秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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家出少年の進行 1
 コルセスの後を追い、ファルクが待っている筈の建物の中に入る。それと同時にコルセスの叫び声に加えて、バシーンと何かを弾くような音が聞こえた。
 疑問に思い、音のした方を見ると、コルセスが鞭を振るっている姿が見える。
 何が起こっているのかよく分からず、更に近付いてよく見ようとすると……コルセスが向いている方に立っていたファルクの、その頭付近から何か光が出始めている。すると直ぐに、ファルクの前にいた見た事の無い軍人が、いきなり真っ黒になった。
「……くっそーーーーー!」
 コルセスが手に持っていた鞭を地面に叩きつけて、絶叫している。
 叫び声の振動で揺れたせいか、真っ黒になった軍人は、ボロボロと崩れ黒い山となってしまっていた。
「なんだ? 今の」
 黒い山になった人、ファルクが頭から放っていた謎の光、コルセスの絶叫。何がなんだか全く分からなかったが。
「あの人。死んだのか?」
 きっとそれだけは間違いないだろう。あんな風に人間が変わる訳が無い。そしてそれをやったのは、恐らくファルクなのだろう。
 あまりに現実味のない出来事を目の当たりにし、そして思わず、ゲインはこう呟いていた。
「スゲェ……」
「スゲェだと……?」
 ゲインの呟きが耳に入ったコルセスは、怒りを露わにしてゲインに向かって行き、胸倉を掴んで持ち上げた。
「人間が1人、死んだんだぞ。その意味が分かってんのか? あぁ!」
「な、なんだよそんなに怒って。だってスゲーじゃんかよ、あんな風に真っ黒になるなんて初めて見たんだぞ?」
「そんな低次元の話じゃねぇ! 今まで生きてきた人間が、一瞬にしてその命を奪われたんだ。スゲェとかふざけた言葉で片付けられる問題でたまるか!」
「軍ってのは、戦争をするとこだろ? 戦争ってのは大勢人が死ぬんだって聞いてるんだぞ。だったら、いつ死んだって良いくらいなんじゃないのか? そういう覚悟してるもんじゃねーのかよ」
「……ちっ!」
 ゲインの言い分を聞いて、苛立ったコルセスは掴みあげていた胸倉を、突きとばすように放した。飛ばされたゲインは、壁に背中を打ちつけている。
「いってーな、何すんだよ!」
「テメェみたいなクソガキには、説明してるだけ時間の無駄だ」
 そうしてゲインを放り、ファルクの所へ歩いていこうとする。しかし、コルセスは誰かに腕を掴まれて制止された。
「お待ちください、大佐。今の叫び声は何ですか? それと……その少女について、詳しいお話を聞かせて貰えないでしょうか」
 コルセスの叫び声を聞いて、何事かと集まってきた者の1人だろう。あれだけ大きな声で騒げば、当然周りも反応するし、集まっても来る。遠巻きに見ている者も、かなりいるようだ。
「……分かった。こうなっちまった以上、詳しく説明するのは避けられねぇからな」
 コルセスがファルクを連れてこの場所を離れようと、ファルクの所へ歩いていこうとした時、その横を通る影があった。今までの成り行きを、遠くから眺めていたティンリーであった。
 ティンリーは黒い山と化した元軍人のところまで行くと、横に座り躊躇いも無しに山の中へ、手を突っ込んでいる。
「ほほ~。不思議な力だね~。ふむむむ、細胞1つ1つ綺麗に、しかも内側まで均等に真っ黒になってるね。たとえどんなに高温で熱したって、ここまで綺麗にならないよ。それに、加熱によってこうなった訳じゃないみたい。熱は全然持ってないし、むしろ元々人間だったにしては温度も少し低いね」
「あん? そういえばあんたは博士とか呼ばれてたんだったな。その力が何なのか、分かるのか?」
「そこまではちょっと、まだ分からない事が多すぎるかな。でも、なるほどね~。なんで今やってる研究を一先ず切り上げて来い、なんて王都から命令が来るなんて変だと思ってたけど、こういう事か~」
 そんな事を言いながら、ティンリーはファルクの方へ手を伸ばす。が、その腕をコルセスががっしりと掴んだ。
「下手に触るな。お前も、そこの奴と同じ道を辿る事になる」
「そんなにずっと怖がってたんじゃ、研究なんて出来ないって、ねぇゲインちゃん」
 起き上がってこちらに近づいてきたゲインの方へ、急に話を振る。「へ?」と気の抜けた返事をしながら首を捻る。
「ってか、そんなに怖いものなのか? オレはスゲーと思うけど」
「そうそう、そうやって興味を持つからこそ、いろんな答えが導かれるもんなんだよ」
 ファルクはそんな2人を、無表情のまま眺めている。そしてコルセスも、後頭部を掻きながら呆れていた。
「なあなあファルク、さっきのアレってスゲーよな。一体どうやったんだ?」
「……スゲー?」
 ティンリーに味方されて嬉しくなったのか、上機嫌になりながらファルクに話しかけるゲイン。その場に無言無表情で、場の成り行きを見ていたファルクも、ゲインの言葉に反応した。
 それに嬉しくなり、ゲインは更に話しかける。
「ああ、スゲーよ。あんな風に一瞬で真っ黒にしちまうんだからなー。どうやったら覚えられるんだ? 俺もあんな力欲しい」
「……よく、分からない。それに……欲しくて、持ってる、力じゃ、無い」
 ほんの少しだけ、ファルクの眉が動いた。その、あまりに微かな動きに、コルセスは眼を見開いた。
「ファルクお前……」
「そっか、でもその内分かったら、教えてくれよな!」
 ファルクに合って間も無いゲインは、ファルクの見せた表情の変化など気付いていないが……そんなファルクに、手を差し出した。
「何……?」
「握手だよ。ちゃんと挨拶してなかったしな。宜しく、ファルク」
 ファルクの方から手を伸ばさないのを見たゲインは、その手を伸ばして、ファルクの手を取った。
「な!? 馬鹿か!」
 ファルクが見せた変化に驚き、少しの間放心していたコルセスも我に返った。今まで、ファルクに触れた人間で、生きていた者は居ないのだ。気を抜いたのが仇になった。
 ファルクの仮面から、あの光が漏れ始める。それは、力が発動する予兆だった。
 コルセスの脳裏に、今し方黒い山となり果ててしまった軍人の姿が過る。せめてゲインを弾き飛ばして、力から逃れさせようとしたが。
「ちょい待ってコルっち。何にも起こって無いよ」
 ティンリーに言われ、はっとしてファルクを見た。
「……手、放して」
「え? ああ、うん。分かった」
 先ほど少し見せた様な表情の動きは無く、仮面からは漏れた光は、ゲインが手を引っ込めた所で薄れていった。
 当のゲインは、全くの無傷である。
「どういう……事だ……?」
 ファルクは、他人に触られる事が極端に嫌なのか、身体のどこかにほんの少しでも触れた相手を、自身の持つ謎の力により命を奪ってきた。コルセスの部下も、それにより殆どが死んでいったのだ。
 これ以上の犠牲を出す事を避けるため、最後の1人となった部下を、コルセスは先に王都へ行かせた。報告という理由もあるが、せめて安全に帰したかったからだ。
 つまりファルクに触れると言う事は、それほど恐ろしい事なのだ。自ら触れるなど、自殺をするのと同じ。
 だがゲインは、ファルクに触れても生きている。コルセスには意味が解らなかった。
「ふむむ。コルっちの反応から見て、ファルちゃんに触れるとヤバイっぽいね~。んでも、ゲインちゃんの場合は何故か何も起きないから、不思議がっているってとこかな」
 ティンリーは現状の様子を観察し、自分なりに解釈している。
 立ち上がり、ゲインを上から下まで眺めた後、ファルクに近寄る。
「ねえファルちゃん。力、使えなかったの? それとも使わなかったの?」
 にこやかな笑顔を浮かべながらも、真剣な声色でファルクに質問をするティンリー。だが、ファルクは無表情のまま、ゆっくり首を横に振った。
「……分からない」
「それは何に対しての分からない? 自分が? それともゲインちゃんが?」
「……」
 ファルクは答えなかった。いや、どちらかと言えば、答えられなかったと言う様子だ。
「そっか。まあ、女の子だもんきっと色々あるのかもね」
 するとティンリーも、笑顔を崩さぬままファルクに手を伸ばし、その頭を優しく、母親であるかのように撫でた。
 仮面からまた光が漏れ始めるが……ティンリーに対して、力が働く事は無かった。
「なるほど。少しずつ分かってきたかもしんない」
 ファルクの頭に載せた手をおろしながら、ティンリーは満足そうに頷いた。
「……なあ。一体どうなってんだ?」
「そうだね~……まだ確証した訳じゃないから、下手な事言えないかな。まだ危険な所も残ってるし。ただ、コルっちは触れない方が良いと思う。多分だけどね」
 そうコルセスの問いに答えると、ティンリーはゲインの所へ近づく。
「ゲインちゃん、私の権限で暫く一緒に行動してもらうようになるけど、大丈夫かな? 家出してるみたいだけど、多分本当に当分家には帰れなくなるよ」
「え? それって、もしかして軍に入れるって事か?!」
 その言葉に、目を輝かせてゲインは食い付いた。そんなゲインにティンリーは笑顔を向けて頷き「そんなものかな」と回答した。
「おい、ちょっと待て。どういうこった?」
 状況説明を求めてきた軍人と共に、成り行きを見守っていたコルセスだったが、ゲインを軍に入れるという事に難色を示した。
「大丈夫大丈夫。軍人というより、サンプルとして欲しいだけだから。まあ、鍛えて軍人として雇えるなら、扱いももっと楽になるんだけどね」
 こう言われて唖然とするコルセス。付けているサングラスがずり落ち、口を開けてポカンとしている。もし煙草を咥えていたのなら、地面に落ちていた事だろう。因み、ゲインは1人で勝手にテンションあがっているので、周りの話は耳に入っていない。
 そんな彼らを笑顔で眺めつつ、ティンリーはズボンのポケットから、ハンコとペンを取り出す。
「そろそろ来るかな~っと」
 出したハンコとペンを握りしめ、遠巻きに見ている軍人たちの方。正確にはその先を、手をかざして眺めている。すると、そこから白衣を着た人物が、ティンリーの所へ向かってきた。
「探しましたよ、アンス博士。では……」
「はい、名前と捺印。そんじゃ、あとは宜しく~」
 白衣を着た人物――先ほどティンリー達と一緒に居た研究者達の1人――が持ってきた紙を、相手の言葉が終わる前に掴み取って、自分の名前を記入してハンコを押し、持ってきた人物に返した。どうやらその紙は、代理発表の申請書の様だ。
「……相変わらず察しが良いのは嬉しいのですけれど、お願いですからたまには自分で発表なさってください」
「まあまあ、多分今回私が王都から召集されたのって、この子絡みだと思うからさ。あっちも許可してくれるっしょ。それじゃ、後はお願いね~」
 ポケットに、出したハンコとペンをしまいながら、開いている手をヒラヒラと振り白衣の人物を送り出す。
 状況が分かっている訳ではない白衣の人物は、何か聞きたそうな表情をしていたが、ため息を一つ吐き出すと方向転換して戻って行った。
「よし! じゃあ、コルっち」
 ビシッ! っと音がしそうな動きでコルセスに指をさすティンリー。指されたコルセスは、「あ?」と気の抜けた声を出す。
「これから色々と説明してもらうよ~。それじゃ、ちょっと部屋借りてね~。必要もあるから、ゲインちゃんとファルちゃんも一緒に連れてくる事。宜しく!」
 そう高らかに発言したティンリーを、コルセスは茫然と眺めるしか出来なかった。 




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