秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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レルの実 2

 腕にサナリィを抱えたまま、一人で治療が受けられそうな場所を探して歩くリィーキ。
「えーと、確かこの辺りに医療所があったと思うんだがな……」
 教会勤めであり、この村には好ましく思われていなかった大神官とは言え、足を運ぶ機会は多い。彼の頭の中には、大まかな村の配置が入っている。
 とはいえ、あの混乱で村人の殆どは我先にと逃げ回っている。医療所に着いたとしても、機能しているかどうかは分からない。だが他に当ては無いし、かなり衰弱しているサナリィをこのままにしておく訳にも行かないのだ。
 シルグはと言うと、ハガラズの生き残りを完全に駆除すると、別行動をしている。
 あのハガラズは、実を言うとリィーキが今まで大神官をやっていたあの教会内で、ある理由により閉じ込めて監視していた竜なのだと言う。教会が壊されてしまい、解き放たれてしまったのだろう。そうでなければ、こんな人里にハガラズが出現するわけが無い。
 リィーキの記憶では、大体残り5頭はいるとのこと。
(その女を安全な場所へ連れて行け。来たばかりの私より、村の配置を知っているお前の方が適任だ。その間、こちらで残る餓竜を始末してくる)
 リィーキがこの説明をした後、それだけを言いシルグはさっさと移動してしまった。他の村人は戦いに参加していた者も含めて、危険になる前にシルグが全て非難させていたのだ。
 リィーキは断る理由も無かったし、何より腕の中のサナリィが心配だったので、特に文句を言わず引き受けたのだが。
「さっきから全然人の姿見えないんだが、普通に医療所行っても人いるんだろーか?」
 そんな事をぼやきながら歩いていくと、医療所が見えてきた。しかし、人の気配は無い。
「外れか……他に当てって言うと、村長の家くらいしか無いが……」
 腕の中のサナリィに目を向ける。
「この娘って、確か村長の孫娘だったよな。そんな娘が逃げ遅れてたってことは、村長の家に行っても微妙そうだしなー……」
 彼女は衰弱しているものの、規則的な寝息を立てているだけで、それほど危険な状況でも無さそうだ。
「……それにしても軽いな。女って皆こんなに軽いのか? 身近に居る女っつったら、クィーミンくらいしか居なかったからなぁ。あいつはこんなに軽くなかったし。……こんなことアイツに直接言ったら、ぶっ飛ばされんだろうなぁ」
 その場に佇み、遠くを眺める。その方向は、リーアの町がある方だ。
「クィーミンは元気でやってんのかな。セグラも……」
 しばらく会っていない最愛の妹と、唯一無二の親友の姿を思い浮かべる。最後に会ったのは、確か去年だったか。
「セグラ。出切る事なら、蒼髪の悪魔に協力してやってくれ。お前なら、俺の考えてる事くらい察せるだろう。だから……」
 と、後ろから足音が聞えてくる。シルグがハガラズの処理を終えて、追いついてきたのかと思ったが、そこに居たのはこの村の村長こと、ジーマ・ニルスツだった。ハガラズの姿が見えなくなってきたので、あの牢から出てきたのだろう。
「お、調度良い。確かあんた村長だろ、どこか治療……」
「なっ……リィーキ大神官。何故サナリィを!」
 ジーマはリィーキの姿を見て、その腕にサナリィが抱かれている事を確認すると、怒気を含ませた視線で睨んできた。
「ちょっと待て、勘違いするな。俺はこの娘(こ)を助……」
「サナリィを話せーー!」
 リィーキの話も聞かず、ジーマは右腕を突き出した。
「人の話聞けって、ん? おい、なんだこりゃ。お前捕縛系のO・Hなんか持っていやがったのか!」
 リィーキの身体は、不可視の紐か何かで縛られたように動かなくなる。
 これはジーマの持つ『風で編んだ縄を使役する』O・Hの力だ。どんな者であろうが、老人であろうが、必ずO・Hを持つのが人間である。
「サナリィを話せーーー!」
「話を……聞け!」
 自らのO・Hと筋力で、無理やりジーマのO・Hを弾き飛ばし、強引に自由を得るリィーキ。反動でサナリィを落としそうになり、慌てて体勢を立て直す。
「なんのぉーー!」
 話を聞く気も諦める気も無いジーマは、再びリィーキを拘束しようと力を込めようとする。
 しかし、力尽きたようにその場にへなへなと崩れてしまった。
「って、何だ?」
「年寄りの冷や水は、そろそろ止めておかないと身体に障る」
 ジーマに淡々とした評価を出したのは、ジーマの後ろからゆっくりと歩いてきたシルグであった。
「捕縛系のO・Hは種類にも寄るが、自らの筋力と同程度でしか押さえ込めないのが基本だ。お前の筋力では、リィーキを押さえ込むのは無理だろう。だから先ほども、牢では使わなかったのだろう」
 シルグはジーマの横に立つと、討伐してきたであろうハガラズの骸を、無造作に放った。
「お前の言う通り、5頭は始末してきた。今の所他に姿も無い様だ」
「早ぇーな、もう終わったのか。ところで、村人って皆何処に逃げてんだ? これじゃ休ませられねぇよ」
「……まだ見つかっていなかったのか。しかし残念ながら、私も手がかりは無い」
「どうすっかな。回復系のO・Hを持ってる人間さえ見つけられれば、あとは任せられるんだが」
 相変わらず仮面で表情が分からないシルグと、心なしか肩を落としているリィーキ。そんな二人のやり取りを、状況が飲み込めずにひたすら頭の上に疑問符を浮かべている老人が一人、未だ地面に崩れていた。
「あのう……シルグ様? どういう事、なのでしょうか?」
「ああ。事情があって、この男は私の部下として連れて行くことになった」
 飽く迄淡々と、事務的に聞こえるような口調でシルグは答えた。あまりに簡潔すぎて、逆に理解できていない様だ。
「やっぱ部下なんだな」
「当たり前だ。しばらくは私の下で動いてもらう。下手な動きをされる前に、対応できるようにはしておく積りだ」
「まあそうだろうな……いきなり信用しろってのも無理か。って、今はこの娘をどうにかしないとな。村長、村の人が今何処に避難しているか知らないか?」
 今は怪我人を運ぶのが最優先だ。先ほどよりは落ち着いた様に見えるジーマに、言いそびれていた質問をしてみる。
「村人に少し聞きたい話もある。案内してくれ」
 続いてシルグも、案内するように要求する。ジーマは未だ言われた意味を完全に理解できていない様だが、取り合えずは立ち上がる。
「はい、分かりました……」
 素直に応じ、自分が歩いて来た方向を戻っていく。その後に、二人は続いた。

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