秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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鉄の剣と水の爪 4
(ここ……までか……)
 迫ってくる水の柱を見ながら、バリセラスは死を覚悟した。自分の能力は基本的に接近戦だ。壁まで吹き飛ばされた今、どう足掻いても攻撃は届かない。
(俺は、結局弱かっただけなのか……)
 目の前で唯一の肉親を殺され、怒りに任せて剣を取った。
 しかしあの時も、透明な剣を使う男に負けた。
 何の思惑が有ったのかは分からないが、あの時殺されずに今まで生きていた、
 だからせめて、一矢だけでも報いようと無駄な足掻きを今までやってきた。
 わざと自分の名前や能力名を大きく出し、あの男の耳に少しでも入れば、また相見(あいまみ)えるかも知れないと。
 だがもう、ここまでの様だ。

『バリスさん。『馬足頼りて目途(もくと)を損ずる』、という諺は知っていますよね?』

 諦めて死を受け入れようとした時、頭の中で最も信用できない人物の声が聞こえた。いや、ただ記憶の中にあった言葉が幻聴として聞こえたのだろう。
 この期に及んで、まだ自分は生きる意志があるらしい。
(馬足頼りて目途(もくと)を損ずる……プライドや過程を優先すると、その先には失敗が待っている……か……)

『貴方には、死んでもらっては困るのです』
 
 頭の中で聞こえるのは、昨日バリセラスが一人で乗り込もうとした時に、カイシが発した言葉。そう、此処で死を選べば、反コルドの人間も全滅するだろう。
 それにまだ、復讐を果たしたどころか、目的の男に剣を向けてさえいないのだ。
(……死ぬ覚悟くらいは、出来ているつもりだったんだがな……まだ……俺は死ねない……)
 それにしても、死に掛けの時に思い浮かぶ人物があの男なのには辟易ものだが、今死んでも意味が無いのは確かだ。
 だがバリセラスの身体もO・Hも、迫ってくる水の柱に対抗できるものではない。
(この現状……打破するならもうアレしかないか……)
 戦いが嫌いだったアイツの力。絶対に戦いの中では使わないと決めていた力。だが、今ここに在るこの力。
(すまないグリドラス……お前の力、借りるぞ!)
 バリセラスは、戦いには絶対に使わないと決めていた力を、解き放つ腹を決めた。
 自らのプライドを、命を守るために曲げる決意を。


 
 震える足に力を入れ、今まさに襲い掛かってこようとしている水の柱を、正面から見据える。
 飛び退いても、剣で防いでも、結果は同じだろう。万全であっても助かる可能性は低い。
 だからこそバリセラスは、死ぬ気で白臓の内に眠るもう一つの力を発動させた。
「雷飛(らいひ)!」
 そう叫んだ瞬間、バリセラスに向かって水の柱が襲い掛かる。
 後ろの壁にめり込み、大穴を空けながらのたうつ大量の水。これを受けたのなら、瀕死のバリセラスに命は無かっただろう。
 しかし彼は、水の柱が直撃した場所からやや外れた、空中に静止していた。
 また鉄の鎖で避けたのか、とセグラは3つ目の水の柱を放とうとして、目を疑った。
「支えて……いない……?」
 バリセラスは、手に剣は持っているものの、本来身体を支えているべき鉄の鎖が、天井から生えていない。完全に生身のまま空中にいるのだ。
「いや……そんなもの、所詮は虚仮威(こけおど)しだろう!」
 一瞬迷ったセグラであったが、気を取り直し3つ目の水の柱を、空中に居るバリセラスに向けて放った。
 水の柱は、直接セグラが軌道を操れる。例え空中に居ようと、簡単に避けることは出来ない。
「雷(らい)……速真骸(そくしんがい)!」
 そんなセグラに対するように、バリセラスは空中を無秩序かつ小刻みに飛び回る。これでは狙いが付けられない。
 それに、セグラへと確実に迫っていく。
「……くぅっ!」
 だがバこんな激しい動きをすれば、負担がかからない訳が無い。左手は動かないよう右手に添える形で固定してあるが、剣を持った右手で胸を、心臓がある場所を押さえている。
「そうか……お前も最後の力なのだな……私も、負ける訳にはいかん!」
 3つ目の水の柱をそのままに置き、4つ目の水の柱を自らの前へと移動させる。
「くふっ……!」
 するとふいに、セグラは血を吐いた。
 左手で心臓付近を掴み、顔を苦痛に歪ませながらも、右手をバリセラスの居る空間へ向ける。
 本来の上限を越えるO・H使用は、その能力を使用する白臓に負担がかかる。そして白臓の負担は、身体全てへと渡る。
 セグラとて、もう長くは動けまい。
「……っ……終わりにする……水……狩り!」
バリセラスを挟むように立つ水の柱から、大量の爪が吐き出された。
「うおおおぉぉぉぉぁぁぁぁ!」
 それをバリセラスは、避けずに、一気に加速して突き進む。目の前に迫る水の爪のみを剣で強引に切り落とし、それ以外の水の爪は捨て置く。半ば捨て身の、致命傷のみを避ける最小限以下の動き。全身を切り刻まれながらも、包囲を抜ける。
「天より降る……鋼鉄の雨……」
 抜けて尚、バリセラスを追わんとする水の爪が、背後から迫る。その中で、バリセラスは唯一の武器を、自分ごと包むように薄く広げた。
「爆雨鉄針(ばくうてっしん)!」
 手のひらに残る程度の鉄だけを残し、広げられた剣は無数の針となり、暴風雨の如くグラと迫ってくる水の爪へと降り注ぐ。
「その程度の攻撃など……!」
 セグラを多い尽くすように迫る鉄の針を、水の爪で迎撃に入る。これを相殺しきれば、バリセラスにもう武器は無い。
 打ち出される水の爪で、次々と鉄の針は相殺される。同時にバリセラスに向かっていた水の爪も、鉄の針によって相殺された。
 バリセラスとセグラの間には、相殺しあって無力化された水と鉄が、飛沫のように舞う。
 セグラが上空に居るバリセラスに水の爪を放とうと構えを取る中、バリセラスも両手を振り上げ、鉄で包むようにして1つに固定する。
 そして、水の爪が射出されると同時に、バリセラスは急降下した。
 最後の力を振り絞り、固定した両手へ込める。その両手はかすかに光を帯び始めた。
「天翔(てんしょう)……」
 セグラの放ってきた水の爪を持ち前の動体視力を生かし、紙一重で避ける。切り裂いたのは数本の髪のみ。もう水の爪を放つ時間的余裕は無い筈だ。
 セグラも元より避けられると感じていたのだろう。既に手に水の爪で作る剣を握り、迎え撃つ構えを見せている。
「高雷(こうらい)!」
 その剣に向かって、バリセラスは渾身の力を持って腕を振り下ろした。
 バリセラスの手と、セグラの水の剣が打ち合うと同時に、激しく迸る光が放たれる。
 青白く輝く光は、波打つ波動のように広がり、獣が雄叫びを上げたように轟く。
「がああぁぁぁぁ!」
 同時に、悲鳴が響いた。
 
――バシャン――

 バリセラス、セグラ、共に辺りに飛び散っている水へと倒れた。
「雷の力……か……。お前は……二重能力者(ダブラー)だったの、だな……」
 水の中に倒れたまま、独り言のようにこう口にしたセグラは、そのまま意識を手放す。
 バリセラスの使った力は、紛れも無く『雷』の力だ。絶縁体でも挟まない限り、逃れるすべの無い力。特に水は、非常に良く電気を通す。セグラにとっては、不可避たる攻撃だろう。
 だがどうあっても鉄を操る力とは結びつかない。それを用いたという事は、つまり複数の能力を持つという事である。複数の能力を持つということ、即ちそれは、二重能力者(ダブラー)。
「違う……」
 しかしバリセラスは、それを否定した。
 バリセラスは重々しく身体を持ち上げ、何とか立ち上がる。全身から血を流し、顔は青ざめ、足元は覚束無い。だが、確実に立ち上がった。
 勝者は、間違いなくバリセラスなのだ。
「俺は……二重能力者(ダブラー)なんかじゃ、無い。俺は……追加能力者(イーター)だ……」
 けれどもバリセラスは、喜ぶどころか、寂しげに自ら付けた忌むべきその称号を口にする。もう完全に気を失っているセグラに向けて。
 勝利した歓喜などは無い。ただその内には、どうしようもない虚しさだけが残るのであった。


 
 背後の建物から、地面を揺るがすような轟音が聞こえてくる。
 その音を聴いて、戦いが終了した事を悟ったカイシは、満足げに頷いた。
「お疲れ様です、バリスさん。貴方は、セグラ総司と刃を交えたことで、何を感じましたか?」
 今は疲弊して、動くのもままならないであろうバリセラスを想像しながら、力を抜いて槍を降ろした。
 周りは既に、動いている者は誰も居ない。カイシを突破しようと襲い掛かってくる神官を、悉く斬り捨ててそこに立っている。
 バリセラスがセグラと一対一で戦えたのは、カイシの力によるものが大きい。だが、彼を取り囲んだ人数は少なくとも50人は軽く越えている。場を守りながら、動かずに、である。
「とは言え、まだまだですよ」
 カイシは後ろを振り向き、大教会を眺める。セグラという司令塔を失った此処は、もう長くは持つまい。
 他の場所でも、セグラからの命令が無くなり再び混乱状態となったコルドは、瞬く間に劣勢へと成っている。
 この戦いが終わるのは、もう直ぐだろう。反コルド側の勝利として。


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