秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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鉄の剣と水の爪 1
 バリセラス、メラウ、カイシ、コクロウ、セネラの5人は、一つのテーブルを囲んで椅子を置き、互いの顔が見えるように座った。
 テーブルの真ん中には蝋燭が立ててあり、その光に照らされて、全員の顔が良く見える。
「それにしてもこのような妙齢の女性が、まさか反コルドのリーダーとは思いませんでした。作戦会議などやめて、お酒を酌み交わしたい所です」
 世辞なのか、本気なのかはわからないが、カイシは女性相手だと基本的に最初は口説くらしい。
「おばちゃん相手に妙齢とは、よく言えるもんだねぇ。残念だけど、あたしゃ既婚だよ。夫は今仕事で別居中だがね」
「人妻という言葉も、また甘美な響きですよ……おっと、バリスさん危ないですよ?」
 体を少し傾けることで避けたが、無駄話を続けるカイシに向かってバリセラスが手元にあった鉄製フォークを投げていた。ご丁寧にも形をナイフに変えてあるので、後ろの壁に突き刺さっている。
「いい加減ふざけるな」
 平静を装ってはいるが、今までのカイシがとった言動で内心かなり怒りが溜まっているらしい。
「そうですね。セネラさん、惜しまれることですがこの話はまた今度として、今は大教会へ攻め入る作戦を立てましょう」
「あいよ、まずこの見取り図を見てくれ」
 セネラはテーブルに、大きな紙を広げた。紙には大教会の内部構造が詳しく書かれているようだ。
 4つの建物に分かれており、片方は祈りなどを捧げるための聖堂などが存在する東側の建物。神官たちが住む宿舎が北側の建物。そして大本となる大教会が中心。西側は訓練所だ。
 因みに、隠し通路の類は無いらしい。
「……随分と詳しい地図だな。手に入れるだけでも、かなりの時間がかかった筈だが」
 地図を見ながら、バリセラスが思ったことを口にした。大教会内部は機密事項なのだ、そうそう簡単に見取り図など手に入るはずが無い。
「そりゃそうさ。この見取り図が完成したのは、大体去年の事だよ。10年近くは要したね」
「完成……というと、盗んだりしたのではなく、手製という事ですか。もしや、既に大教会内部に潜入している方が存在しているのでは?」
 カイシがそう言うと、バンと机を叩くセネラ。表情はにこやかなので、怒ったのではなく喜んでいるようだ。
「ご明察。つまりは大教会の中に、今ではこっち側の人間が潜伏中さ。詳しいことは知ってるだろうから説明は省くけど、金稼ぎの為レルの実を栽培するのは重罪だが、それを暴くための潜伏調査だと名目があれば、罪に問われないからね。潜伏してる人間は、実際に栽培している訳じゃない」
「解釈次第でしょうけどね。裁判官の裁量に大きく左右はしますが……まあ、サミナルコなら大丈夫でしょう」
 犯罪行為ならば、その国で裁きを下せる場合が多い。コルドが横槍を入れてくれば話は少し異なるが、反コルドの国ならば、潜伏している人間が罰せられることは無いだろう。
「そういうことさ。じゃあ、大体状況は分かりそうだね。面倒くさいのは嫌いさ、一気に行くよ」
全員の顔を見渡すセネラ。すると、彼女の気配が引き締まった。それにつられ、全員の空気が張り詰めていく。
「噂が立ってたくらいだ、大教会の方にも『蒼髪の悪魔』が来てるって情報は行ってるだろう。だったら、完全に準備が整う前に仕掛ける必要がある。でも、潜伏してる仲間の連絡も含めると、時間が多少欲しい。少なくとも、明日の夕方が決行時間だね」
「その間僕たちはどうすれば?」
「あんたらは恐らく最もな戦力になる。だから、その時まで体を休めてくれてれば良い。実際に突入するときは、あたしらが誘導する」
 ふむ、とカイシは軽く頷く。
「相手側の戦力は? そしてこちら側の戦力も」
 そして更に質問を重ねた。自分たちの役割がどうあれ、これによって相手にする人数が変わる。
「3対7って所だね。もちろん相手が7だけど、これでも無理して集めた数だ。これ以上は無理だね。でも、潜伏中の仲間が暴れてくれれば、十分混乱させられるから、もっと楽にはなる。
 ただあんたらに頼みたいのが、数人いる。こいつらは中々の手練(てだれ)でね、そっちを主に頼みたい」
 そうして新たな紙を数枚出す。
「筆頭がこの、セグラ・トーク総司。薄茶の髪で、肩くらいまで髪が伸びてる。つまりラスボスさ。水を操るって聞くけど、詳しくは分かってない」
「水か……」
 ふとバリセラスの脳裏に、一人の男の影が過ぎる。忘れることの出来ないあの日、大切な人を殺した人物。ただ覚えているのは、手に持つ透明な剣。もしかしたらこの男が……
「バリス、どこに行くつもり?」
 唐突にバリセラスは無言で立ち去ろうとした所で、メラウに言われて足を止めた。
「どうしたんだい。まだ説明は終わってないんだよ」
 セネラも不思議そうな顔で、バリセラスを向いている。
「……必要な情報は得た」
 しかしバリセラスは、それだけを言うと、再び歩き出す。思わずセネラも後を追おうとした所で、カイシが口を挟んだ。
「なるほど、目的の男の外見と、見取り図で建物の構造を知ったので、いても立ってもいられなくなり、奇襲でもかけようという事ですか。今一人で行っても、すぐ見つかって終わりですよ」
 すると、バリセラスの前に槍の穂先が突き出される。カイシが静止の為に、突き出したのだ。
「見殺しにするわけにも行かないのですよ。『蒼髪の悪魔』さん」
 カイシは相変わらずの微笑を浮かべて、挑発でもするようにバリセラスへ向ける。その顔に向かって、バリセラスは敵意の含んだ目線を向けた。
「これは俺個人の問題だ。他人には関係ない」
 槍を避け、再び歩き出す。
「待ちなさいよバリス」
 その後をメラウが追おうとする。が、バリセラスは振り向きざまに剣を引き抜き、メラウの喉元に突きつけた。
「……なによこれ」
「付いてくるな。これ以上俺に関わるな。お前には関係ないだろう。付いてきたら……斬る」
 突きつけている剣先からは、確かに殺意が伝わってくる。しかし、それは小刻みに震えている。
バリセラスの腕が、強い拒否反応を示している。
「女は斬れないんでしょ。斬れてたら、あんな無様な姿見せなかったわよね」
「くっ!」
 バリセラスは、腕を一閃させた。
 メラウの喉には、傷一つ無い。バリセラスの剣は、ただの虚空を切り裂いただけであった。
「バリスさん。『馬足頼りて目途(もくと)を損ずる』、という諺は知っていますよね?」
 バリセラスの顔を見ずに、カイシは問いかける。
「……どういう事だ」
 剣を納めず、メラウと対峙したままバリセラスは逆に質問し返した。
「コルドを馬鹿にする諺ですよ。意味は……」
「その諺自体の意味は知っている。お前は何が言いたいんだと聞いているんだ!」
 声を荒げるバリセラス。メラウとカイシはともかく、コクロウは恐ろしいのか肩を震わせている。セネラは何も言わず、そこで状況を見守っていた。
「……プライドや過程を優先するあまり、非効率な行動をすると、その先には失敗が待っています。この諺は、本来そういう意味なのですよバリスさん。
 今の貴方では、復讐を遂げることは出来ないでしょう。だからこそ、こうして効率的な方法を提示しているのですよ。もう一度言いますから、よく聞いていてください。貴方には、死んでもらっては困るのです。ですから、見殺しにするわけにも行かないのですよ」
「……」
 バリセラスはまだ剣を納めないまま動かない。だが、迷いはあるようだ。
「安心してください。目的であるセグラ・トーク総司なら、バリスさんに任せます。僕たちは飽く迄周りに居る神官の相手に徹し、直接手は出しません。それなら一対一の決闘、文句は無いですよね?」
 そして、カイシはバリセラスの方を振り向いた。今まで通りの微笑を浮かべて。
「……」
 力なく、バリセラスの腕は垂れ下がった。
「……話は済んだのかい」
 それを見て、セネラは話を再開しても良いかと尋ねる。
「ええ、お願いします。ほら、バリスさんとメラウさんも座ってください。作戦会議を、始めますよ」
 バリセラスは未だ憤りを隠せない顔だが、大人しく剣を納めるとカイシの言葉に従った。バリセラスの後に、メラウも座る。
 こうして、戦いの準備が進められているのであった。


 何も置かれていない為に、だだっ広く見える部屋の中心付近に、シルグとリィーキは胡坐(あぐら)をかいていた。
「いつまで待たせるんだろうな」
 ジーマは、村の中でも長命な人物を数人連れてくると言い残し、この場を後にしている。
「……丁度良い。今のうちに聞いて置こう」
「ん? ああ、何故蒼髪の悪魔を、リーアに行くよう仕向けたかって事だな」
 シルグはその事を聞くために、リィーキに接触していたのだ。それを教えるには、リィーキを反コルドとして迎え入れる事が条件となっていた。
 それを受け入れたシルグには、聞く資格があるのだ。
「……俺と、今リーア大教会の総司をやってるセグラは、同じ想いを持っていたんだ。今のコルドは間違ってるってな。だから、隠れてコルドの行動を邪魔してたんだよ」
 リィーキはここで一旦言葉を切った。だがシルグは黙って聞いているので、そのまま言葉を続ける事にした。
「でも、実際上手く行かない。でもな、セグラはこう言ったんだ。自分はなるべく上に行きつつ、コルドの弱点を探る。それを見つけたら、今のコルドを壊して新しく作り直そう。お前はそれまで待っていてくれってな。
 俺は頭が悪いから、上に行くなんて無理だ。大神官の地位も、戦闘型のO・Hってだけで貰ったようなもんだし。だから俺は、セグラに任せて報告をただ待ってた。クィーミンも……妹もそれを承諾してくれたよ」
「なら、どうしてその友人と妹を、わざわざ蒼髪の悪魔と戦わせるように仕向けた」
「んな事してねぇよ。蒼髪の悪魔って言えば、単独でコルドを破壊して回ってる奴だろ? なら、あいつらと会わせれば、協力し合えるかと思ってな」
 そう言って笑みを浮かべるリィーキ。どこか誇らしげな顔だ。
「……お前の頭は……」
「お待たせしました」
 シルグがリィーキに向かって何かを言おうとした所で、ジーマが2人の老人を連れて、部屋へ訪れた。
 シルグはリィーキから視線をはずし、村長達の方を向く。
「これで全員か?」
「ネィグ先生も後ほど参りますが、一先ずこれで全員です」
 村長達はシルグとリィーキに対面するよう座る。村長が真ん中で、両側に2人の老人が座った。
 目の前に座った3人の顔を見て、シルグは一つため息をつく。
「……どうやら私の質問の前に、リィーキ大神官について話さねばならない様だな」
 村長を含む3人の顔には、露骨にリィーキへの不信感が表れている。それを見て取ったシルグは、先にこの問題を解く事を選んだ。
「リィーキ大神官……いや、リィーキは元々、影ながら反コルドとして活動していたのだよ」
 だが、シルグの前に口を挟む人物が現れた。その人物は、ゆっくりと部屋の中へ足を踏み入れてくる。
「ネィグ先生。もうサナリィの治療は終えたのでしょうか?」
「ああ、幸い重症はなかった。お陰で治療も早く済んだよ」
 部屋に訪れたのは、サナリィに治療を施していたネィグであった。
 ネィグはジーマの横に座り、リィーキの方を向く。
「ありがとな先生。あんたには世話になりっぱなしだ」
「なに、構わんよ」
 リィーキとネィグは、以前から交流の有ったように会話をしている。このことは、村人も知らなかった様だ。全員顔を見合わせている。シルグも疑問符を浮かべている様だが、成り行きを見守っていた。
「今から3年前、私に頼みたいことがあると、リィーキが訪れてきた。確か大神官となって赴任してから、2年目頃だったかな。その内容は、背中に負った大きな傷を、内密に治療してほしいというものだった。
 私もコルドにも反目している身。当然断ろうとしたが、大神官がわざわざ一人で訪れる理由が分からない。内密に、というのも気になる。
 その疑問を晴らすために、傷の手当をしながら話を聞いたところ、村を襲おうとしていた竜を駆逐する際、不意を突かれて怪我をしたのだと言う」
 ジーマを含んだ3人からざわめきが起こる。コルドの神官が竜を殺すということは、コルドを裏切る行為となる。それは普通、信じられない事だ。
「最初は嘘かと思ったよ。でも、治療の後リィーキの後を付いていくと、確かに肉食の竜が数頭死んでいた。体には殴り殺された痕もあったから、それで確信を得た。
 それから私は、リィーキの想いを聞き、陰ながら反コルドとして活動する手伝いをしていたのだ」
 ここまで話し終えると、ネィグは全員の顔を見渡す。ネィグの表情は至って穏やかで、村人達を諭すような視線を向けている。
「……俺はあんたらの敵だったんだ、信用しろっては言えない。でも今はあんた達と争う気は全く無いんだ」
 続けてリィーキも、真剣な表情を向ける。村人たちは押し黙り、複雑な表情を浮かべている。
「ここ数年、凶暴な竜による被害は少ないだろう。来ても数頭で、殺さずとも捕獲巣するのは容易い程度だった筈。まあそのお陰で、鈍っていた人も多く、ハガラズに押し負けてしまった様だがね」
「そして、ここにリィーキや私が居なければ、そんな状態の村人だけでは、生き残っている人物は半数に減っていた事だろう」
 ネィグの言葉と、リィーキの想い。そしてシルグの指摘が重なり、村人達は理解をしたらしく、未だ複雑な顔をしてはいるものの、深くうなずく。
「……分かりました、リィーキ大神官。いえ、リィーキ様」
「ありがとう、助かるぜ。別に様は付けなくても良いんだけどな」
 などと、リィーキは笑う。半ば失笑も混じってはいるが、村人も釣られて笑っていた。
「リィーキに関してはもう良いだろう。私の質問をそろそろ始めたいのだが、宜しいだろうか?」
 村人とリィーキの蟠りがある程度解けたのを確認したシルグは、今までよりも真剣な声を出した。
 笑っていたリィーキ達も、それを聞いて表情を引き締める。
「まず聞きたいのが、この村はおおよそ何年前から存在しているのか、と言うことだ」
「この村ですか? はて……」
「大体、2百年程度前だと、伝えられています」
 ジーマが考えている横で、右側の老人が回答を出した。人が生活しているとは言え、小さな村だ。2百年も存在しているのであれば、余程土地柄などの恵まれてきたのだろう。
「2百年か……当時の生活環境や、主に何を生業としていたのかは、分かるだろうか」
「この辺りは内陸に近いため、土地も豊かで、山も近いことから水も豊富です。主に農作業で生計を立てており、行商人が多少通る程度で他の交流はあまり無い村だったと、聞いております。今では、リーアの村が出来たお陰で、流通が良くなっておりますが」
 これについては、村長の左側の老人が答えた。
「ふむ……ハガラズが生息していた訳でも無いのだろう?」
「とんでもない、あんな凶暴な竜がいるなんて聞いたことも無いですよ」
 と、村長ことジーマは否定する。両側の老人も、ネィグも同意見らしく、頷いた。
 その腕を組んで眺めながら、シルグは考え込むような唸り声を出している。
「元々この辺には、教会も無かったんだろ?」
 シルグが考えている横で、リィーキが口を挟む。しかし、そのリィーキの言葉に反応したのは、シルグであった。
「どういう事だ?」
「俺が赴任してきた時、先任から聞いたんだが……30年くらい前に建設したって話だぜ。理由は生息していたハガラズから、村を守るためだっては言ってたんだがな……ん? なんか違くね?」
 自分で言いながら、おかしな事に気づくリィーキ。
 村長たちは元々存在しなかった、と言っている。それなのに教会はハガラズの為だと言っているのだ。両者の言い分が食い違っている。
「……なるほどな。守る村が違うという事なのだろう。全てを説明したわけではないが、嘘は言っていない。とすると……やはりリーアは……」
 リィーキが首をかしげている中、シルグは一人納得している。
「守る村?」
「村、というと異なるのかもしれないが、おそらくリーアを守るためだろう」
 リィーキが発した軽い質問に、ごく簡潔にシルグは説明する。しかし、やはり簡潔すぎてリィーキは理解できていない。
「何でわざわざ。コルドじゃハガラズをどこうすることなんて出来ないんだから、教会内で飼うなんて危険なことしねーで、別な所に町作りゃ良いだろうが」
 本来ハガラズの生息する地域に、村や町などが接触すると、ハガラズを駆逐するか村を捨てるのが一般的なのだ。それが教会に関係する場合、駆逐する選択肢を選べない為、別の場所へ移動する。これがコルドである。
「土地や天候、輸送ルートやその他の処理が最も効率的だと結論され、是が非でもそこに町を築きたいとする。しかし、町の……いや、おそらく輸送ルートの一部にハガラズの群れが生息していたとしたら、お前ならどうする」
「どうするって言われてもな……んなこと思いつかねーよ」
「コルドには、どうしてもリーアを作る理由があった。なのにハガラズが邪魔だった。だが駆逐するという選択肢は取れない。だからこそ、捕らえて別の教会で面倒を見るという手段に出たのだろう。下手に放せば騒ぎになる」
「理由か……」
 シルグの説明を受けて、大まか理解できたのか腕を組んで悩み始めたリィーキ。村長のその両側の老人たちも、同じように悩んでいる。そんな中、ネィグだけがシルグの顔を見据えている。どうやら別の疑問があるようだ。
「……そんなに簡単に町を作れるものだろうか。リーアはこの辺りでは最も大きな町だ。気軽に作れるものでは無い筈だが」
「……確かに、この辺りの流通を掌握し、更には莫大な資金が必要になるだろう。私の考えもかなり先急いでいる。それでも、不確かではあるがリーアの町の大教会が、秘密裏に『レルの実』を栽培している、という情報がある」
 『レルの実』と聞いたところで、数人が息を飲んだ。リィーキに至っては、少し青ざめているように見える。
「ちょっと待て、まさか……な。あいつがそんな事をしてる筈が……」
「リィーキ、お前は何か聞いていないのか。妹と友人がいるのだろう」
「あいつはそんな事する奴じゃねぇよ。きっと何かの間違いだ……」
 親友と妹を信じたいと思う一方、頭の中で少しずつシルグの言葉を肯定する状況が思い当たるのか、口では否定しているものの、力がない。
「私も最初は疑っていたが、このハガラズ騒動で得心した。リーアには、間違いなく隠さなければならない何かがある」
 頭を抱えて、リィーキは現実逃避をしている。そんな彼に、シルグは追い討ちをかけた。
「お前の友人と妹は、蒼髪の悪魔と手を結んだりしないだろう」
 この言葉に、リィーキはキレた。
「お前に何が分かる!」
 シルグの胸倉を掴み、持ち上げながら怒鳴るリィーキ。ネィグは静かに眺めているが、村長達2人は、怯えて縮こまっている。
「そちらの事情など、私は分からない。だが、レルの実を栽培しているのならば、蒼髪の悪魔と手を組むというのは、リスクが高いだけで利点が少ない」
 鬼のような形相で睨んでいるリィーキを物ともせず、飽く迄冷静に対応するシルグ。
「それに蒼髪の悪魔は、殺していないとは言え、大切な友人を討ったのだ。それだけで、敵対するには十分な理由だと、私は考える。……お前の考えは、単なる願望に過ぎない」
「くっそぉ!」
 シルグを荒々しく手から離し、外に向かって走り出そうとするリィーキ。しかし、シルグはそれを制止する。
「言ったはずだぞ、リィーキ。勝手な行動をするなら、殺すと。今のお前は反コルドに所属している身だ。友人を助けに行くというなら、障害になる前に此処で始末する必要がある」
「……」
 足を止め、項垂れるリィーキ。その腕は力が入っていないように垂れ下がっているが、拳には不自然に力が入っている。
「これ以上後戻りは出来ない」
「……分かった」
 項垂れたままゆっくりとシルグの横まで戻ってくると、リィーキは静かに腰を下ろした。
 そんなリィーキを見て、シルグはもう一言加えた。
「ついでに言っておくが、そろそろまともに治療を施さないと、O・Hで無理に固めている傷が手遅れになるぞ」
「傷?」
 今の言葉で気が抜けたのか、無意識に発動していたO・Hが切れ、傷口が開く。途端にかなりの量の血液が噴出した。
「ぐあぁ!」
 そのショックで、倒れこみ意識を失うリィーキ。ハガラズと戦う際、蒼髪の悪魔に受けた傷をO・Hで無理矢理固めていたままだったのだ。
「……まさかとは思ったが、今の今まで忘れていたのか。よほど頭が鈍いのか……。まあ良い」
 リィーキを担ぎ上げ、立ち上がるシルグ。ネィグに顔を向けると、ネィグも頷いて立ち上がった。
「すまないが、治療を頼む」
「ああ、分かった。先ほどの部屋に運んでくれ」
 リィーキを担いだまま、シルグとネィグは部屋を出て行った。
 後に残された村長達3人は、未だ訳も分からず怯えているだけであった。

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