秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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レルの実 1
 
「ところでさ、お腹空かない?」
 バリセラスとカイシが、地図とにらめっこをしている真っ最中に、メラウがそんな事を言い出した。
「確かにそろそろ、夕食を摂っても良い時間帯ですね」
 カイシは完全に日が沈んだ外を眺め、出ている月の高さなどを見て、おおよその時刻を計る。メラウの言う通り、普通の家庭であれば夕食を食べている頃だろう。
「なんだかんだで走り回ったし、エネルギー補給しておいたほうが良いんじゃないかな?」
 要するに、腹が減ったから飯にしようと言いたいのだろう。ただそんな中バリセラスが、半眼でメラウを眺めていた。
 何せメラウは、町民に襲われる前に文字通り山のような肉を食べていたはずだ。バリセラスは1食分程度しか食べていないが、メラウはそれの4倍は胃に収めていた。あれから実際の所数時間しか経っていないので、普通ならまだ腹は減らないだろう。
「……あれだけ食って、まだ食うのか」
「うい。だって、あれはお昼ご飯だもん」
 それだけの量である肉の山でも、メラウの一食分にしかならないらしい。
(こいつの場合、回復系のO・Hを持っているから、仕方ないのか)
 バリセラスは心の中で、一応納得しておく事にした。
 O・Hは主に体力などのエネルギーを消費して使う能力なので、使用すれば使用するだけ疲れる。能力の度合いにも寄るが、メラウが持つような回復系の場合体力を分け与える様なものなので、普通の能力よりも消費が大きい。彼女の見た目は細いのだが、この能力を使用するように身体が適応しており、エネルギーを溜め込む貯蔵能力は高いのだろう。
 最初に能力の説明をされた時にカイシが言っていた、『白兵戦には便利な能力』というのは、貯蔵しておける体力が多いので、O・Hを使わなければ圧倒的に疲れにくいという意味もあるのだ。
 とは言え、流石にメラウの食べる量は、通常の回復系O・Hを持つ人間よりもかなり多いのだが。
「しかし困りましたね。僕は自分の分程度の簡易食料しか持ち合わせていませんし」
 腰辺りに吊るしていたのだろう、さほど大きい訳ではない食料入りの袋を取り出して見せるカイシ。これだけで3人分の食料にするには厳しいものがある。
「お二人はどうです?」
「私は無いわね。元々どっかに泊まる積もりだったし」
 町の外を出歩いていたメラウであったが、単に散歩をしていただけであったためまだリーアを旅立つ積もりが無かったので、食料を持っていなくてもおかしくは無いだろう。
「……それなりの食料は持っていたが、あのいざこざでの最中に破棄した」
 バリセラスはサヌ村で食料を分けて貰っていたが、町民に追いかけられている中で、逃げるのには邪魔になると判断したため、早々に捨てたらしい。
「つまりは、殆ど食料が無いという事ですか。弱りましたねぇ。腹が減っては軍(いくさ)は来ぬと言いますし、これだけでは物足りないでしょう。間違いなく皆さん体力を消耗しているでしょうし、もう少しエネルギー源になる食べ物があれば好ましいのですが」
「ん~。こうなったら、何か探してくるしか無いわね。農家多い町だし、野菜とか取り放題かも知んないわよ」
「この期に及んで野菜泥棒か……」
 バリセラスは呆れているが、なにやらメラウは盗む気満々だ。どの道狙われているので、怨まれようと知ったことではないのだろう。
「野菜はそれで良いとして、肉とかも狩って来たほうが良いでしょうかね」
「うい、お願い。んじゃ私は野菜担当ね~」
 そうしてメラウとカイシは立ち上がる。
 メラウは先に外へ出る。その後をカイシも外へ出ようとする。
「待て、カイシ」
 しかしバリセラスは、そんなカイシを呼び止めた。
「俺はお前に付いて行く」
 バリセラスも立ち上がり、カイシの近くに寄る。
「おやおや、とうとうバリセラスさんにまで僕の魅力が伝わってしまいましたか。残念ですけど、男には興味ないのですよねぇ」
「ふざけるな。何を企んでいるのか分らないお前を、一人で行動させるのは危険だと判断したまでだ」
「と言われましても、既に先ほど一人で行動した後だと思いますよ? 此処に来るまでは、完全に一人での行動でしたしね」
 人の揚げ足を取るのが好きなのか、怒らせると分っていながらバリセラスの癪に障りそうな事を言うカイシ。
「……あの時は俺も余裕が無かったら、そこまで気が回らなかった。だが、だからと言って野放しにはできない」
「なるほどなるほど、よく分りました。ではご一緒に狩りをしましょうか。生き物を相手にするわけですし、一人より二人の方が確立も高いでしょう」
 バリセラスが監視に来ることを了承し、カイシは背を向け、外に出る。後にバリセラスも続いた。
「それではメラウさん。僕達は何か獲物を狩って来ます。野菜、楽しみにしていますよ」
 外で中の様子を伺っていたメラウに言葉をかけ、リーアから逆方向へ歩き出す。
「うい。なるべくいっぱい狩って来てね~」
 メラウは二人に手を振り、自らはリーアへ向かって歩き出した。



「失礼します」
 セグラが報告書を作成している中、部下の一人が戸をノックしてから入室してきた。
「どうした。蒼髪の悪魔の居場所でも掴めたのか?」
 報告書を書く手を止め、部下の方を向くセグラ。
「居場所までは掴めておりませんが、いくつか新しい情報が入ってきましたので、報告をしに参りました。まとめるのに少々手間取り、遅くなってしまいました。申し訳ありません」
 部下は深く頭を下げた。
「詫びを入れるのは後で良い。今はその報告をしろ」
「はい」
 頭上げると、手にしていた書類の束を持ち上げ、内容を読み始める。
「クィーミン様と戦闘をした蒼髪の悪魔は、コルドに敵対する者として町民からの攻撃を受けていた様子です。しかし、町民全員から逃げ延び、現在はどこかへ姿を消してしまったとの事です」
「そうか……此処に攻め入ってくるという、確かな情報は今の所ないのだな?」
「はい。ただ、どうも蒼髪の悪魔は単独ではないという、報告があります」
「仲間が居る、と言うことか。確か今まで、一人しか目撃されていない筈だったな。今まで姿を見せなかった仲間が、今になって出てきたという事は……」
「何か大掛かりな行動をするのではないか、というのが多くの者見解です。今まで被害にあって来た教会に、大教会以上の場所は確認されておりませんので、仲間と合流してまず此処を落としに来るのでは、と推測されております」
「……」
 此処までの報告を受け、セグラは腕を組んで思考顔になる。
「仲間の特徴は。できれば能力などの情報などは無いのか」
「その事についてですが、有力情報があります。まず、人数ですが、蒼髪の悪魔を含めて3人。蒼髪の悪魔であろう蒼髪の男と、茶髪の男。そして長い黒髪の女だという事です。
 この女が、先日闘技場に出場しており、名は『メラウ・クレメーア』と記載され、『怪我を癒す』O・Hを所持しているようです。更にこのメラウという女、他の闘技場出場者と騒動を起こしており、そこに蒼髪の悪魔が助けに入ったらしいのです。その場で蒼髪の悪魔は『バリセラス』と名乗り、O・Hを『この世に存在する全ての金属を、自由自在に操る能力だ』と言い、実際に能力まで披露しております」
 セグラは思わず顔を上げた。これが全て本当だとすると、かなりの情報だ。
「本当に蒼髪の悪魔なのか? 自らの名や仲間の名はおろか、能力まで口に出して答えるとは……。早計にも程がある」
「それが、ほぼ間違いなくサヌ村付属教会を破壊し、リィーキ大神官を倒した人物であるらしいのです。
 クィーミン総司補佐や、共に行動した者たちの証言を聞く限りでも、同一人物である可能性が高いと」
「仮に蒼髪の悪魔で間違いないとして、何が目的なのだ……」
 上げた頭を下げ、深く頭を悩ませているセグラ。
 そんなセグラを見ながら、やや表情を曇らせながら部下は報告書を続ける。
「……一部の者の意見ではありますが、もしかすると蒼髪の悪魔は『レルの実』の事を探りに来たのではないのか。そして単独ではなく、反コルドが意図的に情報操作を行って単独犯だと隠蔽している組織であり、教会内部を深く探ろうとしているのではないか……と」
「有りうるな……。だが、まだそこまでは判断できない。
引き続き、蒼髪の悪魔の情報を集めろ。それに、この町のどこかに反コルドの人間が多数潜伏している可能性もある。気を引き締めて行け。もしサミナルコ王国に『レルの実』の存在を知られれば、この先、何が起こるのか予想も出来ない。そして、しばらくは蒼髪の悪魔対策として厳戒態勢をしく。見張りを強化しろ」
「了解しました」
 部下は報告書をセグラの机に置き、一礼すると部屋を後にした。
「……いや、既に予想はつくか……。戦争を否定する組織が、戦争を引き起こす火種となる。それが近い将来、必ず起こるだろう」
 

 リーアから少し放れた真っ暗な森の中で、カイシは槍を構えながら走っていた。木々が生い茂っているので動きづらいものの、それらを軽々しく避けつつ、邪魔になるようなツタは槍の穂先で切り落として進む。普通の人間なら、暗闇の恐怖と視界の悪さで、こんな動きはとても出切るものではないだろう。
「獲物が指定された方向へ行きましたよ~」
 カイシの前には、中型の草食獣が駆けている。彼が槍で威嚇しつつ、バリセラスの方へ誘導しているのだ。
「そのまま真っ直ぐ行け。後は此方で仕留める」
 バリセラスが、木の上で叫ぶ。声がする方向は、獣の進行方向よりやや外れている。
 獣も逃げる方向の先に、暗闇とはいえ害のある存在が居ないと分っているらしく、速度を落とすことなく全速力で駆けている。
「羅網鉄紙靭(らもうてっしじん)」
 突如として獣の足元から、十数本の線が伸びる。驚いて足を止めようとしたが、勢いが付きすぎており、獣はそのまま突っ込む。伸びた線は互いに絡み合い、体を丸ごと縛り付けてしまった。
 獣は鳴き声を上げながら、必死にもがくものの、余計に線が身体に食い込んでいる。
「お見事。では、止めは僕が」
 追いついてきたカイシは、線が絡み付いて動けない獣の首筋に、槍を刺して息の根を止めた。
 獣が完全に沈黙すると、音も無く線は解けて獣を開放し、地面に引っ込んでいった。
「お疲れ様でした~。見事なお手並みですねぇバリスさん」
 線に開放された獣の骸を掴み、バリセラスの元まで歩いてくるカイシ。
「バリセラスだ。いい加減勝手に略するな」
 木から降りつつ、名前について訂正するバリセラス。その右手には、今し方獣の動きを封じたらしき、線が束ねられて握られていた。よく見ると、鉄の紐だ。
 無造作に手を振るうと、握られていた紐は、鞘に収められた一振りの剣に姿を変える。彼はそれを、ゆっくり左腰に挿した。
 先ほどの線は、バリセラスが腰に挿していた剣を紐状に変えて出来た代物だ。
 線は木を伝って地面まで伸び、罠として設置してあったのだ。獲物が掛かると同時に形を変えさせ、捕縛するというバリセラスならではの捕獲方法なのであろう。
「O・Hの応用次第で、何でも出来ますねぇバリスさん。どうです、猟師なんかを目指してみては?」
「……余計な事をほざいていないで、さっさと血抜きしろ」
 獲り立てほやほやとは言え、そのままにすれば劣化が早まるし、何より味が落ちてしまう。獣を食用として仕留めたのなら、早急に血を抜いておく必要がある。
「そうですねぇ。ちゃちゃっと済ませてしまいましょう」
 掴んでいた獣の骸を、地面に横たえながら懐に手を入れ、刃物を抜くカイシ。多目的な作業用に使う、小型ナイフか何かだろう。こういった武器とは別の小道具は、旅をするのには必需品だ。
 まずカイシは、身近に生えていた背の低い木に触れた。するとそこから炎が発生し、辺りを薄く照らす。その明かりを頼りにしながら器用に小型ナイフを操り、上手くさばいていく。ごく自然に、そして出来て当たり前の様に無駄のない動きで。
「……お前の方こそ、猟師が向いているんじゃないのか? そこまで綺麗に処理できるのであれば、優秀な狩人だろう」
「そうですねぇ。時代の流れに逆らえなかったと言いますか、成るようにして成ってしまったと言いますか、ともかく猟師も魅力的なご職業であると思いますよ」
 バリセラスの皮肉を、なんとも無く受け流しながらカイシは作業を完了させた。さばかれた獣の骸は、市販品と大差ないほどの仕上がりだ。
「ではでは、早く戻りましょうか。メラウさんはもう戻ってきているかもしれませんし、お腹も空きましたしねぇ」
 立ち上がりながら、木に纏わせた炎を消す。やや長い時間炎を纏っていた木は、少しばかり焦げているが燃えてはいないようだ。
 さばいた獣は縄で括りつけられているので、そのまま肩に担いで先ほどの小屋へ向かおうと歩きだした。
「……カイシ。お前の目的は何だ」
 と、そんなカイシの背中へ、唐突にバリセラスは問いかけた。足を止め、振り向くカイシ。
「コルドに個人的な恨みがあるから、と言えば良いのですか?」
 彼の顔は、相変わらずの微笑が張り付いており、何を考えているのか読めない。
「コルドに恨みがあるなら、何故俺に付いてくる必要がある。反コルド連盟にでも入れば良いだろう。今見せた程度の動きが出来るのであれば、相応の地位に登れるはずだ」
「う~ん、弱りましたねぇ。僕、コルドは嫌いなのですが、反コルドもあまり好きではないのですよ。個人的に。それなら、単独個人で動いているバリセラスさんの様な方に付いていけば、僕が望む形になるかな~と思ったまでです。あまり難しく考えないほうが良いですよ?」
 変わらない微笑を顔に貼り付けたまま、カイシは再び小屋へ向かって歩き出す。
「……」
 カイシが闇に紛れながら歩いて行く姿を、黙って眺めながらしかめっ面を晒すバリセラス。
 少しずつその姿が見えなくなってきたころ、当のカイシが足を止めて振り向く。
「ほらほら、僕を監視しなくて宜しいのですか? あまり詮索されるのは好きではありませんが……そうですね、バリスさんの能力範囲を教えて頂けるのであれば、僕の事を話しても構いませんよ」
 とだけ言うと、彼は再び歩き始めた。
「能力範囲か……。俺の名を最初から知っているなら、『金属を自由自在に操る』O・Hだと言う事くらい、知っているだろうに」
 バリセラスはその場に立ったまま、カイシが歩いていった方向をしばし睨んだ後、一つ溜め息を吐いて歩き出した。


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