秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2010年お祭り用小説 1
 誰もが浮かれる年明けのこの日。閑散とした会場に複数の人影があった。
 各々が皆武器を手にし、会場の中央付近に集まっている。
「んで、結局何しろって話?」
「俺に聞くな」
「まあ主催者が来るまで待ちましょうか」
「武器を持参しろっては言われたんだったら、まあ大体予想は付くが」
「え? なんなんだ?」
「しかもこのメンバーじゃしのう」
「みたいね、これは腕の見せ所ってところなのかな」
 そこに居る人影は7人。
 反りの入った剣と、プレートメイルを装備したバリセラス。
 バリセラスから受け取った、鉄の手甲(ガントレット)を腕に装備しているメラウ。
 ゆったりとした旅装束を身にまとい、身長より長い槍を手にしたカイシ。
 軍服をラフに着こなし、腰に鞭を吊っているコルセス。
 バスタードソードを手に、辺りを見渡しているゲイン。
 全身刃物と言っても良いほど、大量の剣を身につけているベース。
 見た目は何の武器も所持していない、青を基調とした服を着ているメロウ。
 それぞれが近しい人同士で集まり、談笑を交わす。
「明けましておめでとうございます」
 すると、そこへ一人の女性が現れた。腰に届きそうな程に長い黒髪を揺らし、やや気怠るげに歩いてきた。どうやら主催者らしい。
「それと、有る意味では始めまして。私はベルカナと申します。今大会の司会を勤めさせていただきます」
 そうして、頭を下げた。
「司会? この面子だと、大体ベオースが来るんじゃないの?」
 とメラウが発言した。普段なら、まとめる役割を担うはずのベオースが、全く姿を見せないのである。
「……お祭り企画の番外編だからと言って、あいつは気軽に呼び出して良い存在じゃないと思うが……」
 バリセラスはメラウの発言に難色を示す。
「とはいえ、この様に綺麗なお嬢さんが司会なのですから、僕としては嬉しいですよ」
 などと、ベルカナに向かって手を差し出すカイシ。しかし、ベルカナはそれに眉をひそめてから、無視する。
「カイシ、あまり調子に乗らないように。ベルカナとは名乗っていますが、中身は殆どベオースと思って下さい。今回、ベースも此処に出る以上、同じ姿で同じ口調のベオースが混ざると、多少ややこしい場面が出るために、急遽ベルカナというキャラクターを作り、ここへ立てているだけに過ぎませんので」
 淡々と語るベルカナ。確かに彼女の姿は、確かにベオースの面影がある。姉か妹だと言われれば、信じられそうな程似ている。
「ああそっか。ねえベース、ベルカナさんの横に並んでよ」
「……言うと思ったがな」
 メロウに言われたベースは、ベルカナの横に並んでみせた。ベースより身長が20センチほど小さいが、殆どそっくりだ。
「それはそうでしょう。外見のイメージはほぼベオースの姉の流用です。つまりベースの姉、もしくは妹として設定させても問題ありません。実際流れている血はベオースと同じなので、つまりはベースから見ても同じです」
 そうしてベルカナは、ベースの頬を摘んでみせた。その姿は、兄と妹と言うような姿に見える。
「なあ、今一わからねーんだけど。結局ベオースとどう違うんだ?」
 ゲインが近寄って、そんなことを言う。元々彼は理解力が少ないのだ。
「そうですね、分かりやすく言うなら……ベオースが新しく作ったネットゲームのキャラクターとでも言いますか。中身はベオースですが、表示されているのは女キャラという解釈で構いません」
「でも、ベオースと口調が随分違うんじゃねーのか?」
「女キャラで表示されているのに、今までのような口調では嫌でしょう。口調は丁寧語版のベオースとして考えてください。……さて、ゲインには説明するだけ徒労ですので、さっさと先に進めます」
 ベルカナはスタスタと歩き始め、近くにあった台の上に上る。
「それでは今大会の趣旨を説明します。まず、こちらでランダムに決めた組み合わせ順に対戦してもらいます。対戦の内容は、自らの得物で相手を倒すこと。殺傷も認めます。要するに、殺しても良いから相手を屈服させろと覚えてください」
 それを聞いて、ゲインとメラウが驚いたような顔をする。
「死ぬって! いきなり呼ばれて死ぬとかねーだろ!」
「そーよ! 何考えてんのよ!」
 という抗議は尤もであるが、対してベルカナはごく涼しい顔をしている。
「死ぬとは言っても、その時だけです。すぐに生き返らせますよ」
「ベースも居るしね。今日みたいな日くらいは、神の力使っても良いわよね?」
「まあ、そうじゃのう……」
 ベルカナに合わせる様に、メロウとベースが発言する。すると、今度は二人とも嬉々とした顔をする。
「よーし、頑張るぜーー!」
「ういうい~」
 そんな二人の姿を、あきれた様子で眺めるバリセラスとコルセスであった。
「ただこのままだと組み合わせに難が出ますので、こちらでもう2人用意します。主役級でないためこの場には居ませんが、対戦のときは呼ばれて出てきます。それと、どう考えてもそのまま対戦した場合、ベースが圧勝するので、ベースは能力にかなりの制限を付け、決勝で残った相手と戦ってもらいます。
それでは、対戦表はこちらになりますので、各自確認してください」
 ベルカナはどこからか大きな紙を取り出すと、目の前に掲げて見せた。

 一回戦 ゲイン 対 カイシ
 二回戦 メラウ 対 メロウ
 三回戦 バリセラス 対 タガル
 四回戦 コルセス 対 クィーミン

「僕はゲイン君ですね、分かりました」
「この兄ちゃんか。楽しみだぜ!」
「宜しくね、メラウさん」
「よろろ~。んでもメロウさんとやるなんて、ちょっと新鮮」
「タガル……ああ、あいつか……」
「クィーミン? 誰だそりゃ」
「因みに対戦順は、実際にあみだくじで決めましたので、本当にランダムです。後は成り行きを見守ってください。以上です」
 


 第一回戦 ゲイン 対 カイシ
「この組汗の場合、ハンデとしてカイシのO・H使用を禁止します」
「承知いたしました」
 お祭りとはいえ、それなりに同条件で戦わなければ面白くないので、相手が特に何の能力も無い場合は、このように制限されることになるのだろう。
 だがカイシは、気にもしていないように、ずっと浮かべている微笑のままだ。
「それではお手並み拝見と行きましょう、ゲイン君」
「ああ! オレだってコルセスに今まで訓練受けてきたんだ、そうそう負けねーぜ!」
 ゲインは手に持ったバスタードソードを、まっすぐ構える。カイシは表情を変えぬまま肩の力を抜き、リラックスした様子で槍を構えた。
「では、始めてください」
 ベルカナが発した開始の声とともに、ゴングが鳴らされる。

「てりゃぁぁぁ!」
 ゲインは剣を振り上げながらカイシに肉薄し、懇親の力で振り下ろした。
 だがカイシはその場から動かずに、その剣を槍の穂先で合わせる様に受け、そのまま槍を一回転させるようにまわして見せた。
「おわっ!」
 カイシの槍に絡め取られるままに、ゲインは中を舞う。そのまま後方の地面に転がった。
「いてててて……こ、今度こそ!」
 今度は下段に構えて、もう一度カイシに向かって走るゲイン。
「そうですねぇ。ゲイン君は猪突猛進過ぎますかねぇ」
 と微笑のままボヤいたカイシは、近づいてくるゲインの剣に槍を引っ掛けるように当て、身体を横にずらし。
「それでは行きますよ~」
 軽い口調で言いながら、ゲインの走ってくる威力をそのまま利用し、自分の後ろへ放り投げた。
 訳が分からないまま空へ飛ばされたゲインは、そのまままっすぐ飛んで行き……壁に激突して気を失った。当人からすれば、悲鳴を上げる余裕など無かったのだろう。
「はい、お疲れ様でした」
 ゲインを放り投げたカイシは、槍を下ろして、微笑を浮かべたま優雅に一礼する。
「勝負あり。勝者、カイシ」
 ベルカナが勝利者の名前を告げ、第一回戦はこれで終了した。

「……まあ、予想はしてたが、ものの見事に遊ばれてたな」
 ギャラリーで煙草を吸っているコルセスが、呆れた顔を晒している。
「とはいえ、一応主人公として呼ばない訳にもいきませんので」
 その横に、ベルカナと救護班の数人がゲインを抱えて訪れる。
「ゲインはここに寝かせておきます。怪我は治したので、問題は無いでしょう」
「ああ、そうしてくれ……って、そうか。悪りぃ」
 そういうと、コルセスは吸っていた煙草を消す。
「ベオースそのものって事なら、同じように煙草嫌いなんだろ?」
「ええ……お気遣いありがとうございます。ですが、こちらから近寄ったので、御気にせずに。では、失礼します」
 ベルカナは軽く頭を下げると、救護班を引き連れて、来た道を戻っていった。
「さて、次はメロウとメラウか……なんか紛らわしいな……」


 第二回戦 メラウ 対 メロウ
「この場合、どちらも回復系の力を使えるということで、互いにその力の使用を禁止します。メロウの場合、その他の能力も使用禁止にします。つまり完全に肉弾戦となりますので、ご注意を」
 回復系の力が使えない場合、メラウは単なる格闘家にしかならないための考慮だろう。ややメロウの方が多く制限が付くが、合わせる為には仕方ない。
「宜しくね~」
「負けないわよ~」
 メロウの左手に付けられている腕輪から薄く光が発し、少し大きめの盾が現れた。さらにそこから、美しく輝くレイピアを取り出す。
 メラウはバリセラスから付けられた手甲(ガントレット)を前に出すように構え、腰を落とす。
「では、始めてください」
 そしてゴングが鳴った。

「うりゃぁぁぁ!」
 体勢を低くしながら、一気に間合いをつめるメラウ。その威力を殺さず、下から打ち上げるように右の拳を打ち出した。
 メロウはその拳を、左手の盾で受け流すようにしながら、やや右に移動しつつ、レイピアを突き出した。
「一点 刻」
 さらに踏み込むことでその突きを避けたメラウは、畳み掛けようとするが。
「……月牙!」
 メロウのレイピアが、メラウの後を追うように閃いた。慌てて距離をとるメラウ。
「びっくりしたー。下がるかと思ったら、二段構えとか。もしかしてそういう技?」
「うん。『一点刻 月牙』って技。当てられるなら殆ど初見の相手くらいだけど、動きの幅が出るから後の牽制にもなるって、ベースから教えられたのよ。というより、もうそのままベースの技だけどね」
 どの道レイピアでは、横薙ぎの攻撃は深手になりにくい。とはいえ当たれば当たった分だけダメージはあるので、受けるほうも下手には手が出せないのだ。
「今度はこっちから!」
 右半身に構え直したメロウは、メラウに向かって鋭い突きを繰り出した。
 レイピアの突きというのは、出が非常に速い。それでいて当たる場所が細い上に鋭いので、下手な防具なら貫通するし、堅牢な防具でも僅かな間から刃が進入する。なるべく逸らすか避けるしかないのだが、その速度からどちらも厳しい上に、頻度がとにかく多い。完全にインファイト専門のメラウからすれば、かなり苦手な相手だろう。
 しかしメラウも素人ではない。上手く距離をとりつつ、何とか全て避けている。腕に付けている手甲(ガントレット)で、上手く相手の剣の腹に当て、逸らしているようだ。
「はぁ!」
 いくら速くとも、一本の腕で繰り出す以上、一瞬の隙はどうしても出る。避けながらメロウの動きを見ていたメラウは、そんなほんの一瞬の隙を見て、間合いをつめた。
 それでもメロウの攻撃がメラウの右肩に入る。しかし浅い。ダメージ覚悟でメラウは踏み入ったのだ。
 メラウ右手は、完全に無防備なメロウの腹部へ……入らなかった。よく見るとメロウは、始めから上半身ごと右に傾けていたのだ。それなら、当たったとしても掠る程度だろう。実は、メラウに攻撃する隙を与えるため、メロウはわざと少しずつ攻撃の速度を落としていたのだ。そのためメラウは、攻撃できる隙が出来たと錯覚したのである。
「ヴァイオレントディフェンド!」
 メラウが身体を引く前に、メロウは相手の右腕を左脇で抱え、そのまま左手の盾を、メラウの脇腹にめり込ませた。
「そこまで。勝者、メロウ」
 その瞬間、ベルカナは勝負の終了を告げた。
「え? なんで。今の攻撃、痛かったけど、まだ私動けるんだけど」
 しかしその判定に、メラウは抗議する。まだ自分は殆どダメージが無いと言う主張だ。
「残念ですが、恐らく今の攻撃でメラウは死んでいます。流石メロウですね、慈悲深い」
「あはは……流血沙汰にするのは、やっぱりちょっと抵抗が……」
「お化け屋敷を微塵も怖がらないどころか、笑いながら入っていく貴女が流血を嫌がるというのも、どこかちぐはぐな気もしますが」
「あれは作り物だもん。それに、相手は友達だもの」
「……どういうこと?」
 なんとなく忘れ去られているようなメラウは、きょとんとしながら首を捻っていた。
「ああ、すみません。説明しますと、あの盾にはベースの入れ知恵で、突出する刃が仕込まれています。今メロウが使った技、『ヴァイオレントディフェンド』ですが。要するに攻撃は最大の防御という技で、その盾に仕込んだ刃で相手を貫くものです」
 つまりメロウは、技名を叫んだだけで、実際には使わなかったと言う事だ。ベルカナなら叫ぶだけで内容を察せるため、意図を汲んでくれると踏んだのだろう。
「そういうこと。ごめんね、メラウさん」
 レイピアと盾を腕輪にしまうと、申し訳なさそうな顔をするメロウ。
「あ、ううん。こっちこそ、ごめんね。ありがとー」
 そう言ってメロウに抱きつくメラウ。メロウが流血沙汰にしたくないというのが、よく分かるような光景だ。
「まあ、メロウにはメラウと似たタイプの親友が一人居ますから、動きが分かりやすかったとも言えますかね。さて、此処からは女同士の会話ですから、私はお暇(いとま)します」
 ベルカナは一礼すると、何かを散らすように手を振り、二人から離れていった。
「女同士って、ベルカナも女じゃないの?」
「中身は殆どベオース、って言うことだから、本当に見た目だけなんじゃないかな?」


 第三回戦 バリセラス 対 タガル
「どこかで見たこと有るような組み合わせですね。あの時と同じ状況にしても面白くないので、双方ともO・Hの使用を禁じます」
 ベルカナが言い終わると、会場の奥から筋骨隆々とした身長190センチ以上の大男が姿を現した。
「待ってたぜー! 今度こそ、あの時の借りを返すときだ!」
 両腕を振り上げ、雄々しく吼えるこの人物こそ、タガルである。しかし、タガルに送る声援などは、特に無いのであった。そもそも観客はいないのである。
「……なんか、あいつの扱い軽く酷くないか?」
「完全無欠にサブキャラですから仕方ありません。表舞台には出られない人ですから」
 そんな姿を不憫に思うバリセラスであったが、ベルカナは横で「むしろ出して貰えただけ、有り難いと思って欲しいくらいです」などと小さく漏らしていた。
「おいバリセラス! あの時と一緒と思うなよ……あの時の恨み、俺は忘れたことは無いぜ!」
 既にダガルはやる気満々で臨戦態勢だ。武器として、腕には鉤爪が付けてある。
「……後の展開でまたやるだろうに。番外編でネタを使ってどうするんだろうな」
 何となくやる気がなさそうだが、バリセラスも剣を引き抜き、正眼に構える。
「お遊びですから気にしません。それにそれを言うなら、貴方も本編以外の所で弄られ過ぎて、ますます苦労人属性が定着していますよ。本編ではもっと棘があるキャラなんですから、気をつけてくださいね」
「……勘弁してくれ」
 さらにげんなりと肩を落とすバリセラスであった。
「それでは行きます、試合開始」
 そんなバリセラスを無視し、ベルカナの合図と同時にゴングが鳴った。

 バリセラスが肩を落としているのを好機と見たのだろう、タガルは早速接近する。
 小賢しくも足音を立てないよう慎重に進み、声も潜めている。
 巻き込まれないように後ろへ下がったベルカナは、「図体の割にはやる事がセコイですね」と呟いているのだった。
 言わずもがな、バリセラスにこの程度の小細工が通用する訳が無く、タガルが拳を突き出すと同時に後ろへ大きく跳んだ。
「気は乗らないが、負けるのは嫌だな」
 気を引き締め、相手を見据える。剣を構え直し、深く息を吐く。
「速真骸(そくしんがい)!」
 強く地面を踏みしめ、一気にタガルへと迫る。そのまま真っ直ぐと進むのではなく、やや位置を逸らしながら進み、タガルがこちらを見失った瞬間、間合いをつめて袈裟に切り捨てる。
 タガルはか細い悲鳴を上げながら沈んでいった。なんともあっけないものである。
「勝負あり。勝者、バリセラス。……それにしても、悲鳴を除けば二言だけでしたか」
 ベルカナの宣言と同時に、担架を担いだ救護班がタガルへ集まり、テキパキと運んでいった。


第四回戦 コルセス 対 クィーミン
「ここは悩みどころですね……O・Hを許可すると、肉弾戦対異能になりますし……かと言って禁止すると、クィーミンには武器が無くなりますし」
 コルセスは飽く迄人間の能力から逸脱した力は無いが、クィーミンの武器はO・Hで硬化させた自らの衣服だ。
「こうなったら面倒です。クィーミンのO・H使用は禁止し、双方とも徒手空拳で戦ってください」
 タガルの時と同様に、ベルカナが言い終わると、会場の奥から人影が現れる。しかし、出てきたと思ったら再び姿を消した。
「なんだ?」
「ある意味ドレスアップでしょうか。まあ、どちらかといえばドレスダウンと言う様な気もしますが」
「あー……すまねぇが意味が分かんねぇ」
「気にしないでください」
 コルセスの質問に適当な答えを返すベルカナ。そんなことをしている間に、再び会場の奥から人影が現れた。
「折角戦闘準備してきたって言うのに、いきなり着替えさせられるとは思わなかった……」
 その人影は勿論の事クィーミンだ。武器として使う為のヒラヒラが多く付いたドレスではなく、訓練用に使われるような運動着姿である。
「それはともかく、早く構えてください。始めますよ」
「お前……本当にゲストキャラの扱いひでぇのな」
 文句を言いつつも、構えるコルセスとクィーミン。
「それでは、始め」
 ベルカナの合図で、ゴングが鳴らされた。

「取り敢えず小手調べだ!」
 踏み込みつつ、軽く左手で当身を入れるコルセス。それを軽いフットワークで避けつつ、右フックを当てに行くクィーミン。
 クィーミンの右拳をステップで後ろに下がりながら逃げ、コルセスは改めて相手を見た。
「格闘専門の相手かよ……圧倒的に俺が不利じゃねぇか」
「……女だからと侮りはしないのだな」
「見りゃあ手練かどうかくらい判断付くからな。んな余裕なんかねぇよ」
 コルセスは邪魔だと判断したサングラスを外し、地面に置く。
「行くぞ!」
 外したサングラスを踏まないように、クィーミン相手に肉薄する。クィーミンもそれを察した様で、敢えて後ろに下がった。
「がぁ!」
 コルセスのほうが高い身長を利用し、上から叩き潰すように右手で掌底を放つ。クィーミンはさらに後ろへ下がるが、下がり切らず、攻めようと前へ踏み出そうとする。
「ぬっ?!」
 最初から当てる気が無かったのだろう。勢いこそあったが、コルセスの手は攻撃ではなく、上半身を下にする動作をするためのフェイントだ。
 片手で逆立ちをする様に身体を起こし、その勢いを使い左足でクィーミンの頭を狙う。
 クィーミンは避けきれず、なんとか両腕でガードをして受けるものの、かなりの衝撃で少し身体が泳ぐ。
 さらにコルセスは腕をバネにして横へ跳び、クィーミンの足元へ滑り込みながら回転し地面と向き合い、起き上がりつつ再び左足で蹴り上げた。
 最初の攻撃で身体が泳いでいたクィーミンだったが、ぎりぎりのところで防御する。ダメージはあるが、何とか踏みとどまった。しかし痛みで直ぐには動けない。
 振り上げた左足の勢いでそのまま縦に一回転したコルセスは、着地して身体に付いた砂埃を落としながら立ち上がる。
「あー、割と無理矢理な動きで試して見たが……まあ大体今ので分かったな。あんた、変則的な動きに弱いだろ。構えが綺麗過ぎるからまさかとは思ったが、どうやら当たりだな」
 コルセスの言う通り、クィーミンは実践という実践を今までまともに経験したことがないのであった。唯一の実践がメラウとの対決くらいだったりするのだ。
「……どうやらそちらは、実践経験が豊富なようだな」
「まあ、あんたより10歳くらい年上だろうしな。こっちも色々有ったんだよ」
 砂埃を払い終え、悠然と構え直すコルセス。手は握り締めず、受ける構えのように手を眼前に出す。
「攻められっぱなしでは、こちらも立つ瀬が無い!」
 ステップを踏み、身体を交互に揺らしながらクィーミンが果敢に攻め始める。左右の拳を巧みに打ち込み、コルセスに手を出させない積もりなのだろう。
 コルセスはそれぞれの拳を正確に避け、無理そうなものはダメージが少ないように受けつつ好機を探る。
そしてクィーミンの腕が引かれるのと同時に右腕を伸ばし、相手の襟首を掴んだ。
「なっ!」
「せあぁ!」
 掴んだ襟首を引き寄せ、腕を掴み、腰を相手の腰に当てながら身体ごと下から持ち上げ、勢いを殺さず地面へと叩きつけた。つまり払腰という柔術である。
 頭だけは打たないように受身を取ったらしいが、その上にコルセスが跨り、首元へ拳を突きつける。
「だいぶ無茶な動きだなこりゃ。まあ、こっちも制限多い中だから、仕方ねぇんだよ」
「勝負あり。勝者、コルセス」
 そうしてベルカナが宣言し、勝者が決まった。

「見事ですね。まさか投げ技で決めるとは思いませんでした」
 サングラスを拾い、試合会場から出て行こうとするコルセスに向かって、ベルカナは声をかけた。
「普通の打ち合い専門っぽかったからな。さっきお前が言ってたが、あっちはO・Hって能力と併用して戦うんだろ? だったらインファイトで投げるなんて芸当する必要があるとは思えねぇしな。だから敢えて投げて見たんだよ」
 サングラスを掛けながら、懐から新しい煙草を取り出して咥えるコルセス。そのまま会場から出て行ってしまった。煙草が吸いたくて仕方ないのだろう。
「……それにしても、あの人は一体何が出来て何が出来ないのでしょうか。ベースほど変則的なのは無理だとしても、大体のことは平均的以上にやってのけそうですね」



続きへ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。