秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
Fateアンソロジー小説5
 ひとまず事情を聞くために、寺の中へと入る。廊下を歩くものの、しかしどうしても人気が感じられない。
「なあキャスター。どうしてこんなに人気が無いんだ?いくらなんでも寺に誰もいないってことはないだろう」
「……結界よ。魔力が無い人には効きにくいけれど、なるべく人が近づきたくないようにさせてるの。事情は部屋についてから話すわ」
 おそらくキャスター達の部屋だろう。そこに通されて、腰を下ろす。
「単刀直入に聞きます。キャスター、貴女が冬木市の食料を奪っているのですか?」
 落ち着いている場合ではないとばかりに、セイバーが殺気を立ち上らせながらキャスターに迫る。
「お、落ち着いてくださいセイバーさん。事情はこれから説明しますから!」
「これが落ち着いてなどいられますか。下手をすれば私達の食事が無くなってしまうのかもしれないのですよ!」
 食にはうるさいセイバーだ。いきり立つものも尤もである。
「そうよ。私が運送会社のトラックを襲って、食料を盗んだの」
「やっぱりそうか。でも、なんでそんなことしたんだ?お寺が食糧難って訳でもないだろうし」
 しばし俯くキャスター。顔を少しずつ上げ、やや怯えを含んだ口調で理由を語った。
「だって、料理が一向に上手くならないんですもの……。しかもそれを桜さんに知られてしまって。だったら練習しましょうと、料理を教えてもらえることになったのだけれど……」
「それで、練習の挙句に材料が底をついたって事か?」
「……その通りです、先輩」
 溯(さかのぼ)る事一ヶ月。学校へ葛木先生の弁当を持参したキャスターは、学校内で桜と出会ったらしい。その時の拍子に弁当の中身を見られてしまい、料理下手なのを桜に知られてしまったのだという。
「その時の桜さんは恐ろしかったわ……私が料理下手って知ったら、酷くショックを受けるのだと思っていたのに。逆に詰め寄ってきて『愛する人には美味しい料理を食べてもらいたいですよね。なら練習しましょう、私もお手伝いしますから!』って。
 最初は結構よ、なんて言って断ったのだけれど……そうしたら何故か桜さんの背中から黒々としたオーラが立ち上がってきて、何故だか背筋が凍ったの……」
 ちらっと横目で桜を盗み見るキャスター。そこに居るのは普段の桜だが、なにか見てはいけないモノを見てしまったのか、少しばかり肩を震わせている。
「それは良い心がけだと思います。しかし、だからといって冬木市全ての食料と言う食料を盗まなくとも良いのではありませんか?材料が無いのであれば買いに行けば良いでしょう」
「最初はそうしていたわ。でも、宗一郎様が働いて稼いできたお金を、私が湯水の様に使う訳にはいかないもの」
 一体どれほど失敗してきたのか。普通そこまで金を使うほどにはならない筈である。
「それで食料強奪か。いくらなんでも行動が飛躍しすぎてないか?」
「やるならトコトンやったほうが良いじゃない。そうしたらもう片っ端から襲うしかないと思って」
 聖杯戦争では寺を根城に、人々の生気を奪っていたキャスターだ。この程度の事では罪悪感などないだろう。
「そうか……。桜も桜だ。なんで止めなかったんだよ」
「ええと、私も量は有った方が良いかな~なんて思っちゃいまして。食べるものが家から少なくなれば、ダイエットも出来るかなって……あ、いえ。なんでもありません!」
 そう言って、桜は俯いてしまった。
「シロウ。キャスターが強奪した食料を確認してみてはどうでしょうか」
「それもそうだな。キャスター、その食料って何処にあるんだ?見当たらないって事は、それも結界で隠してるんだろ」
「ええ、そうよ。分かったわ、案内するから付いてきて頂戴」
 キャスターは潔く承諾し、立ち上がる。士郎達もそれを見て立ち上がった。
 部屋の戸を開け、長い廊下を歩く。その間、やはり誰とも会うことは無かった。
「……ここよ」
「ここって、ここは講堂じゃないか!」
 キャスターが連れてきた場所。そこは前に合宿をした講堂であった。
「最も強い結界で囲って周りの人には分からないようにしていますから、誰もここには近づこうとしないんです」
 そういいながら、桜が戸を開ける。そこには、所狭しと並べられ奥の方では山になっている様々な食料が置かれていた。
「うわ……多いとは思っていたけど、こんなに有るんだな……」
「これは……これだけあれば、一体どれほどの料理が……は、いけません。危うく惑わされる所でした」
 士郎は純粋に驚いていたが、セイバーは大量の食料に反応しているらしく、小さくお腹が鳴っている。
「こんなに集めて、本当に全部使う気あったのか?」
「多分、無理です……」
「ちょっと、やりすぎちゃったのよね……」
 深く反省している様子の桜とキャスター。
「全く、何考えているんだか。それでこの材料はどうする気なんだ?返せるなら業者の人たちに返した方が良くないか?」
「でも、そうすると材料が……」
 元々材料不足の為こんな結果になったのだ。それに、大きな講堂を埋め尽くすほどの量があるのだ。元々強奪した物でもあるので、そう簡単に返せるものでもないだろう。
「元は強奪した物だろ。材料の方はまた考えるとして、今は返せるような物だけ取りあえず返してきたらどうだ?」
「そうね……そうするわ。じゃあ、分かる範囲で行ってくるわ。坊やと桜さんは此処で待っていて」
「分かりました。頑張ってくださいお姉様」
 ローブを広げて、キャスターは空を舞った。桜はそんなキャスターに、手を振って送り出している。講堂に山積みされている食料は、まだ転送しないのかそのままだ。
「お姉様?桜の姉は凛ではないのですか?」
「何か桜はキャスターを妄信しちゃってさ。あんまり気にしないでやってくれ」
「そうなのですか……」
 セイバーは桜とキャスターという組み合わせが今一しっくり来ないのだろう。少し難しい顔をして首を傾けている。
「時にシロウ、これだけ大量に食料があるのです。使えるものだけ使うというのはどうでしょうか?」
「セイバー、それ自分が食べたいだけだろ」



 夕方には、柳洞寺での騒動が全て終えて士郎とセイバーは帰宅していた。
「それで、結局どうなったの?」
「ああ、問題なら全部終わったぞ。イリヤと遠坂が言っていた通り、キャスターが犯人だった。まさか桜まで絡んでるなんて思わなかったけどさ」
 凛の問いかけに、士郎は今まで起こった顛末を全て説明した。士郎の横にはイリヤもいて、同時にその話を聞いている。
「やっぱり私の睨んだ通りだったでしょ?」
「ああ、そうみたいだな」
 凛に勝ったのが嬉しいのか、イリヤは妙にご機嫌だ。士郎にじゃれ付こうとしているが、セイバーに制されている。
「それにしても桜とキャスターがねぇ……桜は最近何か忙しそうにしてたけど、こんなことしてたなんて。
それにしても、此処に立派な姉が居るって言うのにキャスターをお姉様とはねぇ。コレは後でお仕置きしなくちゃかしら」
 凛は凛でなかなか物騒な事をにやけ顔で呟いている。
「あんまり桜に変な事するなよ、遠坂」
「変って何よ。ところで、その桜は?一緒に帰って来たと思ったけど」
 きょろきょろと辺りを見回す凛。しかしその姿は見当たらない。
「ああ、今料理を作ってるんだ。迷惑かけたお詫びなんだとさ」
 あの後キャスターは一通りの食料を、どうにか元の運搬業者に返したらしい。しかしそれでも多少は残ってしまい、セイバーの望み通りに使うことにしたのだ。
 キャスターの料理修行は今日から士郎と桜が一緒に教えることに決まり、材料は腐らないようにある程度その場で練習の為に消費した。
「さすがに失敗して食べられないようなものは棄てたから、随分減ったんだけど。まだまだ残ってさ。だからその食料を持って帰ってきて、それを今桜が調理してる」
 言われて見ると、台所から包丁で何かを刻むような小気味良い音が響いているのに凛は気づいた。
 するとセイバーと格闘していたイリヤが、不思議そうな顔をして士郎の顔を覗き込んだ。
「士郎は手伝わないの?いつもなら率先して作ってそうなんだけど」
「俺もそうしようと思ったけど、桜に断られたんだ」
「ふーん」
 そんな会話をしていると、台所の方から桜が現れた。
「お待たせしました。まだ作り終えた訳じゃありませんけど、台所じゃ全部置ききれなくなっちゃったので持ってきますね」
「分かった。それくらいなら手伝うよ。って、この量は……」
 そこには膨大な量の料理が並べられていた。
「桜、いくら材料が余ってるからって言っても、作りすぎじゃないのか?」
「いいえ、今までご迷惑をお掛けしたんです。これくらいは当然ですよ!」
「そうかなぁ……」
 台所に収まりきれないほどの料理を眺めながら、食べきれるだろうかと考える士郎。
「シロウ、料理の事なら問題ありませんよ。それに」
 セイバーが台所まで歩いてくる。そして、玄関辺りを振り返った。
「帰ってきたようです」
「帰ってきた?」
 釣られて玄関を振り向く士郎。すると、玄関からそれは元気の良い声が聞こえてきた。
「しーろーう。たっだいま~~~~!」
 藤ねえだ。学校の仕事を終えて夕飯を食べにやってきたのだろう。
「ああ、確かに。藤ねえの事だ、この量でも全部食っちまうに違いない」
「ええ。しかし私も負けませんよ。うかうかしていると、タイガに全て取られてしまいますから」
 騒がしく音を立てて廊下を走ってくる藤ねえ。居間までたどり着くと勢い良く扉を開けて入って来た。
「お腹空いた~。あれ、何これ。すごいご馳走。わーい、お姉ちゃん嬉しいな~」
「お帰り藤ねえ。今日はこの通り大量にあるから、好きなだけ食って良いぞ」
 こうして、冬木市から食料が消えた事件は幕を閉じた。
 その日の夕食は、セイバーと藤ねえがしっかりと平らげ、綺麗に無くなったのであった。