秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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2010年お祭り用小説 2
幕間

「のう」
「何でしょうかベース」
「何故にわしは此処から動いては駄目なんじゃ?」
「ラスボスだからでしょうね。オオトリはおとなしく座っていてください」
「いやのう、せめて他の試合くらい見たいんじゃが……」
「メロウが劣勢のときに、飛び出してきたら困るでしょう」
「んな事する訳なかろうに……」
「ええ、でしょうね。単にそれっぽくしておいた方が面白そうだから、引っ込めさせてるだけです。というか、訊かなくても分かるでしょう。考えることは同じなんですから」
「そうなんじゃがな……流石に暇じゃ」
「我慢してください。何事も気合です」
「自分相手がこれほど面倒くさい手合いだとはのう……」
「今更何を。取り敢えずコレから中間発表を行いますので、もう少ししたら集まってくださいね」
「ふむ……了解」


「それでは初戦お疲れ様でした。皆さんとても良い試合でしたよ」
 再びゲストを除いたメンバーを除き、会場の真ん中へ集められる。
「オレ、殆ど記憶ねーんだけどさ」
「まあ下手すりゃ死んでるくらいの状況だからな……治療は受けてるから大丈夫だろうが。大体お前は此処に呼ばれるには、全然技量が足りねぇんだよ」
「ねえメロウさん。さっきの紅茶美味しかったから、また飲みたい」
「お前紅茶の良し悪しなんか分かるのか?」
「本当に美味しい紅茶は、誰にでも分かるものですよ」
「その意見にはわしも同意するな」
「ええ、大会が終わったら皆で飲みましょう」
 全員聞いてない。各々勝手に会話している。それを見たベルカナは、敢えて何も言わずに新しい試合表が書かれた紙を掲げた。
「この通りに始めます。では、撤収」
 それだけを言い残すと、さっさと紙を畳んで会場から引っ込んだ。
「え? ちょっと待ってくれよ。オレまだ見てねーよ!」
「私も! 負けたから名前無いのは分かるけど、せめて組み合わせは見たいわよ!」
 見逃したゲインとメラウは、消えたベルカナに抗議の声を上げた。
「まあ……わしがやりそうな事じゃな……」
「聞けば答えるけど、話し聞かない人は自業自得だって放るものね……ベースって」
「僕は確認しましたから、皆さんにお教えしますよ」
 カイシが地面に、対戦表を書き出した。

 五戦目 カイシ 対 メロウ
 六戦目 バリセラス 対 コルセス
 七戦目 五戦目の勝者 対 六戦目の勝者
 八戦目 七戦目の勝者 対 ベース

「女性との戦いですか。これはやりづらいですね」
「そうは見えないけど?」
「コルセス……か。宜しく頼む」
「ああ、俺もお前には期待してるからな」
 対戦相手同士、戦意を確かめ合う。全員戦う意気込みは十分のようだ。互いに視線を合わせてから、会場を後にした。
「んじゃ、私たちは客席に行こっか?」
「そーだなー」
「わしはまたあの場所か……暇なんじゃよな……」
 メラウとゲインは客席へ、ベースは特別待機室へと移動していくのであった。


 第五戦目 カイシ 対 メロウ
「ふむふむ、この組合せば中々面白いですね。メロウの回復術使用を禁止する以外は、特に制限がありません。大いに暴れてください」
 カイシはメロウとは違い、『炎を纏わせる』というO・Hを持つ。これは十分に異能な攻撃方法だ。メロウが扱う術関係と戦わせるのも、面白いという判断である。
「言い忘れていましたが、メロウに粗相を働いた場合、カイシは二度と生き返れないと思ってくださいだそうです」
 暴れろと言われたからだろう。メロウとカイシは武器を構え始めたところだったが、両者ともなんと表現したほうが良いか悩むような表情をする。
「一応聞いておきましょう、ベースさんからですよね?」
「その通りです。本人は試合を見ていませんが、ベースとメロウは魂が繋がっているので隠すことは不可能です」
 つまりは、戦闘中の不可抗力を除き、セクハラをしたら首が飛ぶと思えという事だ。
「極端な感情の揺れは、相手にも伝わっちゃうのよ。そうじゃなくても、集中すれば相手の表層意識くらいは感じられるから。普段はやらないけどね」
「恐ろしく説明が長くなるので、此処では割愛します。では気を取り直してください、始めますよ」
 メロウもカイシも、軽く身体を動かしてからもう一度構える。それを確認したベルカナは、第五回戦の開始を告げた。
「では、始め!」
 そうしてゴングが鳴らされた。

「お祭り企画で本気を出すのも嫌なので、ほどほどで行きますよ」
「そうね、私もそこまで本気を出すのはちょっと」
 メロウのレイピアに薄緑色の光が噴出し、カイシの槍には炎が纏う。
「それでも、それなりには行くんでしょう?」
「ええ、勿論!」
 赤々と燃える炎を振り回すかのように、炎を纏った槍を大きく振り回すカイシ。
メロウも当然まともには受けず、大きく下がる。
 カイシは大きく踏み込み、右手を穂先へ移動させ、石突きで打ち込む。
 突き出された石突きを、メロウは左手の盾で流すように受け、そして盾の突起部分で絡めるように引っ掛けたまま間合いを詰め、レイピアを突き出す。カイシはその突きに、僅かに身体を傾けるだけで避けると、槍から離した左手でメロウの手首を打つ。その衝撃で彼女のレイピアは地面に落ちた。
「展開」
 これで勝負が付いたと思いきや、地面に落ちたレイピアから大きな光が発せられ、そこを中心とした術式が展開する。
「風鎖 縛!」
 術式から伸びる風で編まれた鎖が、カイシを襲う。
 それを見たカイシは、槍を無理矢理メロウごと持ち上げて盾にしながら、その鎖から逃れる。
 さすがに身体ごと持ち上げられるとは思わなかったメロウだが、鎖は彼女自身が操るものである。盾にはならない。しかしその反動か、盾で引っ掛けていた槍が外れる。
 それを見たカイシは大きく間合いを離し、襲ってくる鎖を炎が纏った槍で悉く切り落とした。
「ベース直伝」
 間合いが離れたカイシに向かって、いつの間にか手に戻っているレイピアを構えたメロウは、大きく振りかぶった。
「隆破(りゅうは)!」
 大きく横薙ぎに振るうと、レイピアから緑色の球体が発射された。一直線にカイシへ飛来するが、彼はまだ着地したばかりで動けない。
「一か八かですけどね!」
 苦肉の策としてその球体へ向かって、カイシは炎を纏った槍を振り下ろす。すると、綺麗に真っ二つに両断された。両断された球体はカイシの両側を過ぎ去り、やや後方で着弾し、爆裂する。
「いやはや、恐ろしいですねぇ……肝を冷やしましたよ」
「ありがとう。私もまさか持ち上げられるとは思わなかったわ」
「メロウさんはとてもお軽いですから。スタイルも良いですしね」
「メラウさんほどじゃないと思うけど?」
「それでも十分すぎると、僕は思いますよ。ベースさんがメロウさん以外眼中に無いのが、よく分かります」
 ふう、と息を吐き出し、再び槍を構えるカイシ。
「メロウさんの使う能力は、僕の槍で切り落とせることが分かりました。そろそろ勝ちに行きますよ」
「やっぱり炎には弱いのよね、私の属性」
 盾を前に出す左半身で構えるメロウ。
「先手必勝です!」
 槍を構えて突っ込むカイシ。全身が炎に包まれ、まるで火玉になったかのようだ。
「紅蓮走 突破!」
「……熱っ!」
 カイシの炎は見た目だけのものではない。纏っている本人には熱が伝わりにくくなっているものの、その外側はあらゆるものを燃やし尽くすかの様な高熱だ。たまらずメロウは飛びのく。
 飛びのいたメロウに向かって、カイシは身体を一回転させながら遠心力を乗せられるだけ乗せた槍を振るう。槍のリーチは長く、メロウが飛びのいた着地点まで到達した。
 盾でなんとか受けるが、衝撃が重い。動きが止まってしまう。
「ふう……これで終わりです」
 気が付いたときには、首元に槍の穂先が向けられていた。
「そこまで。勝者、カイシ」
 ベルカナがカイシの勝利を告げると、カイシは武器を下ろす。
「やっぱり強いわね、カイシさん」
「どうでしょうか。貴女もまだ他にも隠し持っているように思えますけど」
「それは内緒かな」
 レイピアと盾を腕輪に戻しながら、メロウは微笑んで見せた。


 第六戦目 バリセラス 対 コルセス
「バリセラスのO・H使用を禁じます。それ以外の制限は特にありません」
「ようは普通に戦えば良いんだな」
 腰の剣を引き抜き、バリセラスは正眼に構えた。
「やっと俺も武器が使えるんだな」
 コルセスも腰に吊ってある鞭を掴み、ばらけないようにまとめて掴んだまま構える。
「苦労人対決というところでしょうか。普段お守りをしてる分、その鬱憤を晴らす時ですね。では、開始!」
 ベルカナの言葉に気を散らせてしまう双方であったが、ゴングは待たずに鳴らされた。

「あー……ったくやりづれぇ事言ってから始めんなつーの」
「同感だ……」
 バリセラスもコルセスも、苦虫を噛み潰したような顔で棒立ちしている。
「……やるか。立ってても仕方ねぇし」
「そうだな……」
 もう一度気を取り直し、腕に力を入れる。
「ふっ!」
 先にバリセラスが仕掛ける。体勢を低くして接近し、下段から剣を振り上げた。
 剣の軌道を見切ったコルセスは、とっさに屈み、下から打ち上げるように鞭を振るった。
 弧を描かず一直線に飛んでくる鞭の先を、辛うじて剣の腹を使い弾こうとする。しかし鞭は剣に巻き付いてしまう。
「まだだ!」
 引かれて動きを封じられる前に、バリセラスは敢えて剣を前に出して踏み込んだ。受けきれないと察したコルセスは身体を捻ってやり過ごそうとするが、それでも剣はコルセスの頬を浅く切り裂いた。
 体勢を立て直そうとするコルセスだが、バリセラスはあっさりと剣を離し、腰に挿してある鞘を引き抜くと、コルセスの腹に突き入れた。もしO・Hが使えていたら、この時点でコルセスは突き殺されているだろう。
「っ……い……ってーな!」
 だがO・Hが使えない以上、所詮は単なる打撃である。コルセスは痛みを無視し、未だ鞭に絡まっているバリセラスが離した剣を引き寄せるが、バリセラスはそれを妨害するように回し蹴りを放つ。
 バリセラスの蹴りを左腕でガードするが、ダメージが大きく、痺れが走る。だが体勢は崩さない。
「返すぜ!」
 引き寄せた剣を右手で掴み、バリセラスに向かって振るう。しかしそれをバリセラスは鞘で受けた。
「……主人公ってのは、やっぱこうじゃねぇとな。こっちのクソガキにも見習って欲しいところだ!」
 バリセラスを突き飛ばすように押し出し、剣の柄ではなく鞭を掴み直し、剣を絡んだままバリセラスに向かって振るう。
 これでは下手に受けられないので、バリセラスは横へ跳んだ。だが鞭は軌道を変えて尚も追いすがってくる。
 巻きついている剣を鞘で弾いたのまでは良かったが、鞭の部分がまだ先に残っており、まだ動いている。避けきれず、腕を強かに打ちつけられた。
「くっ!」
「もういっちょ行くぜ!」
 一度鞭を手元に引き戻すと、今度は剣だけを左手で掴んで投げる。一直線に飛んでくる剣など、バリセラスにとっては怖くなど無いが、受けようと鞘を出した途端、剣が軌道を変えた。
 コルセスが右手で鞭を振るい、まだ飛んでいる剣に絡めたのだ。変則的な動きをする剣について行けず、バリセラスは右肩をざっくりと切り裂かれた。
 だが痛みを気にしている暇は無い。まだ剣は宙に浮いている。バリセラスは無理に鞭へ鞘を当てる。巻きついている剣は怖いが、気にしている場合ではない。鞘に鞭を絡みつかせ、封じようとする。
 しかし甘かった。絡めとろうとする動きを読んだコルセスは、鞭を引き寄せる軌道を変えてやり過ごすと同時に、バリセラスの死角から鞭の先の剣が襲い掛からせた。
「ぐあぁ!」
 反応が遅れたバリセラスは、自らの剣に切り付けられ、大量の鮮血を撒き散らす。
「もう良いでしょう、そこまで。勝者、コルセス」
 この傷での戦闘は無理だと判断したベルカナは、試合終了を告げた。

「……さすがに現役大佐だな…………それに、あんな変則的な動きが、何の能力もなしに出来るとは、思わなかった……」
「逆に考えろ。何の能力も無いからこそ、出来る範囲で腕を磨くんだよ。そうすっとな、いつか限界だって思ってたところも、突破できるようになってくるもんだ」
 治療を受けているバリセラスの横に、コルセスも付き添っている。心配無いとはいえ、気にはなるのだろう。
「なるほど……」
「さてコルセス。あなたは続けざまに試合ですよ。こちらで体力を回復させますので、一緒に来てください」
 そんな所に、ベルカナがやってくる。第七回戦はカイシとコルセスの戦いだ。バリセラスとの戦いで負った怪我もあるので、体力を回復するに越したことは無い。
「ああ、そうだな。良い戦いだったぜ、バリセラス」
「ああ、俺もそう思う。次も頑張ってくれ」
 互いに労うバリセラスとコルセス。ちょっとした友情が生まれてしまったらしい。
「……やはり苦労人同士、属性が似てる分気が合うんですね」
「お前はそこに拘るのな……」
 思ったことを口にしたベルカナに、げんなりとした顔を向けるコルセスであった。


 第七戦目 カイシ 対 コルセス
「そろそろマンネリ化してきましたので、志向を変えましょう」
 向かい合ったコルセスとカイシに向かって、ベルカナはそんなことを言い出した。
「行き成りだな。マンネリって……何するつもりだよ」
 げんなりとした顔をして、ベルカナを半眼を向けるコルセス。
「差し詰め、得意な武器を取り上げて、違う武器でも使えという事でしょうかね?」
「良いですねそれ、そうしましょう。武器はちょっと漁って来ます。ご安心ください、刃物の類は大量に用意してありますから」
 そういうと嬉々として会場の奥へ引っ込んでいくベルカナ。
「あー、さすが中身はベオースってトコだな。刃物で喜ぶ辺り……」
「ですねぇ」
 そんな事を言っている内に、ベルカナは戻ってきた。随分と行動が早い。
「コルセスはこちらの武器を、カイシはこちらですね」
 それぞれ扱う武器を手渡すベルカナ。コルセスには長柄の刃物、カイシにはいくつもの短剣が収められたベルトだ。
「因みに、コルセスカと言う槍と、テレクと言うナイフです」
「コルセスカって……よりによって駄洒落かよおい……」
 刃先の根元に、三日月の形をした刃が付けられた槍がコルセスカだ。れっきとした武器だが、どう考えても名前で選らんだ感が大きい。
「柄が十字ですか。刺突用のナイフなんですねぇ。量もありますし、投げナイフとしても使える訳ですか。上着は少し邪魔ですね」
 細かい動きを必要とするナイフなので、普段カイシが羽織っている上着を脱いで地面に置いた。ゆったりとしている分動きを察されにくいが、細かく動くには邪魔にはなる。
 そして渡された武器テレクは少々特殊な形をしており、使い方も握るのではなく、人差し指と中指で挟んで持つのだ。使う場合はそのまま拳を真っ直ぐ突き出すことで、相手を刺す武器なのである。慣れないと辛い武器ではあるが、カイシなら使えるだろう。
「ああ、言い忘れていましたが」
「O・Hは使うな、ですよね。分かっていますよ」
「なら良いです。では構えてください……始め!」
 コルセスとカイシが構えたのを確認したベルカナは、試合開始の合図を出し、ゴングが鳴り響いた。

「槍は専門外なんだがな」
 軽くコルセスカを振り回して、感じを掴もうとするコルセス。
「僕もナイフを主装備とするのは初めてですよ」
 握った感触を確かめつつ、カイシも軽く腕を振るっている。
「この武器じゃ、後手は辛いな。こっちから行くぞ!」
 改めてコルセスカを構え直し、カイシに向かって間合いを詰めるコルセス。
「遠慮なくどうぞ」
 テレクを両手で構えながら、腰を低くしてコルセスを向かい打つカイシ。
 真っ直ぐに突き出されたコルセスカを、左手のテレクの刃で受けつつ間合いをさらに詰める。このまま接近されたら、コルセスに勝ち目は無い。
 後ろに下がってもあまり意味がないと判断したコルセスは、敢えて右側へ大きく跳ぶ。コルセスカは穂先の両側から出ている刃があるので、上手くいけば多少の手傷を負わせるくらいは出来るからだろう。
「おっと。このナイフは受けるようには出来てないのが、辛いところですね」
 テレクは鍔にあたる部分が無いわけではないが、小さいのだ。受け流すのは出来ても、受け止めるのには難がある。そのためカイシは、体勢を低くしてコルセスカをやり過ごした。
 しかしカイシは避けるだけではなかった。体勢を低くする動作と同時に、右手のテレクをコルセスへ向けて投げている。
 それに気付いたコルセスは、慌ててコルセスカの柄で弾く。
「まだ行きますよ!」
 防御の動作に入っているコルセスはまだ動けない。そんな隙に、カイシは更に畳みかけようと新たなテレクを引き抜き、一気に間合いを詰める。
「そう易々と、入れらせねぇよ」
 コルセスは一歩後ろへ下がり、コルセスカを短く持ってなるべく小回りが利くように振るう。
 だがカイシは、再びテレクをコルセスに向かって投げた。しかも続けざまに二本。
 ぎりぎりで受けきるものの、眼前にはもうカイシが迫ってきている。
「っ! こっちはミドルレンジ限定だが、そっちはクロスとアウトか。やっぱり俺が不利なんじゃねーかよ」
 カイシの攻撃をコルセスカの柄で受けながら後退する。このままではジリ貧だ。
「中途半端に離れたら、僕が不利ですけどね!」
 左右の手に持つテレクを、踊るように繰り出すカイシ。本来テレクは刺突専門と言って良いが、薙いだり振り上げたりと、自由自在に操っている。
 だがコルセスとて手が出せないわけではない。受け続ければ負けるのは確実なので、無理にコルセスカの石突きを跳ね上げ、動きを妨害する。ダメージ覚悟の攻撃だったが、幸い無傷だ。
「大胆ですねぇ。思い切りが素晴らしいです」
 石突きを食らわないように後退するカイシ。その顔には、汗の一つも見えない。
「何やっても涼しい顔してやがんのな。お前みてぇのが一番やりづれーよ」
 言い終わるや否や、コルセスカを構えて突っ込むコルセス。このままカイシのペースに巻き込まれたら、そのまま押し切られると思ったのだろう。攻められたら弱いのは、カイシも同じなのだ。
 カイシはテレクをコルセスの顔に向けて投げるが、首を横に振るうだけで避ける。浅く頬が切れたのだが、気にしていられない。
「はぁ!」
 コルセスカをカイシに向かって突き入れた。その刃先は、カイシの右胸に深々突き刺さる。
「くっ!」
 その形状から、コルセスカに貫かれるとその場から動けなくなる。手を伸ばしてもカイシからコルセスには届かない。
「これで……決め手です」
 だが限界まで腕を伸ばし、手首のスナップだけでテレクを投げる。そのテレクは……武器が動かせないコルセスの首元へ向かい、喉元へ突き刺さった。
「もう良いでしょう。勝者、カイシ」
 双方とも、まともに動けるような状況ではなさそうだが、より致命傷なのはコルセスで間違いなかった。
「ようやく最終戦が決まりましたか。さてそれでは、ラスボスでも呼んできますか」
 救護班にコルセスとカイシが運ばれていく中、ベルカナも会場の奥へと下がっていった。


「待ちに待った出番ですよベース」
 特別待機室という名の椅子以外何も無い場所に座らせているベースを、ベルカナは呼びに行った。すると、そこにはメロウの姿もあった。椅子は一つしか無い筈だったが、その横に同じような椅子が並んでいる。どうやらベースが作ったのだろう。
「あ、ベルカナ。試合終わった?」
「メロウも来ていたのですか」
 ベルカナが近づいていくと、微笑んでみせるメロウ。
「試合を見てれば良いじゃろうとは言ったんじゃがな」
「ベースがあまりにも暇そうだから、こっちに来てたの」
「そうですか。試合相手はカイシに決まりました。今怪我の治療中ですが、まあこちらの医療班で完治させられるレベルですのでご安心を」
 それを聞くとベースは立ち上がり、軽く身体をほぐす。
「さて、やっと試合か。待ちくたびれたのう」
「大丈夫だとは思うけど、頑張ってねベース」
 その後へ続き、メロウも立ち上がる。観客席から見るのだろう。
「では会場に行って先に待っていてください。すぐにカイシの方も用意させますので」
「分かった。んではのう、メロウ」
「うん、期待してるからねー」
 そう言ってベースとメロウは別れ、それぞれの場所へと歩いていく。
「さてさて、ベースにかける制限はどこまでが良いでしょうか」


 第八回戦 カイシ 対 ベース
「カイシのO・H使用は認めますが、ベースは残破系、辣破系、瞬華系の技を禁止し、術も使用不可とします」
「また制限多いな……」
 そう言って手を口元へ当てて考え込むベース。使っても良い技の範囲を考えているのだろう。
「いえ、やはり訂正します。術も特殊な技も一切使用不可にします。さらに武器の投擲は認めず、使える武器も白狼だけで、左手のみで扱ってください」
 それを見たベルカナは、ベースの制限を跳ね上げた。
「ちょっと待て! なんじゃその制限は。しかも左手で右手用の刀使えというのかお主は!」
「使えなくは無いでしょう。右手用とは言ってますが、言ってるだけなんですから。隻腕の戦士とかも強かったりするんですから、やれるだけやってください。武器使わなければ右手も使って良いですから」
「無茶苦茶じゃな……」
 取り敢えず左手で、左の腰に挿してある刀の『切残刀 白狼』を逆手で引き抜く。手元で一回転させて順手に持ち替え、構えて見せた。
「なんだかベースさんも大変ですねぇ」
 先ほどの試合で使ったテレクではなく、自前の槍を構えながら、カイシも同情している。
「しかも自分が相手みたいなもんじゃからな……頭が痛い」
「それはさておき、行きますよ。では、始め」
 ゴングが鳴らされ、最終戦が開始された。

「では遠慮なく!」
 炎を纏った槍を、一直線にベースへと伸ばす。
 それを左手の白狼で受け流すと思いきや、側面に当てたままむしろ間合いを詰める。
「一点掌」
 完全に拳の間合いに入られてしまったカイシは、避けることも出来ずにベースの掌底を腹部へまともに受けてしまう。その衝撃で二メートルは押し出された。
「……さ、さすがに……お強いですね……敢えて武器を使わないとは……」
「まあのう。徒手空拳でもそこそこ行けるしな」
 受けたダメージを散らしながら、息を整えるカイシ。ベースは白狼を肩に乗せ、相手が回復するのを待っている。
「本気の貴方と殺り合うのだけは、本当に勘弁して欲しいと思いますよ」
「本気の度合いにもよるがな……出すとこまで出したら、正しく終焉じゃよ」
 もう一度構え直したカイシを迎え撃つため、ベースも白狼を相手の喉下に向けて構える。
「はぁ!」
 もう一度槍を突き出すカイシ。しかし今度は踏み込みが少し浅い。ベースもそれに気付いたのか、前に出ない。
 するとカイシは、小刻みに槍を突き出す。牽制をするかのように一つ一つの動きは小さいが、その穂先は炎が纏っている。炎に揺れて感覚が狂うし、空間が熱を帯びてくる。
「こういう場合は、残破で諸共ぶっ飛ばしたりするんじゃがな」
 しかし禁止されていて使えない。
「ちと無理でもするか!」
 受けた槍を白狼で絡めるように当て、そのまま槍を滑るように接近する。槍は炎を纏っているので、ベースにもダメージはあるだろう。
それでもベースの動きは早い。カイシが距離をとる前に肉薄し、白狼を跳ね上げた。
カイシの前髪をいくつか切り裂いたが、すんでの所で避けるのに成功して距離を取る。
「旋転刻」
 だがベースはまだ踏み入って横なぎに白狼を振るう。もう一度距離を取ろうと後ろへ下がったカイシだったが。
「……走覇!」
 二段構えの技だ。一回目の攻撃途中に気付かれないよう足を寄せ、もう一度踏み込むのである。まだまともに着地していないカイシは、槍の柄で受けるしか出来なかった。
「っく!」
 するとカイシは、懐から先ほどの戦いで使ったテレクを取り出し、ベース目掛けて投げ付ける。これ以上接近されると、体勢が立て直せないため、せめてもの時間稼ぎだ。
 何の苦も無くそのテレクを受け止めたベースは、体勢を立て直そうとしているカイシに向かって、そのテレクを投げ付けたのだった。カイシは空中で打ち落とすべく、もう一つのテレクを投げ、空中で打ち落とした。
「はいそこまで。勝者、カイシ」
 そんな中、突然ベルカナが宣言した。まだ臨戦態勢の二人は、狐に摘まれた様な顔をしている。
「言いましたよね、ベース。武器の投擲は認めないと。使いましたよね? テレク。しかも右手で。ルール違反で反則負けとします」
 ベルカナの説明に、ポカーンとするベースとカイシ。
 抗議しようかとも考えたベースだったが、どうせ無駄だと思い至り、その場で肩を落としているのであった。


「はいはい皆さんお疲れ様でした。長い間ご苦労様です」
 始めと中間時の用に、全員を会場に集めはベルカナは、台の上に上がり頭を下げた。
「あのさー、あの終わり方は無いんじゃないのー?」
「あれは不可抗力だろうしな……制限も厳しすぎだ」
 などと最後の試合について、不満の声も出ている。
「ルールはルールです。決めてあることは守りましょう」
 そう言われてしまっては、誰も言い返せないのであった。
「では優勝者のカイシ、台の上に来て下さい」
 呼ばれて上がってきたカイシは、いつもの微笑を浮かべている。何はともあれ勝ちは勝ちだと切り替えいるのだろう。
「おめでとうございます。今の感想はどうですか?」
「中々楽しい催しでした。僕が戦わせて頂いた方は3人だけでしたが、また別の機会に他の方ともお手合わせをお願いしたいですね」
 と、手に持っている槍を片手で回して見せた。
「はい、ありがとうございます。では、商品の授与を」
 ベルカナの言葉が終わると、裏方作業を行っていたと思われる人物が現れ、布のかぶせられたトレイを持って台へ上がる。
 そのトレイを受け取ったベルカナは、カイシに向かって差し出した。
「ありがとうございます」
 受け取ったカイシは、かぶせられている布を取り払って見る。そこにあったのは。
「……請求書?」
「此処の会場もタダではないので。どの道商品なんか用意していませんでしたから、一番お金を持っているであろうカイシが優勝したことで好都合と思いまして。盛り上げるために商品として出すことにしました」
 さすがのカイシも絶句している。
「……わし、あそこまで鬼か?」
「多分……やってる内に新しいキャラとして、性格が固定されちゃったんじゃないかなーと……」
 そんなカイシとベルカナを見ながら、ベースとメロウがげんなりとした顔をしているのであった。
「色々災難だったな、あの兄ちゃん」
「いや、普段が普段だから別に良いだろう」
「良いんじゃない? 後で何かあるわけじゃないだろうし。あ、これ終わったらメロウさんの紅茶が飲めるんだっけ、メロウさーん」
「俺も、そっちに行くか」
 こうして、メンバーはぞろぞろと会場を後にした。
「私もメロウの紅茶が飲みたいので、これにて失礼します。それでは」
 その後にベルカナも続き、会場にはカイシが一人、ぽつんと残されて終わるのであった。

 2010年 お祭り用小説 了
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