秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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蒼髪の悪魔 4
「クィーミンがやられた?」
 男は座っていた椅子から身を乗り出して部下に問いただした。
「何故クィーミンガ独断で動いているのだ。説明しろ」
「昨日(さくじつ)、サミナルコ王国シルガ半島サヌ村付属教会大神官、リィーキ・シジン様が例の『蒼髪(そうはつ)の悪魔』に倒され、サヌ村自警団に拘束されたとの報告、そしてその『蒼髪の悪魔』がリーアの町に入ったとの報告が届きました。
 それをクィーミン様に報告した所、数人を引き連れて討伐にあたった模様です」
「何故私より先にクィーミンに報告した」
「セグラ様がご不在でしたので、その場合は代理であるクィーミン様へと報告する義務があります」
 セグラと呼ばれた男はイライラとしながら部下を睨みつける。しかしこの部下が間違った行動をした訳ではない。報告するのも仕事の内だ。
「……それで、クィーミンの容体は?」
「全身に渡るほどの大火傷を負い、現在回復系O・Hによる治療中です。回復の見込みはあるようですが、やや障害が残るのは確実との報告が入っています」
 セグラは憤りを隠しきれずに居たが、報告の義務を果たした部下に退出を命じる。その部下は報告書を机に置き、一礼すると部屋から退出した。
「クィーミンは兄を慕っていたから、倒されたと聞いて居ても立ってもいられなかった訳か……」
 立ち上がり、居心地が悪そうに部屋の中を歩き回る。
「独断専行など、本来なら処罰物だ。何故私に報告もせずに行ったのだ、クィーミン……」
 落ち着かない、どうも落ちつかない。
 セグラとリィーキは親友同士であり、リィーキが捕まったと聞いて憤るのはセグラも同じだ。しかしセグラはクィーミンがやられたことに対して最も怒りが強い。
 セグラとクィーミンは結婚こそしていないが、共に愛し合っている仲なのだ。
 許せる筈も無い。行けることなら、今すぐ自分もクィーミンと同じ事をするだろう。しかしそうも言っていられない。自分はシルガ半島大教会の総司なのだ。勝手な行動は許されない。
 取り敢えず先ほどの部下が置いていった報告書を眺める。少しは気も紛れるであろうし、それにこれからの行動を決めなければならない。
「サヌの教会はほぼ全壊か。この村は信者が居ない上に人口も少ないので献金もあまり無い。折角リィーキが、教会を撤去させる手続きを取っていた所なのに……。本部には報告しておく必要があるな。再建設はしなくとも問題無いと……
 リィーキ、皮肉な事にお前の望みは叶えられそうだ。もっと違う形なら、喜べただろうに……」
 自分の机に座ったセグラは、報告書とペンを取り出して、本部へ送らねばならない報告書作りに入る。
「『蒼髪の悪魔』か。神の住む『教会』を襲うので悪魔……。この町に来たのならば、私がその悪魔に引導を渡してやろう」
 セグラは気づくと、右手に持っていたペンを握りつぶしていた。



 バリセラスはカイシと名乗った青年に連れられて、騒ぎを起こした食堂から離れ、人気(ひとけ)の少ない町外れへと移動していた。
 人通りが少ない道を何度も曲がり、人目を避けるように此処まで来たのだ。完全に人の気配は無く、とても静かな場所である。
「ここまでくれば、まあしばらくは大丈夫でしょう」
 カイシが笑みを浮かべながらバリセラスを振り返りながら言う。
「……お前は一体何者だ?」
 バリセラスは未だ、険しい顔つきでカイシを睨んでいる。
「先ほども言いましたよ~?僕はカイシ・クレパイグと申します。と」
「それはいい。何故俺の名前を知っている」
 助けられはしたが、バリセラスはカイシを信用していない。
 答え様によってはこの場で斬り捨てるだろう。それほどの殺気をバリセラスは放っている。
「こう見えても僕は情報屋でしてね。貴方の噂は聞き及んでおりますよ。『蒼髪の悪魔』さん」
「『蒼髪の悪魔』って何?」
 何故か一緒についてきたメラウが、バリセラスの後ろからひょっこりと顔を出してそんな疑問を口にする。バリセラスは「何故お前が着いて来る」と言いたげな目線を送っているが、全く気にしていない。
 カイシは話の腰を折られても気にすることなく、メラウに目を向けた。
「ご存知有りませんか。神聖なる教会に牙を向ける、神を滅ぼさんとする者。でしたっけ?
まあコルドが勝手に付けているので、実際の所僕には分かりません。しかし、教会とは神を崇める場所。そこを壊しているので悪魔という形容詞が付いたのでしょう。最近では結構な有名人ですよ。
 コルド信者からは悪魔、そうでない人からは救世主だ。などとね」
「へ~。教会なんて壊してるんだ、無茶してるわね~」
 メラウはバリセラスをまじまじと眺める。
「ところで、お嬢さんはどなたです?まさかバリセラスさんの恋人でしょうか?」
「まっさか~」
「こいつは関係ない、勝手に着いて来ただけだ」
「うい、そーいうこと。なんか面白そうだしね~。あ、私の名前はメラウよ。メラウ・クレメーア」
 そう言って右拳を前に突き出す。格闘家だというアピールだろう。
「そうですか。お綺麗なお嬢さんですから、お茶にでも誘おうと思っていた所だったんですよ~。どうです、今からでも」
「ん?奢ってくれるなら良いわよ~」
 バリセラスそっちのけで会話を始めるカイシとメラウ。しかもカイシはナンパまで始めた。その姿を睨み続けながらバリセラスは話を戻す。
「それで、俺を助けたということは、お前はコルド信者では無いんだな?」
 カイシはメラウからバリセラスに視線を戻し、答える。
「当たり前ですよ~。身内燃やしてどうするんですか」
「俺の名前も情報屋だから知っている。とでも言うのか?」
「当然です。他に理由も無いでしょう」
 特に意味は無いであろうが、くるくると手に持っている槍を片手で回し始める。この槍はカイシの身長ほどの長さがあるため、かなりの重量があるだろう。それを簡単に片手で回しているのだ、筋力も技術も相当なものだろう。それに、この槍に触れただけでクィーミンは燃え上がったのだ。
「お前は炎関係のO・Hだな」
 その言葉を聞いたカイシは、回していた槍の動きを止める。すると槍の先端部分。つまり刃の部分から炎が噴出し始めた。
「大当たりです。僕のO・Hは「炎を纏わせる」能力です。自らの触れた物にならそれに炎を纏わせることが出来ますよ」
 そう言うと槍の炎は消える。
「消すことも出来ますけどね」
 カイシは相変わらず笑みを浮かべたまま、バリセラスを眺めている。つかみどころが無い人間だとバリセラスは思った。あまりしつこく聞いても無駄だろう。なので用件だけを聞くことにする。
「それで、俺に何か用か」
「ああ、そうでしたね。僕は貴方に忠告をしに来たのですよ」
 声色も顔の表情も変えずにカイシは話を続ける。
「ここの町の教会は止めた方が良いですよ?なにせ、ここにある教会は『大教会』ですから。普通の教会とは規模が違います。下手したら簡単に死ねますね」
「それは知っている。簡単にだが調べた」
 バリセラスは宴会が始まる前のサヌ村で、可能な限り情報を集めていたのだ。
 そこで得たのが、リーアの町の規模と教会の規模、そしてそこの総司の能力の情報だった。詳しく知ることは出来なかったが、水を操る事が出来るO・Hだとバリセラスは聞いていた。
「その程度の事で諦めるつもりは無い」
「もう1つあるんですよね~」
 カイシはバリセラスが言い終わると同時に、勿体ぶるようにして言い始めた。
「ここは大教会がある場所なんですよ、つまりはそれがある事を町ぐるみで望まなければ、まず存在しないものです」
「てーと?」
 そう聞いたのはメラウだ。バリセラスは無言。しかしメラウは構えをとり始め、いつの間にかバリセラスは剣の柄に手をかけている。
 カイシも静かに槍を構え始めた。
「つまり、ここの町は」
 突然、バリセラスたちがいる辺りの地面が隆起する。
「ほぼ全員コルド信者なんですよ!」
 それと同時にカイシが叫んでいた。
 3人は同じ方向へ跳ぶ。あのまま居たら間違いなく隆起した地面に串刺しにされて死んでいただろう。
「逃がしたぞ、追えーー!」
 地面を隆起させたらしき中年の男が叫ぶ。回りには老若男女様々な人間が武器を片手にバリセラスたちを睨んでいた。恐らく地面に関係するO・Hの持ち主なのだろう。
 どうやら食堂の騒動があったお蔭で、バリセラス達がコルドに敵対する人間だと言うことが知れてしまった為だろう。
「どうします?町の中に居る限り逃げ場はありませんよ」
「取りあえずひたすら逃げる。此処は町外れだ、なんとか逃げ切れるだろう」
 走りながらバリセラスは腰の剣を抜く。前方から数人の男が斬りかかって来た。それを難なく受け止め、昏倒させてさらに走る。
「うおっと、危ないわね~。なんか刺さったら痛そーなもんが大量に飛んできたけど。なんか面倒そうよ~?」
 などと気楽にカイシとバリセラスの後を追うメラウ。
「お前は元々関係ないだろう。さっさとどこかへ行け」
「無理。私もすでに仲間って見なされてるっぽいし。こうなったら最後まで手伝うわよ~」
 緊迫している状況にもかかわらず、妙に気の抜けた口調で言いのけるメラウ。
「最近って結構退屈でね~。こういう面白そうなことには首突っ込んでおかないと」
「邪魔だ」
「気にしない気にしない」
 そんな問答をしつつも、襲ってくる町民を次々と昏倒させていく。
 次の瞬間、バリセラスの前に剣を構えた女性が襲い掛かる。見た目からして素人だ。
 しかしバリセラスは攻撃をしようとせず、相手からの攻撃を受け止めることもせずに、無理な体勢から避けている。
「大丈夫です?バリセラスさん」
「あんたなにやってるのよ!」
 メラウがその女性を殴り飛ばす。カイシは、バリセラスが体制を崩した所を狙ってきた町民を持っている槍であしらっている。
「ちょっとおかしいわよ?」
 走りながらではあるが、メラウがバリセラスの顔を覗き込んで疑問符を浮かべる。
「……後で理由を話す。今は逃げることだけ考えろ」
 あまり話したくはなさそうなバリセラスだが、顔を伏せながら答えた。
「しょーがないわね。んじゃ、さっさと行きましょ。んでも、何処に?」
「このまま真っ直ぐ行けばもう少しでリーアから出られます。そこから北に行けば少し離れた場所に小屋がありますので、一旦そこに非難しましょう。このまま行けば袋のねずみですので、バラバラに行動してそこを目指す方が良いですね」
 カイシはこの辺りの地理に詳しいらしく、逃げ場所の正確な位置と、そこにたどり着くまでのルートをバリセラスとメラウにそれぞれ教える。
「分かった。他に手も無い、今回だけは信用しよう」
「うい、りょーかい」
 バリセラスとメラウはそれに承諾する
「では死なないでくださいよ~。今です!」
 カイシの掛け声と共に3人はそれぞれ別方向に跳んだ。


 カイシはバリセラスとメラウの2人と別ルートで、自らが示した小屋に向けて建物の間を縫うように走る。
 此処、リーアの建物の配置が完全に頭に入っているらしく、地元住民しか知りえないような抜け道を次々と抜け、まだ町中ではあるが後を追う町民は一人も居なかった。
「ふう、これで撒きましたでしょう」
 かなりの速度で逃げていたにも関わらず、顔は相変わらずで疲れている様子が無ものの、足を止め周りを見渡す。今彼がいるのは路地裏であり、人気は無い。
「そろそろ姿を見せてもらえませんかねぇ。男に見張られているというのも、あまり心地良い気がしないものですよ?」
 そう口にすると、カイシの背後から少し離れた所より、帯剣している20代後半程であろう男が姿を見せた。
「……流石にお気づきでしたか、カイシ様」
 カイシを様付けで呼んだ男は、歩いて近づいてくる。
「おかしいですねぇ。『様』を付けて呼ばれていますが、あなたと会った事なんか無いと思うのですが。それに男に様と呼ばれてもあまり嬉しい気がしませんし。僕にそちら側の趣味はありませんので」
 片手で無意味に槍を回しながら、軽い口調で皮肉混じりに言ってのける。
「ご冗談はお止めください。私はカイシ様を影からお守りするようにと、仰せ付けられた者です」
「守るのですか。監視などの間違いではありませんか?」
 回していた槍を止めて地面へ付け、相変わらずのにこやかな顔をまっすぐ男へ向ける。しかし、その笑顔の奥に秘められている瞳には、薄ら寒いほどに一切の感情が込められていない。
 カイシの顔を見て、男は薄っすらと脂汗を流す。
「……カイシ様、どうかお戻りください。貴方様は現、りゅ……」
 男が何かを言おうとした瞬間、喉元(のどもと)にカイシが槍の刃先を付きつけていた。今まで鞘に収められていた刃は、いつの間にか引き抜かれて剥き出しになっている。あとほんの少し動くだけで、首元から血飛沫が舞うだろう。
「口は慎みましょう。何処で誰が聞いているのか分らないのですよ? 下手な事を言う様であれば、僕は人殺しになってしまいますからねぇ」
 突きつけた槍は微動だにせず、口調は同じ様な軽さで話すカイシ。顔の表情も変わっていないが、何の感情も込められていなかった瞳には、明らかな殺意が込められている。
「も、申し訳ありませんでした……。以後気をつけます……」
 萎縮しようにも、少しでも動くと槍が刺さってしまうため、男はそのままの体勢で謝罪をしている。
 すると、向けられていた槍が静かに引き戻されていく。身の危険が去った男は、安堵のため息を漏らしている。顔面蒼白で、額にはびっしりと浮かんだ脂汗で前髪が張り付いている。顔だけを見るのならば、水死体に近い。
 そんな男の様子を眺めながら、一層笑みを深くするカイシ。
「もう一つ教えておきましょうか」
 カイシが何かを言おうとしているので、男は改めてカイシを見る。

 ――フォン――

 何か、風を切るような音が聞えたと思うと、いつの間にか体の感覚が無くなっていた。同時に、どんどん目線が地面へと近づいて行き、次第に思考もぼやけてきている。
「僕は見た目より短気なのですよ。ついでに容赦の無い性格をしているものでして」
 カイシが何かを言っている。しかし男が持つ人間としての機能は、既に失われ、地面に頭が転がった時点でようやく、何が起こったのか全て理解して完全に意識を失った。
 赤と無色の鮮血を切断面、つまり首から噴出しながら男の胴体が仰向けに倒れる。
 カイシは数歩後ろへ下がり、自らに男の血液がかからない位置に下がった。ついでに男の首を刎ねた槍を大きく振るい、刃に付いた血を払い落とす。
「さてと、そろそろ行きましょうかねぇ」
 人一人を殺したというのに、何の感情も出さず後ろを向いて歩き出す。と、数歩歩いたところで、足を止めた。
「そうそう、言い忘れていました。隠蔽系のO・Hを持っているのは嬉しい事なのでしょうが、気配がバレバレですよ。それで隠れている積もりなのであれば、もう一度訓練を受けてきたほうが良いかもしれません」
 彼の後ろには首の無い死体しか居ない。だが、そのまま言葉を続ける。
「おそらくこの方は、感覚系のO・Hでしょうね。基本的にはこの人が『目』の役割を果たしているのではありませんか? 近くに居た事から考えて、遠視型ではなく透視型でしょうか。まあ、まだまだ物腰が未熟な事を考えると、最悪誰かに見つかった時の身代わりか逃げる為の囮役でしょうね。姿が見えないあなたの方が、見つかる確立は低いでしょうし」
 此処にはカイシしか話を聞けるような人はいない。しかしカイシが話す内容は、此処に居る視えない誰かに向けられているとしか思えない。
「おやおや、此処まで言っても姿を見せませんか。そうなのであれば仕方ないです。貴方も、こちらの方とご一緒に天国の階段を登ってもらうしかありませんね」
徐に槍を水平に持ち上げ、両足を肩幅に開き、少し腰を落とす。
「申し訳御座いません……命令とは言え、今までの非礼、どうか、お許しください……」
 すると先ほどの男より少し後ろの空間から、別の男が土下座姿で現れた。先ほどの男よりも年配で、30代半ばという所だろう。
「おお、これは。まさか本当に居るとは思いませんでした。口から出まかせも言ってみるもんですねぇ」
「うっ……」
 あまりの事に、うめき声の様な音を口から漏らす男。
「冗談ですよ。まだまだ洞察力が足りてませんねぇ」
 肩を揺らしクスクスと含み笑いを漏らしながら、カイシは後の男の方を振り向いた。その顔は更に深みを増した笑顔であり、今の男の反応が完全に思惑通りだったことが伺える。
 悔しさ故か、男は土下座のまま顔を上げることなく押し黙ってしまっている。
「からかうのもここまでにして、少し真面目な話をしましょう。僕が何故あなたを生かしておくのか、お分かりですか?」
「……余計な混乱を抑えるようにこの死体を処理する事と、二度と監視役を寄越すなという報告の為であると考えられます」
 男は頭を上げず、変わらず土下座のままで答えた。
 この回答に、カイシは『予想通り』という顔をする。
「惜しいです。最初は正解ですが、次は異なります」
 カイシの言葉に、男は思わず頭を上げると、カイシは背を向けて空を見上げていた。
「報告する内容が違うのですよ。『監視を寄越すな』という内容では無く、『次に監視役を送り込んでくる場合は、見目麗しい女性にして欲しい』という内容です。むさい男だと、また殺してしまうかもしれませんから」
 男はポカンと口を開けて、何を言われたのか分らないような顔をしている。
「では頼みましたよ。あまり遅いと余計に疑われてしまいますので、僕はもう先を急ぎます。帰りの道中、お気をつけて」
 未だ男が混乱している最中、言いたい事を言い終えたのか最後まで男の顔をまともに見ること無く、カイシは勢いよく走り出して行ってしまう。
 この男が、言われた意味を完全に飲み込んだ頃には、もう姿は見えなくなっていた。
「……恐ろしいお人だ。何を考えているのか、理解など到底出来そうに無い」
 しばらくカイシが立っていた場所を眺めていた男は、深くため息を吐いた後、手早く仲間であろう男の死体を片付け始めた。


第3話『2人目の悪魔』へ
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