秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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Fateアンソロジー小説4
「……という事なんだ」
 これ以上事情を聞きに行く場所も思い当たらないので、ひとまず自宅に戻ってきた士郎とセイバー。
 詳しい話は知らないまでも、凛なら何か打開策を思いつくのではないだろうかと言う考えもあり、昼過ぎなのでセイバーがお腹を空かしていたという理由もある。
 今はあり物の材料で昼食を済ませた後である。冷蔵庫の食糧残量を見て、どうにかしなければならないと士郎は再確認したのであった。
「何者かに食糧だけ盗まれた、ねぇ……うーん。状況だけ見ると、野党か何かが食糧難で襲ったと考えれば早いけど、規模がそんなレベルじゃないのよね」
「なんせ冬木市一帯全部の食糧だもんな。どう考えても、相当な大人数でもなければ無理じゃないか?」
「そこなのよね。警察なんかにも聞いてみたの?」
「少し話は聞いてきたよ。でも、被害者の業者が襲われたって事以外は口をそろえて何も覚えていないって言うらしいんだ」
 ランサーから話を聞いた後、森に向う途中に少し寄っていたのだ。しかし警察も頭を捻っているとしか分からなかった。被害者全員が詳しいことを何も覚えていないのであれば、警察も捜査のしようが無いらしい。
「何が起こったのかも分からないのに、食糧だけはごっそり無くなってるのね。普通の人間にはそんな芸当は無理。でも、今までの状況を全部飲み込んで考えてみると、とても簡単な答えに辿り着くわけだけど……」
「簡単なのですか?それは、一体どんな手段を用いれば可能なのでしょうか」
 凛の横にはセイバーも座っている。食後のお茶を飲んではいるが、お茶請けが無い事に少々不満があるらしく、寂しそうな顔をしているのであった。たまに無意識の内に、手を伸ばしてお茶請けを取ろうとしている。その度に、赤面して手を引っ込めているのではあるが。
 そんなセイバーの仕草を見て、何とかしなくてはと、更にいたたまれない気持ちが湧き上がってくる士郎であった。
 凛はセイバー達の仕草には全く気がついていない。眼鏡着用で思案顔だ。
「手段自体は簡単よ。魔術を使えば一瞬で遠くに飛べるし、襲った相手の記憶を消し去ればそれで終わりだもの。大量な食糧だって、魔術で一緒に運べば良いでしょ?」
「あ、そうか」
 要は、普通の人間には不可能であるのならば、普通ではない人間が行えば良いのである。
「でも待ってくれよ。冬木市にそんな芸当が出来る魔術士っているのか?」
「いるじゃない、魔術師としては最強なのが。人間じゃないけど」
 人間じゃない最強の魔術士?そう考えて、ふと思い立ってサーヴァントであるセイバーを見る士郎。
「キャスターの事でしょうか」
 キャスター。魔術士の英霊。魔法と呼ばれるほどに卓越した魔術の能力を持ちながらも、対魔力を持つサーヴァントの中では最弱の存在。
 最弱故に、その智謀を活かした頭脳型の英霊。直接的な脅威は低いものの、その策略に嵌れば覆すのは容易ではない。
「そう。でも、あの魔女が食糧奪うなんてマネ、すると思う?」
「そうだなぁ……」
 彼女は今、夫である葛木宗一郎と共に柳洞寺と共に居候をしている。食糧に困っているとも思えないし、もし困っていたとしても冬木市一体の食糧全てを持ち去る必要があるとも思えない。
「キャスターは葛木先生の事しか考えていないだろうし。もし寺の食糧が底をついて困ってたとしても、葛木先生の分さえ確保できればそれで満足しそうだもんな」
「そういう事。だからキャスターって線は薄いでしょうね」
 再び思案顔で俯く凛。
 そんな中、玄関が開く音がする。誰かが来たんだろうか。チャイムの音が無かった事を考えると、桜や知り合い等では無いだろう。
「あー!士郎、やっと帰ってきたのね!」
 そう叫びながら居間を訪れたのは、先ほどまで士郎とセイバー達が居た城の持ち主であるイリヤスフィールだ。両手を振り上げて文句を言っている。
 凛の話によると、イリヤは士郎達が家を出て行った後、少し経ってから訪れたらしい。士郎が居ないと分かると、きびすを返して出て行ったそうなのだが。
「何処行ってたのよー!暇だから大河の家に遊びに行っていたのよー!」
 肩透かしを食らったイリヤは、暇を持て余して藤村家に遊びに行っていたという。藤村の爺さんはイリヤをとても可愛がっているので、爺さんはさぞ喜んだことだろう。
「ごめんイリヤ。俺たちもちょっと用があったから、アインツベルン城に行ってたんだよ。入れ違いになっちゃったみたいでさ」
「そうなの。何処で入れ違ったんだろ?」
 今までの事をイリヤに聞かせる士郎。冬木市に食糧が無くなっていること、ランサーがいる港での出来事。森に行ってリズに事情を聞いたこと。その間、イリヤは大人しく聞いていた。
「ふーん。港なんかに行く必要なかったのに、それなら私の方が詳しいわよ」
「何か知ってるのか?」
「だって、魔術を使って食料盗んでる奴でしょ?知ってるよ」
 なんとイリヤは、自分の世話をしているメイド達ですら知らない情報を握っていると言うのだ。
「どういうこと?そんな事が出来る魔術士なんてこの辺にはいないわよ」
「馬鹿ね凛、分かり易いのがいるじゃない。そんなことにも気づかないなんて、あなたもまだまだね」
 ふと、凛のこめかみに青筋が浮かんだのが見えた。士郎はもちろん、セイバーですら戦慄している。
「じゃあ聞かせてもらおうかしら、その魔術使って食料盗んでる泥棒野郎の名前を」
 顔こそ笑っているが、それこそ凍りつくような寒々しい笑顔だ。その様相を見て二人は震えだした。その笑顔を向けられた当のイリヤは涼しい顔をしている。
「簡単よ。こんな事できる魔術師なんて、キャスターしかいないじゃない」
「そんなのは分かってるわ。でも、キャスターが何で食糧ばっかり大量に必要なのよ。セイバーと藤村先生でもあるまいし、葛木先生がそんなに食べるとも思えないわ」
 先ほどの会話通り、凛もキャスターならばそれが可能だと分かっている。しかしキャスターには食糧を襲う理由が無い。
「理由なんて知らないわ。でも、毎日毎日何らかの魔術が使われた反応があるもの。随分隠蔽されているけど、私には分かるわ」
「それ、どういうこと……?」
 凛は驚きを隠せないようだ。毎日魔術が使われているというなどという事を、凛は知らなかった。
「隠蔽されているとしても、こんな大掛かりな魔術に気づかない筈ないわ。イリヤだって気づいたのに、どうして私が気づかなかったのかしら……」
「……なあ遠坂。お前今まで何処に居たんだっけ?」
 口を挟むのは危険かと思ったが、士郎は思ったことを口にした。
「え?どこって……あ、そうか」
 実は、今まで凛は多忙で衛宮家には居なかったのだ。ロンドンに行っていたという訳ではなく、その処理に追われていたのである。
「数日前から工房に篭もって、次にロンドンに行くための準備してたんだったわ……色んな事考えてたし、気づかなくて当然かも」
 頭に手を当てて「あちゃー」などと呟いている。肝心な時には何かが抜けている遠坂らしいといえば遠坂らしい。
「結局役に立つのは、凛なんかじゃなくて私よね、お兄ちゃ~ん!」
 遠坂に勝ったことが嬉しいのか、少し甘えた声を出して士郎にイリヤは飛びついた。当然のようにセイバーに叩き落されたが。
「それじゃ柳洞寺を調べに行ってみることにするよ。ほらセイバー、行くぞ」
 横で文句を言い始めたイリヤを嗜(たしな)めているセイバーを連れ出し、再び士郎は衛宮家を後にした。遠坂とイリヤは、キャスターに会うのは嫌らしので、今回も2人だ。



 柳洞寺。それはかつての決戦の地。ここでセイバーと士郎は凶悪な敵と対峙した。呪いの塊である聖杯を肯定し、歪んだ信念を貫いた1人の魔術士。言峰綺礼。
二人は己等の持つ全ての力を出し切って言峰を倒し、そして聖杯を破壊した。
「後はこの階段を登るだけですね」
 二人の眼前には、長い階段がある。ここを上りきれば目的の柳洞寺だ。
「もう少しだな。それにしてもキャスターか……行き成り学校に現れたりするけど、食糧奪っていく様なことするとは思えないんだけどな」
 そう言っている内に、もう少しで階段を上り終える所までたどり着く。突然、何処からともなく声が響いた。
「待たれよ。御二方」
 それは、門の上から聞こえてくる。今まで姿は見えなかったが、声と同時に姿が現れた。物干し竿と呼ばれるほど長い太刀を背負っている、青い姿のサーヴァント、アサシンだ。
「アサシンか、どうしたんだ」
「此処から先には通さないよう、キャスターから言い付かっているものでな。なにぶん、マスターの言いつけは守らなければならんのが、サーヴァントというものであろう」
 そう言うと、背中にある太刀を抜くアサシン。
「まさか、本当にキャスターが犯人なのか?」
 アサシンに命令したという事は、この寺には見せたくないものがあるという事だろう。イリヤが言っていた通り、キャスターが黒幕という線は正しい可能性が高い。
「剣を抜け、セイバー。いつまで非武装でいるつもりなのだ。聖杯戦争の時に私はおぬしに負けた。この機会、雪辱戦としようではないか」
「貴方は相変わらずなのですね、アサシン」
 武装姿になり、眼前のアサシンを見据えるセイバー。
「人生などすでに一度終わっておるのだ、生憎と今更この性格など変えられまい」
「……良いでしょう、お相手致します。シロウは先に行ってください、アサシンは私が引き受けますので、貴方はキャスターの方をお願いします」
 そう良いながら、エクスカリバーを構えるセイバー。
「行け、こちらもセイバーだけで手一杯だ。二人を相手に牽制することなどできまい。なに、セイバーを足止めしているのだ、言い訳もつく」
 飽く迄セイバーとのみ戦いたいのか、アサシンは士郎を足止めする気が無いらしい。
「……セイバー、後は頼む。だけど、約束された勝利の剣(エクスカリバー)だけは使わないでくれ。今は聖杯戦争じゃないんだ、殺しあう必要は無い」
「……分かりました」
 士郎はそれだけをセイバーに約束させ、アサシンの横を通り、門を潜(くぐ)る。
「敵に情けをかけるとは、おぬしのマスターは随分他人想いなのだな」
 驚いているのか、あまり顔に変化は無いが、アサシンは少し楽しそうだ。
「今はそんなことを話している時ではないでしょう、私は一刻も早く貴方を倒して、シロウの下に参らねばなりません」
 セイバーのその様子を見て、更に楽しそうにするアサシン。
「そうか、そうであったな。しかし其方が奥の手を使わないとあれば、此方もそれに答えねばならぬであろう。なら拙者も、燕返しを封じようではないか。お互い同等の立場であるからこそ、面白いというもの」
「……ええ、そうですね。感謝します」
セイバーの言葉を最後に会話が途切れる。すると、一瞬の内に空気が張り詰めた。
そこに対峙するのは二人の青いサーヴァント。時代も場所も異なるものの、互いに剣の道を究めた者同士の戦いが、いま再び始まろうとしている。


「なんだ此処、いつもと違って空気が重くないか?」
 門を潜り抜けた士郎は、一瞬にして奇妙な気配に包まれた。昼間なので回りは明るいのだが、生き物が居るような感じが全く無いのだ。
「やっぱり怪しいな。直ぐにキャスターを見つけて、この状況を訊き出したほうが良さそうだ」
 セイバーの事は気になるが、今は此方の方が先だ。上手くすればあの二人の戦いを止められるかもしれない。そう思いながら、境内に向おうとする。
 すると、どこからかシャランと金属同士が触れ合うような音が響いてくる。まるで鎖を振り回しているような。
「うん?……うわ!」
 とっさの判断で横に跳ぶ士郎。彼が今まで居た場所には、鎖に繋がれた楔が刺さっていた。
「これは……ライダーの短剣か?」
「御明察です、士郎」
 前方から実体化しつつ悠然と現れたのは、今では桜と共に衛宮家に居候しているサーヴァント、ライダーであった。その姿は、バイザーを付けた聖杯戦争で見た通りの戦闘衣装だ。
「どうしたんだよライダー。行き成り短剣投げつけたりして」
「桜からの命令です。もし士郎がここにたどり着いたのならば、追い返せと」
「桜が?なんでさ」
「それにはお答えできません。私としても、此処から士郎が立ち去ってくれることを望みます。もしそれが出来ないのであれば」
 地面から短剣を引き抜く。
「力ずくで帰ってもらいます」
 ライダーが士郎に向って跳ぶ。
「くそっ!投影(トレース)、開始(オン)」
 後方に跳びつつ、アーチャー愛用の双剣『干将(かんしょう)・莫耶(ばくや)』を投影する。
 ライダーの短剣と士郎の干将が激しくぶつかり合い、火花を散らした。
「本気か、ライダー!」
「ええ、ですからそのように申した積もりです。死にたくないのであれば、此処から直ぐに立ち去ってください」
 再びライダーの短剣が振り上げられる。士郎は干将(かんしょう)・莫耶(ばくや)を握り直し、ライダーを迎え撃つ構えだ。
「……どうやら引く気は無いようですね。分かりました、では力ずくでお帰りいただきます」
 再びライダーが士郎に向って跳んだ。



「はあぁぁぁ!」
 セイバーが下段から剣を振るう。手加減のない、サーヴァントとして本気の一撃だ。
「ふっ」
 しかしアサシンは刀で受け流し、逆にセイバーの首を確実に狙ってくる。
 セイバーは剣を盾にすることで防ぎ、再びアサシンに切りかかる。
 己らが持つ奥の手を使用しないという事は、どちらも剣の技量だけで相手を倒さなければならない。
 アサシンの刀は長いので、セイバーは自分の剣の間合いに入れば勝ちとなる。間合いに入られれば、長い刀が仇となって振るえなくなるのだ。しかし、逆に言えばセイバーはアサシンの刀の間合いを抜けなければならない。
 刀と違って剣は多少の力押しが出来るものの、アサシンがただの力押しに負けるほど簡単な相手ではない。
 セイバーは幾度となくアサシンに切りかかるものの、その全てを受け流され、1歩も近づくことが出来ない。
(鍔迫り合いにさえ持ち込めれば、勝機はある。しかし、アサシンがそれを許すとも思えない……)
 型は違えど、剣の技量はほぼ互角。どちらかが一瞬でも隙を作ればその場で勝負がつくだろう。
(この様な手は本来好きではないのですが、やむを得ません!)
 今までセイバーが握っていたエクスカリバーか、突如掻き消える。剣を透過させる風の鞘、風王結界を使用したのだ。
「ほう、いつぞやの不可視の鞘か。しかしだなセイバー、その剣の間合いなら分かっておるのだぞ」
 迷うことなく、アサシンはセイバーの首を絶ちに行く。しかしセイバーは、それをエクスカリバーの鞘で受けた。
「何、剣ではない?」
 アサシンは一旦間合いを離そうとする。セイバーの意図が分からないのだ。剣ではなく鞘で受け、そして今まで持っていた筈の剣はセイバーの手には見えない。
見えないのか、持っていないのか。どちらにせよ下手に踏み込んでは危険だ。
「剣なら、此処です!」
 セイバーは、右足を思い切り振り上げた。いや、蹴り上げた。
 蹴り上げられたソレは、アサシンめがけて飛来する。刀で防ごうにも、その長さが災いし、セイバーの鞘に阻まれてしまって戻せない
 アサシンの刀は飛来したモノに弾かれ、近くの木の幹に突き刺さった。
「これで終わりです、アサシン」
 刀を弾かれたアサシンは、見えない剣の切っ先を向けられていた。
「……参った。今回も私の負けだ、諦めよう。よもやおぬしが剣を蹴り上げるなどとは、考えが及ばなかったまでか」
「ええ。最近、サッカーという球技を教わりまして。こんな所で役に立つとは思いませんでした。剣を粗末に扱う行為ですので、もう二度と使いたくはありませんけれど」
 セイバーがアサシンに向って蹴り上げたモノ。それは風王結界を施して不可視にしたエクスカリバーだったのだ。
 見えない剣は本来、剣の長さ等を相手に知られないようにするための物だ。しかし見えないという事は、下に落としたとしても持っている振りさえすれば相手に気づかれない。セイバーは手にエクスカリバーを持っていると思わせ足元に落とし、斬撃を鞘で受けた後の一瞬に、エクスカリバーを蹴り上げる。
 刀を弾かれてひるんだアサシンが体制を立て直す前に、エクスカリバーを空中で掴み、突きつけたのだ。
「負けてしまっては仕方ない、私は此処を守れなかったという事だ。先に行くがよい」
「では、失礼します」
 セイバーが剣を降ろすと、霊体になり姿が消えるアサシン。非武装に戻ることなく、そのままセイバーは階段を駆け上がっていった。



地面を蛇の様に迫ってくるライダーの短剣を受けながら、士郎は少しずつ後退していく。
ライダーが放つ1撃1撃がとても重く、とても攻撃に回ることなど出来ない。士郎の使う干将(かんしょう)・莫耶(ばくや)も、何度も弾かれている。その度に投影で作り直しているが、長くは体が長くもちそうにない。
「いい加減にしてくれライダー。一体桜は何を考えているんだ!」
「それはお教えできないと、先ほども申した筈です。大人しく引き下がっていただきたい」
 桜の命令はライダーにとって絶対だ。一度桜に言われたことなら、ライダーは必ず成し遂げようとするだろう。
 ライダーとてサーヴァント。本来生身の人間相手に勝ち目など無い。しかも今のライダーは、桜という強力な魔術士と繋がっているのだ。慎二がマスターであった頃とは比べものにならないほど強い。
 士郎も何とかしなくてはと考えているが、ライダーの攻撃を捌(さば)くのと投影魔術の使用で精一杯な為、頭が回らない。
(一(いち)か八(ばち)か、試してみるか!)
 ライダーが後ろに大きく跳んだ隙に、士郎は干将(かんしょう)・莫耶(ばくや)をライダーに向けて投げる。2つの剣は弧を描いてライダーに向って飛んでゆく。
「甘いですね士郎。その程度の攻撃では、私に届きませんよ」
 干将・莫耶が飛んでくる前にライダーは上に跳ぶ。しかし、士郎は新たな干将・莫耶を投影して空中にいるライダーに向けて投げた。それも、立て続けに2対。合計4つの剣がライダーを襲った。
「この程度ですか、士郎」
 ライダーは4つの剣を全て空中で叩き落した。そして、その代わりに自分の短剣を士郎に向けて投げる。
 士郎は新たな干将・莫耶で受けるが、力の格が違う。干将・莫耶ごと弾き飛ばされ、士郎は宙を舞った。
「もう終わりにしませんか。貴方はまだ、投影魔術を連続使用するには無理がある筈です」
 ライダーの言うとおり、士郎はそろそろ限界であった。とっさに何度も投影するなど、今の士郎には荷が重いのだ。
「……なあライダー。1つ提案があるんだけど」
 よろよろと立ち上がった士郎は、戦う積もりがなくなったのか、干将・莫耶を投影していない。
「提案ですか?何を言われても、私はここを通しはしませんよ」
「もし此処を通してくれたら、1週間1号自転車を自由に使って良いって言っても駄目か?」
「な、あの1号自転車をですか・・・?し、しかし……」
 1号自転車。それは士郎の隙をつかなければライダーが使うことは許されない、士郎専用の自転車だ。
自分の膂力に耐えうる機動力の高さを持つ1号自転車を、ライダーは士郎に何度も使わせてくれと頼んでいるが、1度も許可してくれていない。
「良いのか?これを逃したら、二度とこんなこと言わないぞ」
「くっ……卑怯です士郎。わ、私に桜の命令を破れと……」
 自分の欲求と、桜の命令のどちらを取るか。ほんの一瞬ばかり葛藤したライダーではあったが、考えを曲げることは無かった。
「やはり桜の命令を破ることは出来ま……」
「投影(トレース)、開始(オン)!」
 ライダーが一瞬考えた隙を狙って、士郎はライダーの楔形の短剣を投影して、鎖部分を使用しライダーの動きを封じた。ライダーにとって桜の命令は絶対。いくらライダーが喜ぶような提案をしたとしても、それに乗るなどとは士郎も思っていない。しかし、少しの隙を作ることには成功したのだ。
「……抜かりました。最初からコレが狙いだった訳ですね」
「そういう事だ。こうでもしなきゃ、ライダーを大人しくなんて出来そうに無いからな」
 ふう、と息を吐いて呼吸を整える士郎。と、そこにセイバーが追いついてきた。
「遅くなりましたシロウ。おや、ライダーと戦っていたのですか?」
「セイバー。アサシンを倒せたんだな」
「ええ、なんとかなりました。士郎もライダーを封じることに成功しているとは、特訓の成果が出たという事ですね」
 セイバーはライダーを眺め、にこやかな顔をして、2度3度頷いた。
「剣の師として、これほど嬉しいことはありません」
「ああ……セイバー、これはちょっと……」
 だまし討ちで勝った。などと言えば、セイバーはどんな顔をするのか、士郎は少し怖かった。
 当のセイバーも似たようなだまし討ちで勝っているのだが、士郎がそれを知る訳がない。
「どうしました?」
「いや……なんでもない。ところでライダー、これ以上戦うのか?」
 追求されても怖いので、士郎はライダーに向きかえる。一方のライダーは、今まで身動きすることもなく、黙って立っていた。
「いいえ。セイバーが追いついてきたとあれば、私が足止めしていることは出来ないでしょう。それに、私は士郎に負けてしまいました。どうぞお通り下さい」
「分かった、ありがとうライダー。それじゃ行くぞ、セイバー。変な結界も張ってあるみたいだし、この様子だと本当にキャスターが怪しい」
「はい、分かりましたシロウ」
 その場にライダーを残し、先を急ぐ二人。
「桜、申し訳ありません」
 独り残されたライダーは、一言桜に謝っていた。



「此処だな、どうも怪しい感じがするのは」
 炊事場の前に付いたとこで足を止める士郎。元々結界には敏感であり、怪しい場所を見つけるのはそう難しいことではなかった。
 恐る恐る扉を開ける。セイバーは身構え、襲ってくるものに備えている。
 扉が開かれ、士郎の目に写ったのは。
「違います!そんなに強く混ぜたら型崩れしちゃいますよ!」
「え、ええ。別ったわ……こ、こうかしら?」
 二人肩を並べてコトコトと何かを煮込んでいる、桜とキャスターの姿であった。
「……一体何やってるんだ?」
 なにやら夢中で、鍋と格闘しているので士郎達に全く気づいていない二人。士郎が声を掛けて始めて驚いたように後ろを振り返った。
「な、ぼ、坊や!どうやって此処に……」
「せせ、先輩?!あれ、ライダー、ライダーは?」
 士郎の姿を確認するや否や、あたふたと慌てている。
「落ち着け桜、キャスター。アサシンならセイバーが倒したし、ライダーなら諦めてくれたよ。
それで、あんなに厳重な守りを二人も置いて、此処で何してたんだ?」
桜とキャスターは、その言葉を聞いてがっくりと肩を落とす。
「とうとう見つかっちゃったのね……」
「はい。みたいです」
 そして二人分のため息が、重々しく吐き出されたのであった。
 

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