秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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鉄の剣と水の爪 2

 夜が空け日は昇り、その日が高く上った頃、バリセラスたちはフードを目深に被って大教会付近の大通りを歩いていた。
 3人の周りには、コクロウとセネラが付き添い、他にも数名の反コルドに所属する人間が少し離れて囲んでいる。極力バリセラスたちを目立たせないようにする為だろう。
 作戦結構の通達は、まだ日が出て間もない頃から、味方となる反コルドの人間に行渡らせていた。突然の突入作戦で慌てふためく者も居るかと思われたが、各々覚悟は決めてあったらしく、大きな混乱も起こらず準備が進められていったのだ。
 大教会を攻め入る為の作戦とは、何の難しいことも無いごくシンプルなものであった。なんと言うことは無い、単なるかく乱作戦であり、それ以外にこれという策も無い。
 合図があり次第、あえて正門から突っ切るのである。
 シンプル故に、行動もしやすい。そもそも、昨日に急遽行うことが決定された突入作戦なのだ。難しい連携など、行えるものではないし、望んだところで無理だろう。
 しかし、相手側は反コルドの人間が味方の中に潜伏している事を知らないだろうし、人数も少なくない。元々単独と思われている蒼髪の悪魔が、ここまで大きい突入作戦を取るとは考えてもいないだろう。ならば、最大限それを活用する方向なのだ。
「本当にこんな単純で、大丈夫なんだろうな」
 少し不安なのか、少し弱気な発言をするバリセラス。彼にとっては珍しい。
「一人で突入しようとしてた人が、随分腰が引けてますねぇ。足りない部分は、僕たちで何とかすれば良いんですよ」
 そんなバリセラスを見て、皮肉混じりに返すカイシ。バリセラスはしかめっ面をしながら顔を背けた。
「おやおや、嫌われたものですねぇ」
 肩をすくませ、わざとらしいジェスチャーを取る。
「取り敢えず私たちは、その辺にいる人間片っ端からぶっ飛ばせば良いんでしょ?」
「そうだけど、ぶっ飛ばすのは襲ってきた奴か、胸と背に付けてるコルドの聖印があるのにしておくれ。付けてないのは味方だからね」
 メラウの問いには、彼女の隣にいるセネラが答えた。
 外の者は声を発さず、静かに空を眺めている。今の時刻は、調度昼時。大勢のコルド神官は昼食を取るこの時間に仕掛けるのが、最も混乱させられるとの事。潜入している者が騒ぎを起こすと同時に、合図の狼煙(のろし)が上げられる。
「……」
 バリセラスを含め、一同は固唾を飲んで時を待つ。
 そして……空には、一筋の白い煙が上がった。
「行くよ!」
 セネラの号令と共に、バリセラス達を囲っていた反コルドの人間は、正門へと突入して行く。
「うおぉぉぉ!」
「りゃぁぁぁ!」
 先頭を突っ切っていった数人が、隠し持っていた武器を展開する。折りたたみ式の槍や、剣を手に、突然のことに対処できていない門番を斬り捨てた。夥(おびただ)しい量の血液が、門番から噴出す。
「コルドというだけで、ほぼ無差別の殺戮か……」
 その光景を見て、バリセラスは小声で不服を漏らしていた。
「背に腹は変えられないのですよ、バリスさん。迷いは死を招きます、貴方はセグラ総司を倒すことだけ考えていてください」
 そうして、カイシも走り出す。バリセラスとメラウも、無言で続いた。
 カイシは槍のかぶせ物を取り払い、構えを取りながら敵陣へ突入する。
「まずは肩慣らしと行きましょうか」
 『蒼髪の悪魔』が近いうちに攻めてくるという情報が、ある程度は渡っているのだろう。いち早く対応した神官達が、武器を持って攻め入ってくるカイシを止めようと、武器を手に寄ってくる。
「そちらから来てくれるとは、好都合ですねぇ」
 左から右に槍を大きく振るい、敵を牽制する。槍の間合いは広いので、下手に肉薄は出来ない。しかし長さゆえに、一度横薙ぎに振るうと隙が大きく出る。
 その隙を、神官達は見逃さない。大きく開いた左側から、1人の神官が接近する。
「初歩的動作は合格としましょう」
 カイシは、左手を軸としながら持ち、右手は添えるだけで振るっていた。振るうと同時に右手を穂先側へ移動させている。そして、今度は右手に力を入れて握り、神官が向かってくる側の左足を少し前に出すと同時に、逆側で突いた。
「槍とはいえ、刃がある所でしか攻撃が来ないとは限りませんよ~」
 全くぶれる事なく顎へ突きが入り、打ち抜かれた。これで1人目の神官は昏倒する。
「ほらほら、敵の動きを見てちゃんと反応しないと」
 などと余裕を見せつつ、再び左手を軸にし、一旦右手を離して左手の下側を掴み、槍を切り返す。
 一瞬反応が遅れていた隣の神官は、成す術なく槍の刃を受けた。
 2人目が倒されたところで、カイシの頭上から落下してくる影がある。頭上とは人間の死角の1つ。いくら強くとも、死角から知らずに攻撃を受ければ逃げられない。
 影の正体は、おそらく飛行が可能なO・Hを持つ人間なのだろう。
 だが、カイシは攻撃を受ける直前で軽く飛びのき、楽々と回避する。攻撃が当たらず、逆にカイシを見失った影の持ち主は、次の瞬間には胸から槍の穂先が生えていた。
「残念。とても惜しかった所です」
 普段、バリセラス達と会話するかのような雰囲気のまま、カイシは神官達を葬っていく。その様子に、若干の戦慄を覚えながらも、バリセラスは剣を引き抜き、神官たちが展開しているそこに入っていく。
 彼の役割は、セグラ総司を倒すこと。それまでは体力を温存し、なるべく戦闘は避けるように言われている。
 セグラ総司は、おそらく専用の場が設けられているという。そのO・Hは水が無いことには力を発揮しない。そのため、守りに入るセグラ総司は、中心の大教会で戦闘態勢を整えるらしい。
「水があればあるほど、威力を増すO・Hか……」
 正直に言うと、分は悪い。混乱しているとはいえ、相手の巣へと足を踏み入れることには違いないのだ。
「……それでも。俺にはこれしか無い」
 バリセラスが大教会へ走り出すと、カイシも適当に切り上げて後を追う。そしてメラウも続いた。
 今までカイシを相手にしていた神官達も後を追おうとするが、潜伏中の反コルド連盟から攻撃され、混乱の中で斬り殺された。
「せあぁ!」
 敵襲という情報が伝達されてきたのか、少しずつ、守りに対処してきたコルド神官が増えてきている。そんな中を、バリセラスは裂帛(れっぱく)の気合を発しながら押し通る。
 金属の武具で武装している相手に対しては、全ての防御を無効化させる事の出来るアドバンテージを持つバリセラスだ。彼にとって、受けや防御は無防備と同意。
「バリスさん、敵に慈悲など……」
「うるさい!」
 ただ彼は、どの敵にも致命傷を与えることなく、剣を振るった。武器を持てない様に利き手を封じるか、立てなくなるよう足を斬る程度で、命を奪う行為をしていない。
「……それが、貴方の道なのですね」
 不殺。
バリセラスは人を殺さない。最終的に死ぬ人間もいるが、バリセラスが止めをさす事は無い。
 バリセラスは復讐をする為に戦う。だからと言って、目的の人物以外を殺すことを善しとしない。
「貴方は本来、限りなく善に近い存在なのかもしれませんね……」
 次々と敵を戦闘不能にしながら、中心の建物である大教会を目指すバリセラスを眺めながら、カイシは呟いた。
「おっと、感慨に耽っている場合ではありませんでしたね。メラウさん、どうやら女性神官もちらほら出てきたようです。バリスさんに近づけさせないよう、なるべく早めに倒しておきましょう」
「ん? うい、りょーかい!」
 隣で近づいてくる神官数人を蹴り飛ばしていたメラウに話しかけ、前方で身構えている女性神官に意識を向けさせる。
「意外とこういう戦闘も、楽しいわね~」
「みんなと一緒に戦おう、という連帯感がありますからねぇ。でも、調子に乗りすぎると危ないですから、気をつけてくださいね」
 分かってるわよ~、などと返事をしながら、バリセラスの後を追いながら彼に近づこうとしている女性神官の前へ出る。
「せいやぁ!」
 相手が剣を振りかぶる前に懐へ入り、顎へ強烈な拳を見舞う。その一撃で意識を失ったのか、相手はそのまま後ろへ倒れこんだ。
「……元々イレギュラーでしたが、彼女には今後も役に立ってもらえそうですね」
 普段の微笑ではなく、バリセラスには見せたことの無いような無表情で、メラウとバリセラス、2人が立ち回る姿を見つめるカイシ。
 その間に彼が纏っていた雰囲気は、いつものふざけた態度とは程遠い、近づくだけで切り裂かれそうな程、張り詰めている。
 周りからは無防備に見えたのだろう。神官の一人が、カイシに向かって斬りかかって来た。
 だが、カイシはその神官を目で確認すらせず、無造作に槍を一閃させる。
確認しなかったにも関わらず、的確に頚動脈を切り裂かれた神官は、大量の血を噴出しながら地面へと倒れた。
「今は、この雑魚どもを蹴散らすのが、僕の仕事ですね。こんな所で、死んでもらっては困りますから」
 再び槍を構え、地を蹴る。
「バリスさんメラウさん、道を空けますから付いてきてください!」
 走りながら大声で叫ぶ。その声に反応したバリセラスとメラウは。カイシの姿を確認すると、咄嗟に彼の通るであろう正面の一直線上から退いた。
「直走る……火玉となりて突き進む……」
 全身から炎を噴出させ、その走る勢いを殺さぬまま敵の只中に、まさしく突入していく。
「紅蓮走……突破!」
 文字通りに火の玉と成ったカイシの勢いは止まらない。
どんなに屈強な人物であれ、全力で突っ込んでくる火の玉を見て、一瞬でも恐れない人間は、そう居ない。
 更に迫ってくる火の玉は、立ちはだかって障害となった者の急所を、的確に狙って槍を放ってくる。そして斬り捨てた者は一瞥もくれず、更に突き進んでいく。
「……」
 カイシが突き進むことで開けた道を走りながらバリセラスは、斬り捨てられ絶命している神官を一瞥すると、立ち止まりはしないものの一瞬顔を伏せた。
「バリス?」
 その様子に気づいたメラウは、怪訝そうな顔をバリセラスに向ける。
「……なんか悩んでるっぽいけど、今は余計なこと考えている暇、無いんじゃないの?」
「くっ……」
 メラウに諭され、不機嫌な顔になるが、余計なことを考えるのは止めたらしく、前方で大教会の門までたどり着いたカイシの下へ急ぐ。

「ふう……さすがに少し、疲れますねコレ」
 門を固めていたコルド神官を蹴散らしながら、カイシはバリセラスたちが追いつくのを待った。
「……セグラ総司。これは、今のバリスさんにはどう写るのでしょうね」
 そう呟いていると、バリセラスとメラウが追いついてきた。
「来ましたね。僕は此処で足止めをしますので、お二人は中へ」
 この言葉に、メラウはきょとんとした顔をした。
「二人? 私も行くんだ。セグラってのは、バリスが相手するんじゃなかったっけ?」
「いえ、おそらくもう一人、バリスさんに立ちはだかる人がいます。そちらを、メラウさんに相手してもらいます」
「良いけど、誰?」
 と、メラウが更に疑問を出したところで、3人を神官たちが囲む。
「時間がありません、早く!」
「……分かった。行くぞ」
 そうして、バリセラスは門を蹴破り、中へ入っていく。
「うい、んじゃヨロ!」
 メラウもその後に続き、中へと入っていった。
 2人の姿を確認した後、カイシは普段の微笑を一層深くして、囲んでいる神官達を眺める。
「さてさて、それでは頑張りましょうか。……この程度、造作もありませんからね」
 右手に槍を構え、左手を眼前にかざす。その左手からは炎が噴出し、カイシの顔を薄く照らした。
 照らされた顔は、あまりに冷酷な輝きを放っている。


 蹴破った門を抜け、広い廊下に出る。当然ながら、此処にも神官たちが待ち構えており、蹴破られた門を見るや、こちらに寄ってくる。
「やっぱり簡単には、通してくれないわよね~」
 寄ってきた神官に、メラウは肉薄しようと体を低くして踏み込もうとした。が、バリセラスに襟を掴まれて急停止した。
「んぎゃ」
「良く見ろ、聖印が無い」
 どうやら此処を固めているのは、潜入している反コルドの人間らしい。神官の正装には、胸と背に竜をモチーフにした逆三角形の聖印がついているのだが、彼らにはそれが付いていない。
「蒼い髪……貴方がバリセラス様で、間違いありませんね」
「そうだ」
 バリセラスの返答を聞くと、聖印の無い神官は武器を納めた。
「現在セグラ総司が、通信系のO・Hを持つものを仲介にして指揮を取っております。そのせいで随分と混乱状況が解けてきました。お急ぎください」
「場所はこの先で良いんだな?」
「はい。此処をまっすぐ行けば、大教会中央に出ます。セグラ総司はそこで守りの準備をしています。
セグラ総司は能力故に、部屋を移動出来ませんが、私たちでは下手に近づけません。後はよろしくお願いします」
「うい、りょーかい」
 頭を下げてバリセラスたちを送り出そうとした聖印の無い神官に、メラウは右手を軽く上げて答えた。
 バリセラスも軽く頷き、先を急ぐ。
「そーいや、私の相手って誰だろね?」
 入り口付近に数人居た程度で、奥の方には人が居ないらしい。セグラ総司が居るという大教会中央の扉が間近となった所で、メラウが軽く質問をした。
「……その事だが、メラウ。両手出せ」
「うい?」
 バリセラスに手を出せと言われて、立ち止まるメラウ。頭に疑問符を浮かべながらも、両手を出した。
 その手に、バリセラスは布を巻きつけた。ゆっくりしている暇はないので、かなり急いで巻いているらしいが、器用にも指先にまで丁寧に巻いている。
「何コレ、包帯?」
「まだそのままにしていろ」
 そうして、1本の剣を取り出した。彼の剣は今腰に挿してあるので、先ほどの戦闘で敵から奪った物だろう。
 メラウが不思議そうにその様子を見ていると、その剣をメラウの手に乗せて、形を変える。
「終わった」
「……手甲?」
 バリセラスがメラウの腕に付けたものは、なんと即席の手甲(ガントレット)であった。
「なんでわざわざ。微妙に腕が重くなるから、あんまり防具って好きじゃないんだけど」
「俺もそうは思ったが、今日に限ってはおそらく役に立つ」
 まじまじと、バリセラスが即興で作り上げた手甲(ガントレット)を眺めるメラウ。肘から先を完全に覆い、指先も鉄で守られている。指を動かすのに邪魔にならぬよう、間接部分には動かしやすい工夫まで施されている。即興にしては、随分と出来が良い。
「へ~。何か、結構マメなタイプ?」
「……行くぞ」
 照れている訳でも無いのだが、メラウから顔を背け、再び急ぐ。
「うい」
 メラウも付けてもらった手甲(ガントレット)を、様々な角度から眺めつつ、バリセラスの後を追う。少しは気に入ったようだ。
「んでも、何でこんな時にわざわざ?」
「……クィーミン・シジンの事だ」
「クィーミン? ああ、あの昨日バリスが苦戦してた人ね」

――ガシャン――

 突然、後方から金属音がする。鈍いが、若干人の悲鳴も音に紛れている。
 メラウとバリセラスは音がした、今通ってきた道を見る。そこには、全力でこちらに走ってくる、一見純白のドレスに見える服を着た人物が居た。恐らく内部通路から通って、此処まで来たのだろう。
「なる。こういう事ね」
 先ほどの悲鳴が交じった金属音は、入り口付近に居た聖印の無い神官達のものだろう。
「此処は私が担当する事になるっぽいわね。んじゃ、そっちはそっちで頑張ってね」
「……折角作ってやったんだ。負けるなよ」
「ういうい!」
 メラウに背を向け、バリセラスは走り出す。もう次の部屋目前まで来ていたので、バリセラスは扉を蹴破り、次の部屋に入っていった。
「さーてと。此処からが正念場ね」
 ゆっくりと後ろを振り向くと、調度ドレス姿の女性が目の前までたどり着いたところであった。
 そしてその女性、クィーミン・シジン総司補佐が、メラウと対峙する。
「そこを退いて貰おう」
「無理ね。そういう役割だし」
「ならば、無理矢理通らせてもらう!」
「上等よ、来なさい!」
 二人は同時に構える。
 メラウの構えは、右足を前に出してどっしりと腰を落とす構え方だ。重心を低くすることで安定感を得、同時に攻撃の威力を増す。
 対してクィーミンの構えは、右半身なのは同じだが、踵を浮かし、重心を高くする構えだ。重心を上げる事で不安定になるが、フットワークでそれを補いつつ、攻撃の速度を高める。
 攻撃方法が異なる、二人の格闘家。この戦いが、今始まる。
「せいやぁ!」
「はあぁ!」
 メラウは下段から、クィーミンは上段から、共に右の拳が放たれた。

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