秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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2人目の悪魔 1

 
 辺りが暗くなり始め、気温が下がり始めていた。農業が盛んで比較的温暖な気候のサミナルコ王国だが、夜はやや冷えるのだ。
そんな中、町から離れそれぞれのルートで、小さな小屋にたどり着いたバリセラス達。
 この小屋はあまり人が来ないのか、最近に使われた形跡が無く、所々が壊れている。
しかし多少壊れかけていたとしても、少しの間身を隠すには調度良い場所であることには変わりない。
 三人は、申し訳程度に付けられていた南京錠を、メラウが踵落としで留め金ごと蹴り落とす事で扉を開き、中に入った。
「この小屋は元々、旅人用の自由宿泊施設だったらしいのですが、老朽化して誰も使用しなくなったらしいんですよ。ホラ、至る所に穴が開いているうえに柱もボロボロです。何日も泊まる様な長居は、しない方が身の為でしょう」
 カイシは大黒柱らしき大きな柱を、軽く手で叩きながら説明する。その大黒柱からしてかなり古くて危ういのだ。この建物がどれほど脆いかが良く分かる。
 小屋の中には、中央にやや大きめの囲炉裏があると言う程度で、他に特徴的な物は特に存在しない。戸棚や物置なども設置してはあるのだが、殆ど半壊しているか、もしくは原型が無い。見た感じだが、さすがに食料の類は無いようだ。有ったところで、完全に朽ちた物しか出てこないであろうが。
「立ち話もなんです、皆さん座りましょう。街中を走り回ったのですから、少しは休まないと、いざと言うとき動けなくなりますからね」
 そう言うと、カイシは囲炉裏の横に座り、他の二人も座るように促した。
「んでも今日は此処で寝るんでしょ?」
 カイシの向かい側にはメラウが腰を下ろした。来る途中に集めてきたのだろう、薪を囲炉裏に放りこんで、カイシに火をつけるように言う。
「一応その積もりですよ」
 カイシは自分の槍を蒔きに突き刺し、メラウの言う通りに火をつけた。寒いほど冷える訳ではないが、火があるだけですごし易くなる。
「休んでいる間に崩れたら困るな、柱だけでも補強しておく。古くても何かの金属はあるだろう」
 バリセラスは直ぐには座らず、小屋の中を物色し始めた。半壊した戸棚から古びて刃こぼれした剣や、錆び付いた鎖などを見つけると、それを糸状に変えそれぞれの柱に打ち込む。
「これで1日くらいなら、崩れる心配はないだろう」
 やることは済んだ、と言わんばかりにメラウとカイシよりやや離れて腰を下ろす。
「便利な能力よね~」
 火に当たりながらバリセラスの行動を眺めていたメラウが、率直な感想を漏らした。
「バリセラスさんは物質干渉系のO・Hなんですね。私生活には便利でしょう。見たところ金属限定の様ですから、鍛冶屋になれば儲かりますよ」
「余計なお世話だ」
 カイシの言う通り、金属に干渉する能力を持つ者は鍛冶屋になることが多い。本来『金属を操る』などと言う能力は、あまり戦闘向きではないのだ。
「そーいや私の能力はまだ言っていなかったわね。聞きたい?」
 私のなら話しても良いわよ、と話す気満々だ。
「教えてもらえるのならば、喜んでお聞きしましょう。メラウさんの能力はどんなものなのです?」
「私の能力は『怪我を癒す』O・Hよ」
 カイシに促され、メラウは笑顔を作りつつそう答えた。
「ほう、なるほど。見目麗しい貴方にピッタリなO・Hですねぇ。
 ところで『怪我を癒す』ということは、外的要因の傷にのみ作用するという事ですか?」
「うい、そうよ。病気とか毒とかは無理だから気をつけてね~」
 カイシが言いたいこととは、メラウの能力の範囲が何処までなのかということだ。
 O・Hには『干渉系』『射出系』『回復系』『感覚系』等大まかな分類で呼ばれることが多いものの、人それぞれで能力が違う。例えば同じ回復系でも、失われた四肢を治せる力を持っていても軽傷には効果が無かったりするものもあれば、逆に重傷には効果が無いものの軽傷なら瞬時に治せるものもある。
 このような理由があるため、自分の能力を表す際は『怪我を癒す』や『炎を纏わせる』のように、漠然と自分の能力の範囲が計れる表現にする。
 つまりメラウの能力である『怪我を癒す』というO・Hは、飽く迄も怪我のみを癒す力なのだ。
「そうですか。白兵戦には便利な能力をお持ちなのですね」
 と、頷きながらバリセラスの方を向くカイシ。
「……何だ」
 今までの会話を聞いていたのかいないのか、カイシの視線に気づいたバリセラスは訝しげにカイシの方を向く。
「僕の能力範囲、聞きたくありませんか?」
 相変わらず笑みを浮かべたままで、教えても良いですよ、と続ける。
「……自分の能力範囲も言うから、俺の能力範囲を教えろとでも言いたいのか?」
 その問いには答えず、カイシは自分の能力範囲を説明し始めた。
「僕の能力は『炎を纏わせる』と、先ほども言いましたよね。纏わせるだけなので、直接火を点けることは残念ながら出来ません。しかも僕自身が触れなければ纏わせられないので、火をつける時は間接的になります」
 そう言いつつ右手を持ち上げて、手を広げる。するとその右手が炎に包まれた。
「外側しか熱は無いので、素肌の上に纏わせても問題ありません。さすがに長時間は無理ですが」
 右手の火が消える。そこに火傷の痕などは無かった。
「なるほどね~。だからさっき蒔きに火をつけた時は、槍突っ込んだのね」
「そういう事です」
 そうして再びバリセラスの方を向く。
「断る。お前を完全に信用した覚えは無い」
 しかしバリセラスは意に介せずに、言うつもりはないと断言する。
「そうですか、残念ですねぇ」
 笑顔のままではあるが、肩をすくめ、やれやれと首を振る。
「ところでさ、バリス訊きたい事あるんだけど。さっきの動きは何?女の人相手だと妙に弱かったわよね」
 唐突にではあるが、メラウが先ほど逃げている時と同じ内容の質問をする。それを聞くと、バリセラスは表情を曇らせた。
「確かに女性が相手だと、何故かバリスさんは受けることすらせずに、無理な体勢でも飛びのいていましたね。男性相手ならそのまま吹き飛ばしていますけど」
 カイシもバリセラスの行動について疑問があるようだ。やや真剣な顔つきになっている。
 メラウがそう呼んだ為か、カイシまでバリセラスをバリスと呼んでいるのだが、バリセラスは気づいていないのか、メラウの時の様な文句を言わなかった。
「……俺自身、よく分からない」
「うい? ……どういう事?」
 バリセラスはしばらく何かを考えているような表情をしていたが、息を吐いてメラウ達の方を向き直す。
「女に危害を加えようとすると、何故か体が震える。理由は俺にも分からない」
「分からないって、何でよ。何かのトラウマでも無くちゃ、普通そんな風にはならないと思うけど」
 バリセラスに詰め寄り、まだ何か隠してるんじゃないのかと、顔を近づけるメラウ。
「……もしかして、記憶喪失か何かなんでしょうかねぇ?」
 と、カイシは最もありそうな理由を提示する。
「女性に攻撃は出来ないのに、その理由がわからない、と。トラウマを持っているのに、記憶喪失な為原因が思い出せないと言うのが、一番分かり易いのですが」
「残念だが、記憶が欠如していると感じる事は無い」
 しかしそれは有り得ないとの事。カイシは難しい顔をして黙り込む。
 メラウはまだ解せないのか、更に身を乗り出す。顔同士の距離自体は既に数センチしか離れていないため、殆ど頭突きでもしそうな勢いである。
「本当に記憶喪失なんじゃないの? んじゃ、生まれた時の第一声とか言って見なさいよ」
「どう考えても産声だろう。第一、お前は生まれた時の事なんか覚えているのか?」
「ん~。そーいやそうね」
 などと言いつつ、メラウは元の場所に戻った。
「それにしても、今まで教会壊して回ってたんでしょ? いくらなんでも女の神官くらいどこの教会にも居ると思うけど」
 神官とは、コルドに所属している言わば聖職者だ。ただし、どの神官も一部例外を除いて戦闘訓練を積んでいるため、戦いとなれば武器を手にして参加してくる。
「知らない。今まで俺が行った教会には、女の神官は存在しなかった。もし出合った場合は、可能な限り排除しようと考えていたが、全て杞憂に終わっている」
「何それ? 変な話ね~」
 コルドは基本的には宗教。神官になる為の条件に性別は関係ない。しかしそれが全く居ないというのも、かなり不思議な事である。
 現に先ほどリーアの町で襲ってきたクィーミンも、神官よりも位(くらい)の高い、大教会の総司補佐だと名乗っている。
「でもさ、私がタガルに盾にされてたじゃない? あのとき一緒に斬るとか言ってたのは?」
「……ただのハッタリだ。あまりの馬鹿馬鹿しさに一瞬本気で斬りそうになったが、斬る気は無かった」
 あの時タガルは動揺していたので、とっさに脅すという手段をとっただけに過ぎない。メラウを助けようとしていなかっただけあって、その後タガルがどんな行動を取ったとしても、バリセラスにはあまり関係の無い話なのだ。
 この説明でメラウは納得たらしく、「なるほどね~」と頷いている。
 そんな中、カイシは腕を組んで難しい顔をしていた。
「……バリスさん自身が分からないのであれば、この件に関してあまり深く詮索しても無駄でしょう。しかし今後は、女性の相手は僕が引き受けますので、どうかご安心を」
 しかしカイシの言葉に、バリセラスは顔を顰(しか)めた。
「今後? お前まだ付いてくる気なのか」
 迷惑そうな目でカイシを見る。信用していないと言っている通り、カイシを受けいれる積もりは微塵もないのだろう。
「当然でしょう、そのために此処にいるのですから」
 数秒前まで難しい顔をしていたカイシは、瞬間的に再び笑顔を作り、当たり前だと肯定する。
「あ、私も行く~」
「おお、良いですね。人数は多いほうが楽しいですし、それがメラウさんの様な美しい女性なら大歓迎です」
 更にメラウまで便乗し、カイシは乗りだした。
「勝手に話を進めるな」
 当然バリセラスが許す訳が無い。殺気を飛ばし、二人を威圧する。
「俺は仲間を求めた覚えは無い、邪魔だ。今は巻き込んだ事もあって一緒に行動しているが、お前達と馴れ合う気は無い」
 声こそ落ち着いていて静かだが、低くそして重く響き、明らかな気迫が込められている。老人や子供であったのならば、その場で命を落としかねないほど凶悪なものとなっている。
「ではこうしましょうか。僕達は勝手にバリスさんに付いて行く訳です。その過程で色々とお手伝いもしますが、基本的には別パーティという事にしておきましょう。バリスさんは心置きなく独りで行動してください、僕達は僕達で行動しますので」
 しかしカイシは、気にする素振(そぶり)すら見せず、逆に神経を逆なでするような事を言い出した。
「お前は……!」
 バリセラスの殺気が数倍に膨れ上がる。
「お気に召しませんか。では、一緒のパーティの方が良いという事ですね。これで決まりました。その方が僕としても楽ですから、それでは今後の行動を決めていきましょう」
 自らに注がれる殺気の一切を、その張り付いた笑顔で無視し、強引に話を進めていくカイシ。
「何を言っても、無駄だと言うことか」
「無駄ではありませんよ? 一応聞いていますから。バリスさんの言葉として、記憶にとどめて置きましょう。記憶していれば、いずれ役に立つかもしれません」
 これ以上問答しても無駄と悟ったのか、深くため息を吐きバリセラスは、そっぽを向いた。
「勝手にしろ。いつの間にか略されているが、俺はバリセラスだ。バリスじゃない」
 結局はカイシに押し切られてしまったのであった。
「はい、分かりましたバリスさん」
「……ふん」
 こいつに何を言っても無駄だと、バリセラスは完全に理解した。


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