秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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2人目の悪魔 2
 セグラは簡素な扉を開け、飾り気が無い小奇麗な部屋へ訪れた。ここは大教会内部に存在する医療所で、先ほどまで回復系のO・Hを持つ者達が慌ただしく患者の治療に専念していたが、今は治療が終わってとても静かだ。
 中へ入ると、医療所独特な薬品の臭いが鼻につく。あまり好きな臭いではないが、不思議と安心感がある。
 部屋の中は医療器具や薬品が納められている棚と、部屋の大部分を占めているベッド。後はベッド同士を区切るカーテン程度だ。
 だが部屋の一角だけ、カーテンが閉められている。セグラはそのカーテンを静かに開けると、体中に包帯が巻かれている、1人の女性が横になっていた。
「あ……セグラ……様……」
 その女性、クィーミン・シジンは、セグラが現れると体を起こして彼を見つめる。
「セグラで良い、クィーミン。此処には今誰もいない」
 そう言われ、クィーミンは少し俯いた。
「ごめんなさい、セグラ。兄さんの仇、討てなかった」
 セグラはベッドへ腰掛け、クィーミンの体を抱きしめる。
「クィーミン。何故オレに何も言わず勝手な行動をしたのだ……」
 その声はやや震えており、目じりには涙さえ浮かんでいた。
「……ごめんなさい」
 クィーミンは肩を震わせ、セグラの体に顔を埋(うず)める。その目には涙が浮かんでおり、セグラの上着を濡らす。
「もういい。今はゆっくり休んでくれ。直ぐに動けるような状態じゃない」
 クィーミンの体から離れ、セグラは立ち上がった。その姿をクィーミンは少し寂しそうに見つめた後、再び少し俯いてしまった。
「ねえ、私が連れて行った神官達の容態は?」
「大丈夫だ。軽い打撲程度で、もう治療は終わってる」
 医療所にクィーミンしか居ないのは、他の人間は既に回復しているからなのだ。
「そう、良かった。皆私が行くって言い出したら、それなら自分達も手伝うって言ってくれたの。無事で安心した」
 少し安堵の表情になるクィーミン。強制した訳でないとはいえ、部下が傷つくのは嫌なのだろう。
「……それよりも、お前の体だ。炎に巻かれて、全身火傷を負ったんだ。少し障害も残るんだぞ……」
 そう言われ、クィーミンは包帯に巻かれている左手を持ち上げる。
「うん、分かってる。左手が……上手く動かないの。包帯に巻かれてるから、分かりにくいけど、もう細かい作業するのは無理そう」
 左手から炎に包まれたため、最も左手の被害が大きかったのだろう。
「でもね。直せるO・Hを持つ人を探すか、リハビリを続ければ直る見込みはあるらしいから、きっと大丈夫」
 セグラを見上げ、微笑む。しかしどう見ても、無理して笑っているのが分かってしまうほどに、痛々しい笑顔だ。
「無理はするな、そんな事だとリィーキも心配するだろう。あいつもまだ死んだ訳じゃないんだ」
「え? 兄さんって、死んだ訳じゃないの……」
 クィーミンの、驚きと、喜びと、しかし素直に喜べない様な顔が混ざった、なんとも妙な表情になる。
「……なるほど。殆ど早とちりだなクィーミン。最後まで報告を聞かないからだ。あいつはただ捕まっているだけで、返還要請を出せば直ぐに出られる」
 セグラに窘(たしな)められ、うなだれるクィーミン。
「結局、本当に無駄足だったのね……」
 死んだ兄の敵を討とうと思い、部下を引き連れて行ったが負けて、しかも重症を負って帰ってきてみれば、実は兄は健在だった。この事実を知って、クィーミンは心底ショックを受けている。
「……そんな顔をするな。直る見込みもあるんだろう? なら、いつも通りのお前でいてくれ。オレも、リィーキも、その方が嬉しい」
「そうね……分かった。じゃあ少し休ませてもらう。お休みなさい、セグラ……」
 セグラの言葉で楽になったのか、苦笑いの様な笑みではあったが、少し笑うとクィーミンは横になった。セグラはクィーミンに布団をかけると、医療所から出て行く。
「……ごめんなさい、兄さん……セグラ……」
 セグラが医療所から出て行った後、クィーミンは独り、ベッドを涙で濡らしていた。



 カイシは床に、リーアの町の地図を開き、思案顔をして腕を組んでいた。バリセラスが今回目的としている教会がここの大教会だと聞いて、早速作戦会議を開いているのだ。
「まずは、どう攻めるかですね」
 リーアの町はほぼ円形で、外側に田畑、内側に住居となっている。中心に大教会が建っており、その近くに闘技場などが存在している。因みに闘技場の位置は、大教会の真南だ。
「最も厳しいのが、町の中心に大教会があるという事でしょう。周りは僕達にとって、敵だらけです。例え目的を果たしたとしても、疲弊している最中、町民と再び大立ち回りを演じなければなりません」
 カイシは大教会が建てられている場所に人差し指を置き、円を描いてみせる。
 そこでカイシの反対側で地図を眺めていたメラウは、手を上げてカイシに質問をした。
「んじゃさ、大教会に抜け道とかって無いの? 結構大きい建物なんだし、隠し通路とかありそうなんだけど」
 普通の教会ならあまり存在しないが、比較的規模が大きい大教会となれば、訪れていた要人を逃がすための通路があっても、不思議ではない。
「残念ながら、僕にもそれは分かりません。存在するとは考えられますが、調べようにも町中を歩き回る事すら出来ませんから、当てにしない方が身の為ですね」
「もし存在したとしても、使うのは控えたほうが良い。何があるか分かったものじゃない」
 二人とは少し離れている所で、目を瞑り壁に背を預けて座っているバリセラスも、カイシに続く様にして口を挟んだ。メラウとカイシを仲間に加える事に決まってしまった今、渋々ながらも参加しているのだ。
「何って、例えば何よ?」
「馬鹿か。それが本当に隠し通路だという確証がどこにある。侵入者用に罠を張り巡らせたフェイクだったら、お前はどうする積もりなんだ?」
 二人が居る方向を見るどころか、目を開きもせずにバリセラスはメラウの問いに答える。
「それに、もう此処には『蒼髪の悪魔』が居ると敵側に知られていますからねぇ。あちらも守りを固めているかもしれません。隠し通路があったとしても、そこは一番守りが固いでしょうし」
 既に大教会側は、バリセラスがリーアの町に来ていることを知っている。クィーミンが現れたのもその為であるし、町民が襲ってきた事も考えると、現状では町中に入るのですら難しい。
「僕達が居る状況って、中々厳しいんですよ~。そもそも、大教会なんて数人で挑むような所じゃ無いんですから。本来だったら半ば戦争ですよ?」
 教会に所属する神官達の数は、約50人前後。大教会ともなると、その10倍は居る。約50人も所属している教会を、たった1人で破壊しているバリセラスも凄まじいことを成し遂げているが、さすがに此処では分が悪い。それが3人に増えたとしても、それほど大差は無い。
「……1つだけ疑問がある」
 そう言うと、今まで離れていた場所居たバリセラスが、立ち上がってカイシ達の近くに歩いてくる。
「バリスどしたの?」
 メラウの「バリス」という呼び名に眉をひそめるが、文句は言わず、地図の横に腰を下ろした。2人が居る方向を向き、少し間を置いてから疑問を口にした。
「何故此処に、大教会があるのか。俺はそれが不思議で仕方ない」
「おかしな事を言いますねぇ。バリスさん、先ほど大勢の信者から追われたのを忘れましたか? 信者が多いから大教会があるんですよ~?」
 バリセラスの言葉を聞いた瞬間、カイシは一層笑みを深くし、少し含みのある口調で否定してみせた。表情だけ見ると、随分と楽しそうである。
「……お前は俺が何を言いたいか、分かってて言っているだろう」
「さあ、それはどうでしょうか」
 ただ単にバリセラスを、からかって遊んでいるだけなのであろう。相手にしても進まないので、バリセラスは気にせず続ける事にした。
「サミナルコ王国は、反コルドを掲げている国だ。王族や殆ど全ての貴族が、反コルドに賛成している。つまり、ただでさえこの国にコルド教会が存在し辛い。昔から存在している様な場所でない限り、建設する事ですら難しい筈だ」
 ここまでバリセラスが話した所で、メラウは首をかしげて口を挟んだ。
「……んで、だから何?」
 その言葉に、少し間を空けた後バリセラスは深い溜息を吐いた。半眼にし、呆れ顔でメラウの方を向く。
「……お前、何も知らずにリーアに居たのか?」
「だって、別に住んでる訳じゃないし。旅している様なもんだしね~」
「それでも自分が今どんな場所にいるかくらいは、普通少しくらい調べるのが常識だろう。まさか無計画で旅をしているのか?」
 コルドの事もあるが、自分が今どんな国のどんな地域にいるか。それは旅をする為に必要な知識だ。
 人の出入りが激しい様な街であれば、あまり問題になることも無い。だが下手な場所に行けば、出身国が違うと分かるだけで、態度が変わる街も無いとは言い切れない。
 何事も下準備が必要と言う事なのだ。
「うい。殆ど行き当たりばったり」
 しかしメラウに、そんな考えは無いらしい。
「お前……変に常識無いんだな。短絡思考にも程があるぞ」
「悪かったわね。だって一々、本開いてあーだのこーだの調べるのって、面倒なんだもん」
 バリセラスは、それを聞いて更に深い溜息を吐いた。
「……なんかその、無言で馬鹿にされてるのも腹立つわね」
「実際に馬鹿にしているんだ」
「なによそれ!」
 馬鹿にされて頭に来たメラウは、拳を握り締め、バリセラス目掛けて突き出す。体勢がやや悪いので威力はさほど無いが、当たればそれなりに痛いだろう。
 しかし、バリセラスは横に少し動いただけで難なく避ける。
 それで更に頭にきたのか、メラウは突き出した手を引かず、逆に床を蹴ったのだ。当然前のめりになるが、出していた手を床に着け、そこを支点に勢いを殺さぬまま鋭い回し蹴りを放つ。
 位置的にかなり避けにくい攻撃であったが、ある程度予想していたのか、バリセラスは腰の剣を紐状に伸ばして天井に引っ掛けており、それを掴んだまま真上に跳んだ。床を蹴るようなことをしていないので、自らのO・Hを使って紐状の剣ごと体を巻き上げたのだろう。メラウが放った蹴りは、調度バリセラスの直ぐ下を通って行った。
「降りてきなさい!」
 頭上に行ってしまったバリセラスを睨み付けながら、メラウは大声で叫ぶ。
 バリセラスは器用に鉄の紐で、体を天井に固定している。メラウに叫ばれたところで、降りてくる気配はまず無い。ついでに先ほどから顔が無表情から変化していないので、メラウからしてみればよほど癪に障る。
 この建物は囲炉裏がある関係上、屋根が高いのだ。メラウがいくら高く跳ぼうとしても、そう簡単に届く高さではない。そこまで考えて、バリセラスは天井に逃げたのであろう。
「ほらほら、二人で遊んでないで、真面目にやってくださいよ。それにメラウさん、下手に暴れると衝撃で建物崩れますよ? バリスさんも、そんなに屋根に負担かけて、屋根ごと落ちてきたって知りませんよ~?」
 二人のやり取りを、涼しい顔で眺めていたカイシが、ここでようやく間に入った。建物が壊れれば、彼も巻き込まれるのだ。成り行きが面白くなりそうでも、ふざけ半分に見物すれば、悪化して倒壊しかねない。
「……仕方ないわね」
「……」
 メラウは渋々、バリセラスは無言無表情で元居た場所へ戻った。
「此処から先は僕が説明しましょう。バリスさんに任せると、このままでは終わりませんし」
 やれやれ、と肩をすくめて見せるカイシ。一呼吸空けてから、少し真面目な顔をして離し始めた。
「それでは説明します。サミナルコ王国が反コルド同盟賛同国なのはご存知です? メラウさん」
「うい、それ位なら。確か反コルド四大国の一つじゃなかったっけ?」
 反コルド四大国とは、コルドの存在を表立って否定している国の中でも、特に動きが強い四つの国のことである。
「あそっか。だったらサミナルコに教会あるのって、結構不自然ね」
「教会があるだけでは、あまり不自然じゃない」
 ここで再びバリセラスが口を挟んだ。メラウはバリセラスを睨み付けるのかと思いきや、特にそんな感情を向けることは無かった。むしろ、「そなの?」と聞き返している。彼女はあまり後に引く怒り方はしないらしい。
「サミナルコが反コルドに賛同したのは、比較的最近なんです。今から三代前の国王が反コルドを宣言してからですので、大体6、70年ほど前な程度ですね。
 熱狂的な信者が暴動を起こしたりと、最初は酷かったようですが、元々農業が盛んで作物(さくもつ)狙いの竜に襲われやすいサミナルコの土地です。熱狂的な信者は少なかったらしいですね。今では熱狂的な信者達は、不可侵地域の様な場所に移住して、大人しく暮らしているらしいですよ」
 ここまでの説明を受けたメラウであったが、眉間にしわを寄せて難しい顔をしている。頭の上には、いくつもの「?」が回っていた。
「ごめ、全然分かんない。だったら此処がその不可侵領域じゃないの? てか、そんな国になんで教会が色んなとこにある訳?」
 メラウはコルドに関しての知識をあまり持っていないため、今の説明では余計解らなくなるだけらしい。
「不可侵地域はあまり、他の地域と交流をしたりしない。ここはその逆だろう」
 リーアはシルガ半島で交流の中心として機能している。リーアが不可侵領域なのであれば、無用な諍(いさか)いを作らない様、出来るだけ交流を避けるのが普通なのだ。
「表立ってコルドを否定しているとは言え、いきなり全てを追い出すという事も出来ないんですよ。コルドは世界中に存在する最大宗教であり、賛成国も多数存在します。コルドだけでも一国に匹敵する程の武力を所持しているんですよ。行き過ぎた動きをすれば、戦争に発展しますからね。そうなれば最後、コルド賛成国の連合軍と反対国の連合軍がぶつかり合う、最悪規模の世界戦争が勃発するでしょう」
「あ、なる。それなら簡単に手は出せないわね」
 今のバリセラスとカイシ、二人の説明で、ようやくメラウも解ってきた様だ。が、数秒の内に再び頭に「?」を浮かべ始めた。
「バリスが教会壊して歩いてて、その辺の状況大丈夫なの?」
 バリセラスが行っているのは、どう考えても立派なコルドへの反逆行為だ。メラウは、それで国同士の状況が悪化しないのかと考えたらしい。
「壊しているのが、サミナルコ王国に関係のある人間であるなら、大問題だったでしょうね~」
 カイシのその言葉を聞いて、バリセラスは鋭い視線と殺気をカイシに向けた。
「おっと失礼。大丈夫ですよバリスさん、貴方が何処の出身だとかいう詳しい情報は持っていませんので」
 カイシは相変わらずの笑顔でバリセラスの視線と殺気を受け流しつつ、メラウへの説明を続ける。
「コルドはサミナルコに『蒼髪の悪魔』が何者か問い詰めているでしょうが、サミナルコに属している人間でない以上、何の情報も無いでしょうからね。コルドは『蒼髪の悪魔』の拘束を求めているかもしれませんが、おそらくサミナルコは動かないでしょうし。
 この国にとって、個人で教会を破壊しているバリスさんの様な存在は嬉しい筈です。捜索しているとコルドには伝えるでしょうが、見つけたとしても黙殺して過ごすと考えられます。コルドとしても戦争は起こしたくないでしょうから、知らぬ存ぜぬで通されれば、どうにも出来ません。反コルドを掲げている事で、元々コルドとの仲は険悪ですからね」
 ここまで説明したカイシは、最後に「解りましたか?」と付け足した。腕を組んで話を聞いていたメラウは、唸りながら黙考していた。
「ん~……なんとか大丈夫。んじゃ1つ質問、話し戻す事になるけど、リーアが出来たのって最近なの?」
 反コルドになる前に教会があるなら、特に不思議は無い。しかしリーアにあるのは不思議。この2つの事を飲み込んで考えられるのが、リーアが最近作られた新しい町なのではないか。という事だ。
「はい、その通りです。この町は今から約30年前に作られた、サミナルコが完全に反コルドとして定着してからの町です。大教会はおろか、教会ですら建設できません。だからバリスさんは、この町に教会があるのを不思議に思っている訳なんですよ。ね、バリスさん」
 全ての殺気などを受け流しながらも、バリセラスに話を振るカイシ。なんとも恐ろしい神経の持ち主である。
 これ以上無駄に殺気を放っているのも、疲れるだけと判断したバリセラスは、諦めて気を緩めつつ、カイシに対して「そうだ」と肯定した。
「うい、何とか分かった。なるるね~」
 メラウもバリセラスの疑問が理解出来てきた様で、少々嬉しそうに頷いている。が再び首をかしげた。
「んでも、ここにあるのって大教会なんでしょ? 信者が多いから大教会があるんだとか言ってるけど、実際教会と大教会ってどう違うの?」
「簡単ですよ。大教会はコルドが必要に応じて、要の場所として建設するのが大教会であり、その周りの村などに建設されるのが教会です。信者であれば、大教会のある町で生活したいと考えるのは至極当然ですから、必然的に信者が多くなります。まあ大教会があるから信者が多い、とも言えますね」
「なる」
 ここまで来て、やっとメラウは理解出来てきたらしい。心なしか嬉しそうに頷いている。
「メラウさんが話しに付いてきた所で、本題に入りましょうか。バリスさん宜しくお願いします」
 元々はバリセラスが切り出した話題なので、カイシはバリセラスに会話の続をさせるつもりらしい。
「……これ以上俺が言いたい事はない。ただ疑問を口にしただけだ」
 カイシのペースに乗せられているのが、少し気に食わないバリセラスであったが、それをどうこう言うだけ無駄だと分かったので、素直に応じている。
「やっぱりバリスさんにも此処から先は分かりませんでしたか。僕にも分からないので、この先の説明はお願いしようと思ったのですが」
「そういう意味か」
「ええまあ。分からない事は分かりませんからねぇ」
 こいつの考えの方が分からん。そう強く思うバリセラスであった。


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