秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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蒼髪の悪魔 3
 バリセラスがメラウと騒ぎながら去っていった後、一人の青年が自分の身長ほどの杖をつきながら歩いてきた。
 その青年は商人のようであり、また旅芸人にも見えるような風貌だ。170センチ弱の痩躯をゆったりとした旅装束で身を包んでいる。歳は20代前半ほど。髪型は薄い茶色で、髪を立たせ一房だけ前に垂らしている。左耳にのみ、金色のピアスを付けているが、顔には人懐っこそうな笑顔が張り付いているお陰か、とても穏やかな雰囲気を持つ青年だ。
 大きく伸びをして、持っていた杖をくるくると回して再び地面へつく。
「ようやく追いつきましたねぇ。なんとも、さすがバリセラスさん。進むのが早い早い」
 青年は少しの間そこに佇んでいる。すると数人の男達が現れた。
「お疲れ様です。貴方様が此方に訪れたと言うことは、例の男がこの町に現れたということでしょうか?」
「そういう事でしょうね~」
 やれやれとため息混じりに呟くと、再び青年は歩き始める。
 バリセラスがメラウと共に歩いていった道を。
「では我らは報告を済ませます故、失礼致します」
 歩いていく青年の後姿目で追いながらそう言った後、頭を下げて男達は足早に去っていく。
 当の青年はと言うと。
「今日くらいには追いつきたいですね~」
 などと呟きながらゆっくりと歩いていた。


 リーアの町とは、サヌ村と同じサミナルコ王国シルガ半島に位置する、人口約5千人の比較的大きな町である。
 サミナルコ王国とは、元々農業や漁業が盛んな国で、この町は農家が多い。
 闘技場などの娯楽施設は中心街に存在し、畑などはその殆どが町の外側に作られている。そしてシルガ半島で最も大きい面積を誇るリーアは、交流の中心として機能している為、娯楽施設が存在するのだ。
 メラウとバリセラスはというと、リーアの町中心街から少し離れた場所にある食堂にいるのだった。
 あれからしばらく暴れまわっていたメラウは、結局バリセラスが根負けしたことで大人しくなり、こうして二人で食堂を訪れたのだ。
 メラウがバリセラスを座らせ、何かの料理を注文する。その間にメラウは、斬られて破れた服から着替えるとトイレへ姿を消した。一応女性なだけはあるので、この辺は気になるのだろう。注文した料理が運ばれる頃に、彼女は着替え終えて帰って来た。
「……それで、この山は何だ」
 メラウが着替えている間、律儀に待っていたバリセラスの目の前にそびえ立つそれは、まさしく『山』であった。
「そう?こんなもんだと思うけどね~」
 そういいつつ、メラウはその山に右手に持ったフォークを刺して、刺さった物体を自らの口の中に放り込む。
 バリセラスが山と表現した物、それは高さ1メートル強の巨大な肉塊だった。それが向かい合ってテーブルを挟むように座っている二人の目の前に鎮座しているのだ。周りで食事をしている他の客などは目を剥いている。
 一体この肉塊を建造するのには、どれほどの肉が使われているのかなど到底分からないが、食用に飼育されて肥えた豚であったとしても1匹では足りないだろう。これを注文したのはもちろんメラウだが、出す店もどうかしている。
「いくら俺でも半分すら食えないぞ」
 脂汗を流しつつ山を見上げるが、当然量が減ったりはしない。むしろ重量感あふれるこの料理と呼んで良いのかさえ分からない物品は、バリセラスの食欲を減少させていくのだった。
 仕方が無いので取り敢えず食べてみる。意外と美味いなと思ったので、案外食が進んだ。5分の1ほど食べたところで何となく肉の横からメラウを覗いてみる。するとどうだろう、すでに半分以上食べ終えた所だ。
「よく食えるな……。あまり食いすぎると太るんじゃないのか?」
「大丈夫大丈夫。体重なんか増えないわよ。なんかそういう体質らしいから」
 カラカラと笑いながらも食べ続ける。
「…………そうか」
 黙々と再び食べ始めるバリセラス。
「ところでさ、あんたの名前なんていうの?」
 食べながら、メラウは自分の名前を名乗っていないことを思い出し、名乗る事にした。
「私はメラウ・クレメーアよ」
「……バリセラス・ガルガートだ」
「バリセラス?だったらバリスね、そのままじゃちょい長いし」
 その言葉にバリセラスは眉を吊り上げる。
「人の名前を勝手に略するな」
 しかしメラウは悪びれる様子は全くない。
「良いじゃない、別に。呼んで分かれば大丈夫でしょ」
「……ふん」
 メラウの言い分に怒ったのか、満腹になったのか、席から立ち上がるバリセラス。
「1食奢ってもらったことに関しては礼を言う。だがもう合うことも無いだろう、じゃあな」
「うい?どっか行くの?」
 フォークを咥えたまま首をかしげるメラウ。
「お前には関係ない」
「ひっどい言い様ね~。いいじゃない、聞いてるんだし答えても」
 そういいつつまだ食べている。
「断る。それに、人に話を聞きたいなら食うのを止めろ」
「ん~……嫌」
 いつの間にか最後の一切れになっていた肉塊を胃に収め、「ふい~」と息をついて椅子の背もたれに寄り掛かる。
「……だったら聞くな」
 メラウに背を向け歩き出すバリセラス。しかし、ふと足を止める。
「一つ聞く」
「うい、何?」
「お前はコルド関係者か?」
 腰に吊ってある剣を静かに抜く。
「コルドってあの宗教の?目障りとは思うけど、基本的に関わってないわよ」
「なら、逃げろ!」
 バリセラスはそう大声で叫びながら外に飛び出す。そこには6人ほど、鎧を身にまとった男が立っていた。
 バリセラスはその中に1人、最も近くに居た男の足を動く前に切り捨てる。男は足の筋を斬られ、その場に崩れた。
「何の用だ」
 油断無く剣を正眼に構えて男達に問う。
「此方が何も言う前に1人を切り伏せて、その言い様か」
 声は男達の後ろから聞こえた。
 バリセラスはハッとして声の主を見る。そこにいたのは、ヒラヒラが大量に使われたドレスを着ている人間であった。顔にヴェールを掛けてあるので年齢や表情はわからないが、体の線と胸の膨らみと声で女と分かる。
「……コルド関係者なのは間違いなさそうだな」
「私はクィーミン。サミナルコ王国シルガ半島大教会総司補佐、クィーミン・シジンだ」
 女は男達の前へ出る。男達はバリセラスを取り囲むように動き、男の1人は斬られた仲間を治療している。
「シジン……?あの大神官の家族か?」
 バリセラスは昨日、サヌの自警団に引き渡した男を思い出す。名前はリィーキ・シジンと言った筈だ。
「その通りだ。お前は兄さんの仇、此処で死ね!」
 そういうと構えをとる。見たところ武器などは所持していない。O・Hが武器なのだろう。
「はぁ!」
 クィーミンが殴りかかってくる。
「…………っち!」
 バリセラスは受けずにかわす、しかしそこに別の男が斬りかかって来る。
 その男を先に倒そうとするものの、後ろからクィーミンが殴りかかる。だがバリセラスは、剣で受け流すことも出来るだろうに、別の敵が居ると分かっている方向に飛びのく。
「どうした、怖気づいたか!」
 尚も殴りかかってくる。
「クソッ…………」
 後ろからは、また別の男が斬りかかって来る。バリセラスはそれを剣で受け止めるものの、またクィーミンが殴りかかってくると、受けもせずに避ける。
 バリセラスは他の男達の攻撃に対しては対処をするのに、クィーミンの攻撃だけはただ逃げているだけだった。その為ろくな攻撃が出来ないで居る。
(まずいな……正直、さばききれない)
 包囲していた男に、完全に背後を取られる。バリセラスが気づいた時にはもう、剣が振りかぶられていた。
――ドフッ――
 鈍い音が響く。誰かが、バリセラスを斬ろうとしていた男を、殴り飛ばしたのだ。
「バリス大丈夫?なんか見てられないんだけど。手伝おっか?」
 メラウだ。男を殴り飛ばした左拳を握り締め、バリセラスを眺めている。
「……取りあえず礼を言う」
「うい。んじゃ、行くわよ!」
 メラウが疾風の様に動く、何が起こったか分かっていない男達は慌てふためいている。
 6人いる内の、1人は先ほどバリセラスが倒しており、1人はおそらく治療に回っている事からサポート専門。先ほど殴り飛ばされた男は、それほどダメージが無いのかそのまま立ち上がっている。つまりメラウが相手にする残りの敵はクィーミンを除く4人。
 何の武器も所持していない女が、いきなり構えてこちらに闘志を向けてくる。この状況に驚き数人は狼狽している。それを好機と取り、メラウは一番近くに居た男の懐まで入る。男は驚きつつもとっさに反応するが、既に遅い。
「せあぁ!」
 顎を下から打ち上げられ、完全に中へ浮く。顎は一見すると大してダメージの出ない場所に見えるが、顎はこめかみ辺りから繋がっているのだ。ここに大きな衝撃を与えると顎関節(がくかんせつ)から伝わって衝撃が脳まで達する。当然まともに動けなくなるし、記憶が飛ぶことだって珍しくない。
 薄く意識は残っていたのか、後頭部を地面に叩きつけられないように受身は取っていたようだが、1人目の男は完全に沈黙した。
 1人目が倒れたのを見て、残った3人の男がメラウを囲むように動く。
 当然メラウとて、その状況を大人しく見ている訳が無い。
 今倒した男が持っていた予備の剣を、殴るついでに抜いていたメラウ。それを囲まれる前に、適当に選らんだ中の1人に投げる。しかし防御場を作るO・Hを持つ人間なのか、投げられた剣は男の眼前で弾かれた。弾かれたが、その瞬間、男は背中から地面に叩きつけられていた。
 上で防御を貼れば、下の方は無意識の内に無防備になってしまう。どの道あの剣は、単なる目くらましなのだ。1テンポ遅れて逆の方向から攻撃されれば、案外人間など反応できないものである。
 これで2人目。ここでメラウは、2人目の男を盾にするように持ち上げる。残った2人は盾にするのかと身構えて攻撃するのを一瞬だけ止める。止めた所に、今度は剣ではなく男が飛んできた。
 まさかメラウの様な女の細腕で、男一人投げ飛ばせるなど思わないだろう。しかも飛んでくるのは自分の仲間だ。下手に避けるわけにも行かず、3人目の男は2人目ごと地面に転がった。2人目も3人目も、特に3人目はろくに受身も取れないので、まともに衝撃を受けて地面に転がる。鎧をつけているとは言え、押しつぶされるような重い衝撃を全て緩和させてくれる訳でも無い。
 実際には、メラウが行ったのは単に突き飛ばしただけだ。2人目の男を担いだまま、腰を落とし、半身に構え、相手の腹部に手を当てる。そして、身体全体で踏み込むように押し出す。こうすれば遠くに投げ飛ばす事は出来なくとも、間近にいる敵相手にぶつけてやるくらいのことは出来る。
 最後に残った男は、仲間の事は気にせず、メラウのみを狙って攻撃を仕掛けてきた。メラウが2人目を吹き飛ばした型のまま静止している瞬間を狙って、手に持っている剣を勢い良く振り下ろす。
「せいやぁ!」
 メラウは軸足を支点に、逆の足を後ろ回し蹴りの要領で、弧を描くように振り上げる。相手の剣の柄部分と、メラウの足が衝突した。下から柄を押された形になった男の手からは、簡単に剣が抜ける。
 その抜けた剣を、思わず目で追ってしまったのが、この男の敗因となった。
 勢いを殺さず支点まで戻ってきた足は、一歩前の所まで進んで地に降ろされ、今度は逆に支点となった。新たな支点が出来上がり、いままで支点となっていた足が地を離れ、円を描くように男の腹部へ回し蹴りを放つ。今までの回転運動の勢いを全て殺さず放たれた最後の蹴りは、鎧越しでも十分な衝撃を男に与えた。
 これで4人。残りは未だ最初に斬られた男を治療している、おそらくサポート役だけだ。これ以上戦おうとは思うまい。
 この間実に10秒足らず。メラウの相手した男達は、全員完全に戦闘不能へ陥った。
「終わったわよ~。って、まだやってるの?」
 メラウが4人相手に圧勝して、意気揚々とバリセラスの方を向く。だがバリセラスは未だクィーミン相手に苦戦している。何故なら彼は、クィーミンにだけは攻撃しないのだ。
「どうした、何故戦わない。ふざけているのか!」
「ふざけてなど……いない!」
 そうは言うものの、バリセラスは攻撃どころかクィーミンの攻撃を受け止めることすらしていない。全て避けている。
「何やってるのよ!」
 見かねたメラウが、クィーミンに殴りかかる。
「って、痛った~~~~」
 だが、悲鳴を上げたのは逆にメラウの方だった。
「何コレ。ありえなく堅いんだけど」
 目じりに涙を滲ませながら、後ろへ大きく跳ぶ。
 殴ったのはいいが、クィーミンの体が鋼鉄の如く堅いのだ。メラウは篭手の様な物を装備していないので、素手で壁を殴った様な感じだろう。
「硬化系のO・Hだろう、おそらく『身に着けた物を堅くする』能力だ!」
「御明察だ!」
 バリセラスはクィーミンの蹴りをまともに食らって吹き飛んだ。
「良く分かったな」
「っつ……その服、格闘戦に使うなら邪魔になる筈だ。それなのにわざわざ飾りが付いている服を着てくるということは、それが武器になるんだろう。そう考えれば簡単だ……」
 クィーミンがわざわざヒラヒラが付いたドレスを着ている理由、それはその部分すらも硬化させ、武器とするためだ。顔にヴェールをかけてあるのも、この為だろう。
「普通の鎧より堅いのでな!」
 クィーミンが左の拳を振りかぶる。服の一部が突出していて、棘の様になっている。これを受けたら間違いなく刺さり、貫かれる。
 だがバリセラスは先ほどの攻撃で身動きが取れない様子だ。その場から動けない。
 メラウも大きく飛び退いた為、間に合わない。
「終わりだ!」
 拳を振り下ろす。
 その拳がバリセラスに届くといった瞬間、なにか長い棒の様な物がクィーミンの拳を受け止める。長い柄の先に刃が付けられているそれは、槍だった。
 突然、クィーミンが炎に包まれる。
「きゃああああぁぁぁぁぁーーーーーー」
 クィーミンは絶叫を上げて、その場を転がりまわる。
 バリセラスは、自らを貫こうとした拳を受け止めた、槍を握っている人物を見上る。
「女性を痛めつけるのは、僕の趣味ではないのですが。
 しかしあまり戦場などには、行った事が無い様子ですね~。服ならいくら堅くても簡単に燃えるでしょう、その辺りも考慮しないといけませんよ?」
 そこには、にこやかな笑顔が張り付いている顔の男が立っている。
「苦戦していたようですねバリセラスさん。大丈夫ですか?」
 炎に包まれ悶えているクィーミンから目を放し、男はバリセラスに手を差し伸べた。しかしその手を無視し、バリセラスは男の顔を凝視しながら問う。
「誰だ……お前は……?」
「おやおや失敬、僕はカイシ・クレパイグと申します。以後お見知りおきを」
 軽やかに一礼してから、その男カイシは、そのにこやかな笑顔をバリセラスに向けた。


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