秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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エピローグ
「んんー……」
 怠い。とにかく怠い。
 どうやら少しばかり寝過ぎた様だ。怠過ぎて目を開ける気力も沸いて来ない。
 しかしそういう訳にも行かないだろう。起きたばかりで寝ぼけているとはいえ、意識があるということは、起きねばならない。
 仕方ないので目を開けると、何故だか目の前には若い女性の顔があり、しっかりと目が合ってしまった。
「……誰だ?」
 と、思わず誰何するリィーキ。
「気が付いたのですね」
 しかしリィーキの誰何なぞ、聞いていないのか、女性は顔をほころばせている。
 何か心当たりは無いかと頭を働かせることで、少しずつ寝ぼけていた意識が覚醒し、自らの記憶の中から女性の名前と顔を掘り起こした。
「ああ、サナリィだっけか。村長の娘さんだったな」
 その女性とは、自分がハガラズの群れから救った人物であるようだ。
「はい、あの時は有難う御座いました。まさか助けてくださったのが、元大神官のリィーキ様だと聞いたときには驚きましたけれど」
「そりゃなぁ。相手は竜な訳だし、普通は夢にも思わないだろ」
 などと言いながら、身体を起こす。どうやらベッドの上だった様だ。しかし、身体の傷は治りきっていないらしく、鈍痛がせり上がって来た。
「痛てて……」
 そんな様子を見て、サナリィは心配そうにリィーキに触れる。
「まだ横になっていないと駄目ですよ。ネィグ先生に治療してもらって3日間ほど眠り続けたとはいえ、まだ完治していないのですから」
「そうか……って、3日!?」
 どうやら余程体力を消耗していたらしい。気を抜いたら血が吹き出て倒れた所までは覚えているので、そこから寝続けたのだろう。
「目覚めだけは良い、ってのは自慢だったんだがな……まあ、それは置いておくとして、シルグを呼んで貰えねぇかな?」
「その事なのですが……」
 リィーキは何の気なしに訊いたのだが、サナリィは少し表情を曇らせながら説明をした。
 サナリィの話によると、シルグはもうサヌ村にはおらず、既にリーアへと発ったらしい。
 サヌ村でリィーキの回復を待っているより、先にリーアで情報収集などを行いながら待つというのだ。
「確かに合理的っちゃ合理的だな……」
 とは言え、置いてきぼりを食らったのは間違いない。少しばかり気を落とすリィーキであった。
「それでシルグ様からの言付けなのですが、『私は先にリーアで待っている。動けるようになったら、なるべく早めに後を追って来い』だそうです」
 しっかりと言付けを頼んである所を考えると、それなりに気を使ってくれたのだろう。
「そうか。3日も待たせたんじゃ、早く行かねぇとな」
 痛みは無視し、ベッドから降りる。
 上半身は裸で、包帯は既に取れたらしい。見たところ大きな痕(あと)は出来ているが傷口は完全に塞がり、後は痛みが引くのを待つだけのようだ。
「大丈夫なのですか?」
「ああ、このくらい問題無いさ」
 サナリィが心配そうに見守る中、リィーキは笑顔を作って見せた。釣られてサナリィも笑う。
「あの……リィーキ様」
「何だ?」
 リィーキがベッドの横の机に折り畳んであった服に袖を通していると、サナリィはなにやらもじもじとし始めた。
「いつか……またこの村に来てもらえませんか……? 私、待っています」
 言われてきょとんとしたリィーキだったが、「分かった」と頷く。それを聞くと、サナリィは顔を真っ赤にする。
「有難う御座います! あ、お腹空いていますよね。今御用意致しますから!」
 そうして弾むような笑顔となったサナリィは、同じく弾むようにして部屋を出て行った。
 残されたリィーキは、サナリィが出て行った戸を見ながら。
「ま、大神官って怨まれるくらいは覚悟してたが、慕われてるっぽくて良かったな」
 などと独りごちるのであった。



「ほい終わり」
 コクロウの民宿のダイニングの椅子にバリセラスを座らせて治療していたメラウは、そう言ってバリセラスの背中を、バシンと叩いた。
「……助かった」
 全身の傷を治して貰ったとは言え、今の一発がかなり痛いらしく、顔を顰めながらバリセラスは礼を口にした。
 セグラを倒した後、バリセラスは身体を引きずりながらメラウの居るところまで歩いた所で力尽きた。その後は聖印の無い神官たちに保護されて、コクロウの民宿に運ばれたのだ。
 メラウはバリセラスの治療をするため、一緒に付いてきたのである。
 既にあれから半日以上経っており、もう真夜中である。現在セネラやコクロウの様な反コルドの人間は、後始末の真っ最中なのであった。
 コルドの人間を全て拘束し、レルの実栽培に加担していた町民の検挙も行う必要がある。かなりの大仕事であり、そう簡単に終わりそうも無い。カイシも、今はそちらの手伝いを行っているようだ。
「……メラウ。お前は変だとは思わないのか」
 唐突に、バリセラスはメラウに質問をし始めた。メラウは何の事かさっぱり分からないらしく、首を捻って疑問符を頭に浮かべた。
「変って、何がよ」
「あまりの手際の良さに。だ」
 やはりバリセラスが何の事に対して言っているのか分からず、浮かべている疑問符を更に増やすメラウ。そんな姿を見て、バリセラスはため息を吐きながら話を続ける。
「完成されていた下準備、攻め入る段取り、そして実際の行動。飽く迄も本来、俺たちは唐突に訪れた異分子な筈だ。それなのにも関わらず、事が上手く運びすぎている。俺は、最初から全て計画に入っているかの様な動きに思えてならない」
「んーでも、誰がそんな計画立てるのよ」
 バリセラスの言うことは分かるが、そんな計画をするならかなり手の込んだ手回しが必要になるだろう。
 なら、誰がそんなことをするのだろうか。
「カイシだ」
 しかしバリセラスは即答した。
「何でカイシ?」
「……アイツは何かを知っている。知っている上で、行動している。目的は分からないが、確実に何かを企んでいる」
「……」
 バリセラスの真剣な雰囲気に飲まれ、思わずメラウも深刻な顔になる。だが、直ぐに馬鹿らしくなり、普段どおりの顔に戻る。
「ふーん、まいいや。ところでさ、これからどーするの? 反コルドに入って活動?」
 メラウの様子を見て、バリセラスもやや気を緩める。
「いや……俺は反コルドに入る積もりはない」
「んじゃどうするのよ」
「恐らくこれからも、カイシは何か言ってくるだろう。だから、それに乗ることにする」
「うい!? 何か言ってることおかしくない?」
 バリセラスの言葉に、今までで一番大きな疑問符を浮かべるメラウ。
 先ほどまでの言葉を聞いてると、カイシを危険視しているという風にしか聞こえない。なのに敢えてカイシと関わろうと言うのだ。
「……所々で不穏な言動は多いし、実際信用できない。しかし……何故か敵意は感じない。それに、一度関わってしまったからには、ここで終わりと言う気もしない」
「よーするに、『毒を食らわば皿まで』って事?」
「そういう事だ」
 椅子から立ち上がり、ダイニングから廊下へ出ようとするバリセラス。
「どっか行くの?」
「今日はもう疲れた。寝る」
 メラウの質問に答えた後、バリセラスは廊下に出て、ベッドのある部屋へと向かった。
「私は何か食べてから寝よっと」
 一人になったメラウは、食べ物を探して民宿内を漁りに出るのであった。
 
 
 反コルドの人間が、コルドの神官達や町民達を拘束していく姿を、大教会内の窓から眺めながら、カイシとセネラは椅子に座って休んでいた。
 部屋は薄暗いが、月の光が窓から差しているので、明かりが無くとも良く見える。
「皆さん良く働いてくれますねぇ。僕なんか、もう疲れて動く気もありませんよ」
 などと、気の抜けた感想を述べるカイシ。
「よく言うよ。あんた一人で何人殺したさ。少なくとも全体の1割は行ってるよ」
 呆れながら、セネラはカイシを眺めた。顔は相変わらず微笑で、何を考えてるか分からない。
「ソルスク連合王国第1特務部隊隊長補佐官、送風のセネラにお褒めいただけるとは、光栄の極みです」
 手に持った酒を傾けながら、気楽そうにしているカイシを見て、セネラは軽く息をついた。
「全く……あんたには適わないよ。あたしは国から派遣されてきただけだけど、今回の事は殆どあんたが決めて仕切ってたんだろ? 手回しして最初から最後まで、ほぼ全部。一体どこまで知ってるんだい。コルドも反コルドも含めてさ。内情知らなきゃ、こんな作戦立てられないよ」
「いえいえ、滅相も無いですよ。僕はただの情報屋ですから」
 飲み干した酒が入っていた杯を、槍の変わりにくるくると手のひらで回しながら、暢気にのたまう姿を見て、訊くだけ無駄だとセネラは悟った。
 セネラも自分の酒を一気に煽ると、椅子から立ち上がる。
「もう行かれるので?」
「ああ。あたしは明日から忙しくなるし、国に戻らなきゃならないからね。今日はさっさと寝る事にするよ。あんたはどうするんだい?」
 するとカイシも立ち上がる。セネラと共に行くのかと思いきや、棚に置いてあった酒瓶を持ち上げ、空になっていた自分の杯に注ぎ始めた。
「僕はもう少し、外を眺めてますよ」
「……そうかい。じゃあね、またいつか会うだろうけどさ」
 肩をすくめながら、カイシに背を向けるセネラ。すると、掻き消えるようにして姿を消した。
「……一先ず、終了と言った所でしょうか」
 セネラが去った後、窓へ近付き月を見る。青白く光る月は、少々物悲しい。
「それにしても……あのセネラさんに気付かれないとは、流石と言えますね」
 誰も居なくなった筈の場所なのに、カイシは誰かに語りかけるようにつぶやいた。
「……それに気付くお前はどうなのだ、メストーノ」
 すると、月の光が当たるだけで何も無い背後から、仮面の男が現れた。
「おやおや、それ分かってて言ってません? 僕のファミリーネームはクレパイグです。メストーノではありませんよ。
 それで貴方は、何とお呼びすれば良いのでしょうか? なんなら本名で呼びますけれど」
 背後から現れた仮面の男の方を振り向くと、親しげに会話を始めるカイシ。
「シルグだ。これから暫くは、そう名乗ることになる」
「分かりましたシルグさん。ところで、シルガ半島だからシルグですか? 安直な名前ですねぇ」
 棚にある別の杯を取り、差し出すカイシ。
「……呼び名など、分かれば良い」
 シルグはそれを断り、今までセネラが座っていた椅子へ腰掛ける。
「……それで、これから貴方はどうなさるお積りなのでしょうか」
 今までの表情とは打って変わり、真剣な顔となるカイシ。気配も引き締まり、彼も本気で会話する積もりなのだろう。
「……お前に任せることにした。私は私で準備を始める。お前は、バリセラスを導いてくれ。
 あれは思慮深く見えて、短絡的な所がある。お前が守ってやってほしい」
 シルグは顔を伏せる。月の光に照らされて微妙な影となっている為か、心なしか仮面が寂しそうな表情に見える。
「唯一の肉親である弟を殺した、透明な剣を使う男に復讐を果たす。面白い話ですよね。何故女性に危害を加えられないのかも分からず、復讐の事ばかり考えているのですから」
「……」
 無表情で皮肉を口にするカイシに、シルグは押し黙った。
 そのまま顔を上げ、窓から見える月を眺める。それに合わせて、カイシも振り返って月を見上げる。
「三日月じゃなくて、残念ですか?」
 窓から見える月は、半月だ。カイシの言う三日月は、もう終わってしまっている。彼らにとって、三日月とは反コルドの象徴なのである。
「……カイシ・クレパイグ。お前はこれからどうする積りだ」
 互いに月を見上げた状態のまま、シルグは問いかけた。
「まずは、サミナルコ王国の首都へ向かおうと思っています」
「首都……エクセーナか」
「ええ。バリセラスさんにはまず、反コルド側の姿勢と理念を見てもらわねばなりません。そして少しずつ……コルドの持つ理想を、伝えて行こうと考えています。
 これからは大変ですよ。バリセラスさんが自分でO・Hなどを名乗っても問題無い様に、情報伝達を悉く潰して来ましたが、ここまでの事を起こしたんです。近い内には知れてしまうでしょうし、エクセーナに行く以上はもう隠せません」
「……そうだな。なら私は、コルド側の国に行く。暫くはお前と会うことも無いだろう。だから……バリセラスを頼む、カイシ・クレパイグ」
 そう言い残し、シルグは再び解けるようにして姿を消した。気配も消え、もう近くには居ないだろう。
「……分かりましたよ。最後まで、僕が守ります。命に代えても」
 完全に誰も居なくなった部屋で、カイシは月に向かって呟く。
 これからは道を示してやらねばならない。だた、それを悟られるのはまだ早い。まだ信用させてはならない。
 これはバリセラスが選ぶ道。人々が描くさまざまな想いを見て、一体彼は何を思い、何を得るのか。
 それは、誰にも分からないだろう。その時が来るまでは。
「それにしても……追加能力者(イーター)か……。この呼び方、僕は好きじゃありませんねぇ」
 自らの半身とも言えるべき親しい物の白臓を喰らう事で、ごく稀にその者のO・Hを受け継ぐ事が出来る。
 だが他人の命を喰らうことで得たその力を、得た者は蔑む様にして自らを喰らいし者(イーター)と呼ぶ。自らに刻み付ける様に。決して忘れぬ様に。
「貴方の得た力は、希望なのでしょうか、それとも絶望だったのでしょうか。それは貴方が決める事ですね」
 カイシは一気に手に持っていた杯を月に掲げ、一度深い笑みを作ってから、自らの口に運んだ。
 今夜は取り敢えず、ゆっくり酒を飲もう。


O・H~オリジナル・ハート~ 了
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