秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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レルの実 4
 辺りが暗くなり、町の人間が次々と床に就いている中、けたたましい足音を鳴らしながら複数の影が町から遠ざかっていた。
 一見何かから逃げているように見えるこの影は、息も詰まるような緊迫した空気を纏いながら突き進んでいく。
 幸いにも此処は既に町から外れており、足音を聞く者は草葉の影で鳴いている虫くらいだ。その所為か、当の足音の発生源たる影も、その騒音を気にも留めていない。
 実はこの影は馬に乗った人であり、人数は合計で4組のようだ。
「一刻も早く、増援の要請と『蒼髪の悪魔』の情報を伝えなければならない。遅延は許されないのだ、もたもたするな」
 先頭を走る馬に跨(またが)っている男が、後続の3人に激を飛ばす。
 この集団は、リーアの村に存在するシルガ半島大教会より送り出された者達だ。その懐に忍ばせてあるのは、総司であるセグラから託された書状である。
 書状の中には、手に入れている『蒼髪の悪魔』の情報と、現在この大教会が陥っている状況。そして増援の要請。
 セグラは一通りの事をまとめると、『蒼髪の悪魔』対策として、なるべく人員を確保しようと動き出していた。
 大教会勤めの神官とて、無能集団ではないし、人数だけでも500人はいるのだ。つまり人数だけで言えば十分すぎるだろう。しかし相手がどんな策を練っているか分からない以上、少しでも戦力を集めておくに越したことは無い。
 実際のところ、『蒼髪の悪魔』が近くに潜伏しているという状況で、戦力を割いてもらえる教会があるかどうかは微妙な所ではあるし、時間的にも増援は期待できないだろう。
増援はなくとも『蒼髪の悪魔』の情報だけでも、他の教会や本部へ伝えることが最もの目的だ。
『了解しました』
 後続の3人は、少し速度を上げて先頭の馬へなるべく寄せる。どうやら先頭は隊長で、後続は部下のようだ。
 速さを求められる移動には、一般的に移動用の竜が使われる。正式名称は「エオ」で、別称「走(そう)竜(りゅう)」という草食の竜だ。
 しかし彼らコルドは、竜を神の使いとして崇める教えを守っているため、竜の背に乗ることを許されていない。
 馬は竜よりも燃費は良いものの、体力的、速度的に劣る。その為、急ぐ場合に馬で移動するのはコルド関係者以外の一般では、矛盾の骨頂である。
 とはいえ、コルドに関わる人間はエオに乗ったことが無いので、そんな事を気にしないし、基本的に知らない。
「隊長、『馬足頼りて目途(もくと)を損ずる』という諺(ことわざ)を、耳にしたことはありませんか?」
 不意に、後ろを走っている部下の1人が、そんな事を口にした。不思議と馬の足音にかき消されること無く、先頭の隊長と呼ばれた男の耳に届いた。
 その隊長と呼ばれた男は、一瞬聞いたことも無いその言葉に疑問符を浮かべて、何のことだと聞き返そうとしたところで、今度は別な部下から声が届いた。
「反コルドが強い国などで良く使われる諺です。急いでるのなら、気取ってないで竜に乗れ、というコルドを蔑む諺ですよ」
 言われた意味を理解するのに少し時間を要したが、隊長と呼ばれた男は部下のその物言い激怒し、声を張り上げるために息を吸おうとした。すると、また別な部下の声が聞こえてきた。
「急いでいるのに、竜より遅い馬に乗って走っているから、託された任務に失敗するのだ、という意味があるのです」
 
 ――ズシュリッ――

 最後に声を出した部下が言い終わると同時に、走っていた影は1つに繋がったのであった。
「がっ……かっ……なっ……!」
 隊長と呼ばれていた男の胸から、3本の刃が生えていた。叱責するために息を吸い込んでいたので、咽喉から声にならない息が吐き出されていく。
「申し訳ないのですけれども、『蒼髪の悪魔』の情報は、まだコルド本部へ伝えられるのは困るのです」
「ですから隊長、悲しいことですが、ここでお別れです。短い間でしたが、お世話になりました」
「あなたは立派でしたよ。部下が敵だったことに、全く気付いていなかった程ですから。後の事は安心してお休みください」
 既に骸と化した男の部下だった3人は、それぞれ手に持っている剣や槍を引き抜くと、馬を止めた。
 骸を乗せたままの馬は、自らの背に跨っている男が既に物言わぬ肉塊であることなど知らず、ただひたすらに道を走り去って行く。
「書状ごと、一緒に燃えてください」
 その馬が十分な距離を進んだ頃、部下だった者の一人が指を鳴らした。
 すると前方の骸と馬は、一気に火の塊と化した。馬は驚き、もがき苦しんでいる。その拍子に骸は地に落ち、捨てられたゴミの様に炭化していく。
 3人はそれをしばし眺めた後、来た道を引き返していった。


 完全に日が落ち、ハガラズが暴れていたのが、まるで嘘であったかのような錯覚に陥るほど、辺りは静寂で満ちている。
 聞こえるとすれば、自分達の足が地面とこすれる度に出る足音か、リィーキの腕の中から聞こえるサナリィの寝息くらいである。
「着きました。此処が有事の際に逃げ込む場所として設けた、避難所です」
 先頭を歩くジーマが止まった場所は、薄っすらと明かりが漏れている、一見単なる洞穴にしか見えない場所であった。
「へぇ~。こんな場所に洞穴なんかあったんだな。道理で分からねぇ訳だ」
 リィーキはまじまじとその洞穴を眺める。ジーマはリィーキに対して未だ抵抗があるのか、訝しげな視線を放っている。
「入らせてもらうぞ」
 そんな二人の間を、無意識なのか意識的になのか、割って通り洞穴の中へ入っていくシルグ。後に続くようにリィーキとジーマも入っていく。
 洞穴の中は、数十メートルほど進むと大きめの扉が設置されており、光は此処から漏れている様だ。
 扉を開け中へ入ると、洞穴にしては妙に綺麗な部屋が現れた。何も知らずに此処へ運ばれたのなら、普通の医療所か何かだと思うだろう。
「……もう10年以上前に竜に襲われて亡くなった人物達なのですが、いつか使う日が来るだろうとこの場所を友人達と共に作り上げたそうなのです。
……流石に『未来の災厄を感じる』O・Hの持ち主であるだけあった、という事なのでしょう。……他人を優先するあまり、自分の事は感じられなかったらしいのですが」
 何も言わずに部屋を見渡しているシルグを見て、そう話すジーマは、更に先にあった扉へ進むよう促す。
 それにシルグは無言で頷き、扉を開けた。
 二つ目の扉を開けた先には、大勢の人が恐怖におびえ、肩を寄せ合って座っていたのだった。
 火が灯された松明(たいまつ)が、いたるところに設置されているため、光が届かない洞穴でも暗闇ではない。ただハガラズから逃げて疲弊しているのにも関係があるのだろう、薄暗い部屋に居る村人の顔は、生気が無いように見える。
「私は反コルド連盟の人間だ。村の人間に危害を加える事は無い」
 座っていた村人がこちらを向き始めた所で、シルグはそう大声を出した。村人は、反コルドの人間と聞いて安心したらしく、何人かはほっと胸を撫で下ろしている。
 そこへ、空気を読まずシルグの後ろからリィーキが顔を出す。
「すまねぇ、医者ってどいつだ? 早く診てもらいたい人がいるんだよ」
 瞬時に村人の安堵感が消え、重い空気が充満し始める。このハガラズの襲撃を、潰されたコルド教会の人間が放ったものだと考えている人間は多いらしい。あからさまな敵意も向けられている。
「……各々疑問に感じている部分はあるであろう。しかし、今は争っている時ではない。この男が抱えているのは村長の娘、サナリィ嬢だ。ハガラズから受けた傷が体中にある。今のところ命に別状はないようだが、早急に治療するに越したことは無い。医者がいるのなら、早く診てもらえないだろうか」
「私にもリィーキ大神官が居る理由は分からないけれど、詳しい事情はこのシルグ様が教えてくださる。今はサナリィを頼みたい、医療所のネィザ先生を呼んできて貰えないだろうか」
 シルグの言葉に続き、村長ジーマが言葉を放つと、リィーキへ向けられている敵意が薄くなって行く。完全に無くなった訳ではないが、いきなり襲い掛かってくるような村人は取り敢えず居ないようだ。
「……村長、ネィザ先生なら一番奥の部屋で、怪我人の治療をしています」
「そうか……すまないね。ではシルグ様、こちらへどうぞ」
 ジーマは村人から教えられた部屋へ続く扉へと、シルグたちを促しながら進む。
 扉の先は通路になっており、いくつかの部屋に繋がっているらしい。ここも火が灯されている松明(たいまつ)が壁に備えてあるので、通るのに問題はない。広さも人が5人は横に並んで歩けるほど幅があるので、何かとぶつかる心配も無さそうである。
 いくつか扉の横を通りながら、行き止まりまで歩くと、その行き止まりに扉があった。
「ここです。ネィザ先生、入りますよ」
 何度かノックし、ジーマは扉を開けた。
 扉の先には、先ほどの部屋より狭いが、程よい広さの空間が存在していた。ここも同じように火が灯されており、薄暗いものの暗闇ではない。
 その部屋の中心に、怪我をして横たわる人物がいた。横ではローブを身にまとった初老の男性が、横たわる人物に何かを施している。おそらく治療だろう。
「ジーマ殿か。無事でなによりだ。もう直ぐ治療が終わるところなので、少し待っていてもらえるだろうか?」
 初老の男性こと、この人がその「ネィグ先生」なのだろう。待つように言うや、治療を再開する。
 怪我人の患部に手を添えると、ネィグの手の平から薄い光が漏れ始める。
「ネィグ先生は『自然回復力を高める』O・Hをお持ちなのです。この村唯一と言って良い回復系O・Hの持ち主で、とてもありがたいお人なのですよ」
「なに、たまたま生まれ持った力がこの能力だったに過ぎんよ。わたしが特別な訳ではない」
 ジーマが簡単に説明していると、言っていた通り直ぐに治療を終え、ネィグはこちらへ歩いてきた。治療を施されていた怪我人は、おそらく助手であろう青年に担がれ、別なベッドへと移されていた。
「ネィグ先生、この娘を頼む。全身傷だらけなんだよ」
「リィーキ大神官か……どうやら出られたらしいな。まあ、それは後で話そう。そこのベッドへ寝かせてくれ、直ぐに治療を始める」
 言われた通り、リィーキはベッドへサナリィを寝かせる。
 ネィグはサナリィへ近付き容態を見ると、処置を始める。消毒をしたり、包帯を巻くなど、普通の治療だ。飽く迄自然回復力を高めるだけなので、普通の治療を施す必要があるのだろう。
「では、娘をお願いします」
「頼むぜ、先生」
 邪魔をする訳にもいかないので、サナリィを預けると、3人は部屋の外へ出た。ジーマは、あからさまに安堵のため息をついている。
「……さて、安心して気が抜けている所に悪いが、この村について詳しい人物を数人集めてもらいたい。色々と聞きたい話がある」
「……はい、承知しました。こちらの部屋でお待ちください」
 ジーマはシルグの言葉に頷き、近くの扉を開けて中へ入るよう促した。
 
 

 夜に紛れ、物音を立てずに町の中を進む。
 殆どの民家は眠り、光が漏れている家はあまり見られない。この静けさの中、朝を迎える町は、恐怖を覚えるほどに静かだ。
 その町中を、メラウ、カイシ、バリセラスは足音を殺しながらも進む。
「あ、見えた見えた。まったく暗くて分かりにくいったら無いわねー」
 先頭を走るメラウが、目的の場所を視認したらしい。
「夜ですから。まあ、仕方ないでしょう」
 後に続くカイシも、肉眼でその建物を認識する。
 月明かりがおぼろげに辺りを照らしている道の先に、目的地である民宿は存在していた。メラウが疑問に感じた通り確かにオンボロで、とても裕福な感じはしない。
「……寝静まっている様だが、どうする積りだ」
 最後に付いてきているバリセラスも目的地を視認するが、当の民宿は完全に真っ暗だ。
「そのまま中に入ってしまいましょう。バリスさん、鍵お願いします」
「……バリセラスだ」
 思いっきり不服そうな顔をしながらも、しぶしぶ引き受けるバリセラス。
 バリセラスの能力を使用し、鍵を開けてくれとカイシは言っているのだ。能力が存在するとは言え。全員が全員鍵を明けられるような能力を所持している訳はないので、よほどのことが無ければ鍵は有効な防犯道具だ。その代わり、そういう能力を持っているというだけで、濡れ衣を着せられる場合も多いのだが。
「着いたわよ。んじゃ、お願い」
 目的地にたどり着き、メラウがバリセラスを向きながら戸を指差す。戸は木製で鍵は見当たらないので、内側から施錠されているのだろう。
 バリセラスは自らの剣を引き抜くと、それを紐状に変化させて操りながら、戸の隙間に伸ばした。幸い、戸は古くて穴だらけだ。
 中が見えないので、バリセラスにとっては手探りの作業であろうが、少し経つと内側で何かが外れるような音がする。
「……おそらく開いた」
 そう言うと、紐を手元に引き戻して剣に戻し、腰の鞘に収める。
「お疲れ様です。では行きましょう」
「ういうい」
 鍵を開けられた戸を開くと、意気揚々としてメラウとカイシは民宿の中へ入って行く。
「お前らの神経の太さが、本気で羨ましくなってきたぞ……」
 などとぼやきつつ、バリセラスも後へ続く。因みに彼はしっかりと戸を閉めた。何気にマメな人物なようだ。
「奥ですかね?」
「奥だと思うわよ~」
 先を歩く2人は、ずんずんと進み、一番奥の部屋の前へとたどり着いていた。それほど大きい建物ではないので、奥とは言え入り口付近にいるバリセラスから見える。
 人が寝ている気配があるので、ほぼ間違いないだろう。民宿なので客が泊まっている可能性もあったが、他に人の気配は感じられない。
「夜分に失礼します」
 侵入しておいて礼儀正しく挨拶する意味があるのかは疑問だが、奥の戸を開けて中に入ると、中年の男性がベッドで寝息を立てていた。
「どう起こします?」
「ん? すぱっといっちゃえば? って事で、うりゃ!」
 ドフッ、と鈍い音が響く。メラウが己の拳を、寝ている男性の鳩尾にめり込ませたのだ。
 男性は、口から泡を吐いて痙攣し始めていた。
「おやおや、より深い眠りに就かれてしまったようで。よほどお疲れだったのですねぇ」
「軟弱ね~」
 そんな二人のやり取りを、バリセラスは丁度部屋に入ってきたところに行われていた。
「……お前らは一体何がやりたいんだ」
 仕方なしに、気絶している男性を介抱するバリセラスなのであった。


「あのぅ……あなた方は一体どちら様なのでしょうか」
 バリセラスの介抱とメラウのO・Hで、なんとか意識を取り戻した男性、コクロウ・セキは、取り敢えず誰何をしてみた。
「始めまして、コクロウさん。僕はカイシ・クレパイグと申します。少々急なお話があり、夜分に訪れました。どうも申し訳ありません」
 うやうやしく自己紹介と謝罪をするカイシ。言っていることは良いのだが、やってることは不法侵入だ。
「はぁ……何でしょうか」
 被害者であるコクロウは、唐突過ぎる状況に混乱している為、ただ流されているだけとなっている。
「長たらしい説明は、この際面倒なので端折ります。単刀直入に言いますから、心の準備は宜しいですね?」
「えぇ……お願いします」
「貴方は、反コルド連盟に属する人間なのではありませんか?」
「えぇ……そうです」
 なんとも無く首肯するコクロウ。
「では、貴方達のリーダーと連絡を取りたいのですが、取り次いで頂けないでしょうか」
「わかりました……」
「助かります」
 という形で話がまとまりつつあったその時。
「ちょっと待て、何だこの会話。自然に進めるからそのまま流しそうになったが、あまりに重要すぎる内容だぞ。そんな簡単に認めて良いのか!?」
 バリセラスが口を挟んだのであった。
「良いんじゃない? 本人認めてるんだし」
「そうですよ。本人がそうだと言うなら、そうなんでしょうし」
「えぇ……そうです」
 この場に居る全員に肯定される。しかし、流石にバリセラスは下がれなかった。
 コクロウに近付き、肩を掴んで前後に揺らす。
「目を覚ませ。言う相手と事によってはお前殺されるぞ。言う相手をよく観察してから発言しろ!」
 ひとしきり揺らし終えると、コクロウを放す。しばらくはバリセラスに揺らされたダメージが大きかったらしいが、それが抜けると同時に頭が覚醒して来た。
「ああ……ああ! し、しまった……」
 自らの発言の重大さに、やっと気付いたようだ。
「わ、私をどうするお積りですか?!」
 今更ながらにおびえだすコクロウ。
「そうですね。では取って食べましょうか。こんがり炙ってみると美味しいかも知れません」
「ひいぃぃっ!」
「結構美味しそうかもしれないわね」
「お、お助けを……」
 カイシの発言は冗談であろうが、メラウの発言は半ば本気のようだ。一瞬目の色が変わった。それを見て本気でコクロウは腰を抜かしている。
「いい加減話をややこしくするな……取り敢えずカイシ、詳しく説明しろ。お前の言う光明とやらがあるんだろう」
 額に青筋を浮かべて、バリセラスは怒気を放っている。カイシがいつまでもふざけている所為だろう。多少の助け舟である積りなのかもしれないが、コクロウにとっては恐怖の対象に他ならなかった。怒りがオーラとなって、可視できそうなほど迫力満点だったりするのである。
 ついでにカイシはわざわざ此処に来た理由を、まだ話していないのだ。いつまでもこんなふざけた会話を続けるのは、バリセラスの神経を逆なでするのに他ならない。
「そうですね、そろそろ真面目にやりましょうか。立ち話も疲れますから、椅子にでも座って話しましょう。民宿ですから、座れる場所くらいはあるでしょう」
 そういうと、カイシはコクロウに近付いた。思わず後ずさるコクロウに微笑を向けると、極力穏やかな声を出す。
「大丈夫ですよ。僕達は貴方を襲いに着たのではありません。先ほど申したように、僕達は貴方の様な反コルドの人達に、助力を求めに来ただけですから」
 そう言い、右手を差し出す。コクロウは、ビクビクしながらも、その手を取った。
「という事で、夜分遅くに申し訳ないと思うのですが、貴方達のリーダーに言付けを頼みたいのです。「『蒼髪の悪魔』が、リーア反コルドに助力を求めている」と。あ、反コルドですから『三日月の使者』の方が良いでしょうか」
「『蒼髪の悪魔』……?」
 カイシの言葉を聞き、バリセラスの方向を向く。そして彼の髪を見た。
 暗くてよく分からないが、月明かりで薄っすらと見えるその髪は、確かに『蒼』だ。
「『蒼髪の悪魔』がシルガ半島に訪れているという話は、本当だったのですね……。分かりました、行って来ます!」
 何やら、勝手に納得して使命感に燃え始めた。かと思ったら、急に倒れた。
「おや? どうなさいました」
「すみません、まだ傷が……」
 カイシは懐からナイフを取り出すと、刃の部分に炎を纏わせた。明かりの為だろう。それをかざして、コクロウの状態を確認している。
「ふむ。全身に打撲の痕がありますね。どうしたのですか?」
「いえ、それが……そのぅ……」
 言いよどむコクロウ。申し訳無さそうな目で、時折メラウをちらちらを見ている。
「うい? あ、そっか。襲い掛かってきたから、ボコボコにぶっ飛ばしたの忘れてた。ごめ、今そっちの怪我も治すわね~」
 あっけらかんと笑いながら、コクロウに手をかざすメラウ。
 その横で、怒気は多少引いているものの、早くしろと言わんばかりに、未だ青筋を浮かべたバリセラスが仁王立ちしたまま睨んでいるのであった。


「では、私は出てきます。皆さんは此処をお使いください」
 メラウにO・Hによる治療を施されたコクロウは、ダイニングルームに3人を座らせて、家から出て行った。
「それではバリスさん念願の、説明会に致しましょう」
 備え付けてあった蝋燭に火を灯して明かりを付けながら、カイシは座るように言う。
 全員が椅子に座ったのを確認した後、説明するからしっかり聞くように促した。とは言え、何となくで居るメラウはともかく、内容を話せといきり立っているバリセラス相手に使うのも不思議だが、前口上のようなものだろう。
「今となっては推測通りだったのですが、コクロウさんは反コルドの人間ではないかと考えたわけです。
 理由としては、貧乏人であると言うこと。そこで僕が最初に説明していた仮説をそのまま飲み込んだとして、貧乏人である理由を考えます。その場合、何らかの理由でレルの実栽培から外れていると考えられます」
「理由って?」
 メラウが思った疑問を口にした。その質問がカイシにとって丁度良い質問だったらしく、普段の微笑がより深くなった。
「コルドに反目しているから、レルの実栽培を行わなかった。という事です」
「何で? そのまま便乗して稼いでいれば良いじゃない」
「それでは街の人と同じになってしまいますから」
 カイシから受けた説明を頭の中で整理してまとめているメラウ。腕を組んで「ん~」と唸っている。
「話を進めろ」
 カイシはメラウが会話に着いてくるのを待っている姿勢だったが、バリセラスは勧めるように言う。
 それに対してカイシは、メラウに向かって「大丈夫です?」と聞くが、「うい」と頷いた。分からないから取り敢えず先に進んでくれ、という事らしい。
「最近街に引っ越してきており、まだレルの実栽培が許されるほど信用されていない。という考えもありましたが、ボロボロの古い家で民宿を営んでいるのに、最近引っ越してきたとは考えられません。昔から住んでいるような場所でなければ、開業する際に多少なりとも改装するでしょう。
反コルドであるため大きく動くことが出来ず、生活が制限されているとした場合、わざわざ此処の街に住み留まる理由もありませんからね。コルドを肯定している国なら逃げる場所は少ないかもしれませんが、此処は反コルドの国です」
「……つまり、反コルド連盟として動いているため、街から離れることが出来なかった。ということか」
 メラウはまだ理解が追いついていないが、バリセラスは大まか察したらしい。
「そういう事です。おそらく、レルの実栽培という犯罪行為を行うこの街を、よく思っていないのでしょう。何らかの形で、レルの実栽培を明るみに出そうと画策していたと思いますよ。そうなれば、少なくともシルガ半島の教会は撤去せざるを得ません」
 此処までの話を聞いて、メラウが何かを思いついたように顔を上げた。自分自身で納得いく説明が出来上がったのだろうか、顔をほころばせている。
「要するに、犯罪者を捕まえようとしてるのに、自分達まで同じ事やってると同罪になるって事ね。だからって行き急ぐと、バレて口封じに殺されるかもしれないし」
「その通りです」
 メラウの要領を得た答えに満足げな顔をするカイシ。
「例え告発に成功したとしても、他の町民達が全力で隠蔽したり、あるいはコルド側がもみ消して終わり、だな。何らかのきっかけを作る準備を、少しずつ進めていたのだろうな……」
 だからこそ『蒼髪の悪魔』という存在が、大きく出るのだ。バリセラスを筆頭に立たせて動くことにより、サミナルコ王国自体も注目する。
 更に大教会をバリセラスが潰す事に成功した場合、反コルドは今迄大きく制限されていた部分がなくなり、かなり動きやすくなるだろう。そうなれば、レルの実栽培が明るみに出るのは時間の問題である。
「……気に食わないな」
 反コルドが味方に付き、これからの戦いが楽になることが予想される中、バリセラスは不服そうな声を漏らした。
「どうしました? まだ何か」
 その声に気付いたカイシは、バリセラスの顔を覗き込んでいる。
 バリセラスは露骨に視線を逸らすと、「ふん」と鼻を鳴らした。視線を逸らされたカイシは、やれやれと肩をすくませると、玄関の方を向く。
「さて、コクロウさんも帰ってきたようですし、本格的な話を致しましょう」
 カイシの見ている玄関から、コクロウが誰かを連れて入ってくる。その人物を促しながら、3人の所まで歩いてきた。
「お待たせしました。この方が、この町で活動している反コルドのリーダーである、セネラ・シェスラエラさんです」
「……あんた達が『蒼髪の悪魔』一行だね。その娘には一度会ってるけど、まさか『蒼髪の悪魔』に関係する人だったとは思わなかったよ」
 セネラと呼ばれた人は、メラウの方を向いてそう言った。
「うい? 私と会ったことあるの? 記憶に無いけど」
 セネラにはあった覚えがあるらしいが、メラウには無いらしい。
「そりゃそうだろうね。あの時、あんたは熟睡してたからね。まあ、これから忙しくなるから、宜しく頼むよ」
 コクロウの家の隣に住んでいる、コクロウの怪我を治療してたおばちゃんこと、セネラ・シェスラエラは、3人の顔を見渡しながら頼りがいのある笑顔を見せたのであった。

第5話『鉄の剣と水の爪』へ
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