・Hだ。ただの斬撃など効かない。刃こぼれするだけだぞ。『鉄壁』の二つ名で呼ばれているくらいだからな。それでもやるか?」
 調子に乗って男はいろいろと口走っている。この時点で自分が大変なミスをしているのに気付いてない。
「随分と自分の力に自身があるようだな。斬れるか斬れないか、やってみるか?」
 そう言って少年は一気に間合いを詰め、斬りかかる。男は自分の力を見せ付けるために、避けようなどと考えてはいない。
 そして少年の剣は男の身体に触れ、弾かれることなく振り抜かれる。
「ぐわっ!」
 斬られないことに絶対の自信を持っていた男は、驚愕をその顔に刻み、血を流しながら片膝を付く。
「馬鹿な……まさか本当に、俺の身体を斬るなど……」
「お前のような人間が、よく大神官になれたものだな。普通いくら自信があっても、戦いの中で自分のO・Hを、堂々と人に教える愚かな奴もいないぞ」
 少年は男に背を向けて淡々と告げる。
 そう、O・Hとは人間なら誰しもが持っている力。その能力は人それぞれ違う。そのため、戦いではいかに自分の能力を知られずに倒すかが、問題となるのだ。
 それにもかかわらずこの男は、自分のO・Hを少年に教えた。つまり弱点を叫んだのと同じ事なのだ。
「待て……何故だ、何故俺を斬れた……ただの速度上昇系なら無理な筈だ……」
「誰が速度上昇系だと言った。そう見えるほど速く動けるぐらいに、修練を積んだだけだ」
「じゃあ、何だ……?」
 少年は少し迷った後、答えた。
「俺のO・Hは『金属を自由自在に操る』。お前の持つ『身体を鋼に変える』O・Hからみれば、天敵中の天敵だ」
 男はそれを聞き、自分の愚かさに後悔した。
「成る程……俺の身体すら、金属として操ったと言うわけか……クソッ……」
 そう言い残して倒れようとする。しかしそれを少年に止められる。
「待て、一つ聞きたいことがある。お前らの組織に、透明な剣を使う男を知らないか?」
「透明な剣……?」
「そうだ」
「ふん、宗教内部を簡単に教える訳がないだろう」
 少年は男の手に剣を突き立て、脅す。
「この場で拷問しても構わないぞ?吐くまでな」
「……分かった。俺の知ってる限りでは、ここから……南にある『リーア』という町の……近くにある『教会』に、そんな能力を持った奴が、いる……」
 そこまで言うと、男は気を失った。
 少年は男を抱え上げ。
「『リーア』か……」
 と呟き、この場を後にした。


 少年が『教会』の部屋を出た後、部屋の一角が陽炎のように揺れる。
「……相変わらず随分と無茶をするな」
 その中から、こもった声の黒い髪の男が現れる。目元しか穴の無い仮面を着けているため、声がこもっているのだ。
ただ分かるのは、その穴から見える鋭い眼光と、隙の無い佇まいだ。服も黒一色で統一されているため、闇をまとっている様にさえ見える。
「幻光壊(げんこうかい)」
 ポツリと呟く。刹那、男の周りの空間から眩い光が迸(ほとばし)り、『教会』と言われていた建物の半分以上が崩れていく。建物の中に残っていた人間を巻き込んで。
「これでここも終わりだな」
 またポツリと呟くと、少年が歩いていった方角に向かってゆっくりと歩き出す。
 とそこに、呻きながら助けを求めている者を発見する。先ほどの少年が、吹き飛ばした全身鎧の男だ。下半身が完全に瓦礫の下敷きになっている。
黒髪の男が『教会』を破壊した際に、巻き込まれたのだろう。
「たす……け……」
 この黒髪の男が、自分達の『教会』を破壊したとは気付いてないのだろう。必死に手を伸ばして、男に助けてもらおうとしている。
「……死ね!」
 鎧の男の首が飛ぶ。黒髪の男は何もしていない。ただその場に立っているだけだ。
「お前達が……お前達さえいなければ……」
 過去に何かあったのか、深い憎しみが渦巻いているようだ。
 頭を軽く振り、憎しみを散らすと、またゆっくりと歩き始める。もう周りに生きている人間はいないようだ。
 『教会』の残骸をもう振り返ることは無かった。ただ最後に、
「一体、いつまで」
 とだけ呟いた。




続きへ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。