秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
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仮面の少女 4
 ファルクが待っている様に言いつけてあった部屋から姿を消したのを見て、コルセスは急いでファルクの足取りを追おうとした。
「変な仮面をつけた女を見なかったか!?」
 とはいえ何の情報も無いので、狭い通路を歩く人物を、片っ端から捕まえて同じ質問を繰り返す。いくら慌てているとはいえ、親の仇でも探しているかの形相でこられては、質問された方は戸惑うばかりで、何を言っていいのか分からなくなるものである。
 というより、気迫に押されて、言葉を濁してしまう人が大半だ。ついでに言えば質問されるのが殆ど若い兵卒相手だったりするので、顔を知らないとはいえ大佐の階級章を付けた人物に迫れては、もう恐縮するしかない。
「あの……た、大佐……一体どうなさったのですか……?」
「護送中の女が、別件で目を離した隙に姿を眩ませやがった。取り敢えず、見たのか? 見なかったのか?!」
 もはや恐喝である。質問されている方などは、両手を上げてなだめ様としているので、余計にそう見える。
「い、いえ……私は……見ていません……」
「なら良い、時間とらせて悪かった!」
 そうして走り去ってしまう。一応謝罪の言葉を置いて行ったのだが、それよりも呆気にとられてただ見送る事しか出来なかった。


「くっそ、どこ行きやがった!」
 一体此処まで来るのに、何人怖がらせたのか分からないほど、手当たり次第に恐喝まがいの事を行っているのは、勿論ファルクを探すコルセスだ。
「まだ騒ぎは起きてねぇ……ってことは、幸い力は使ってない……と思いたいが」
 下手をすれば、軽く死体が出来上がる。いや、死体も残らない場合まであるから性質(たち)が悪い。
 ファルクを野放しにする、ということは、いつ爆発するかも分からない爆弾を放置するのと同義。ここで人死を出す事だけは避けたい。
「頼むから、何か変な騒ぎになる前に……んだ?」
 と、通り過ぎようとしていた通路の先に、人だかりができているようだった。
 もしやと思い、急停止して通路を曲がる。
 近づくと、人だかりではなくただ数人が集まって行動しているだけのようだった。白衣姿の格好から見て、研究者だろうか。
 少し気を落とすコルセスだったが、兎に角今は少しいで良いから情報が欲しい。取り敢えず声をかけて、話を聞いてみよとする。
「すまねえ! あー、少し良いか?」
 情報は欲しいが焦っているのは変わらないため、語気を強くしたまま声をかけたのだが、その集まりの中心に居る人物が一般人に近い若い女性なのを見て、少し声を落とした。あまりにラフな格好なので、どう見ても軍の関係者や研究者には見えない。
「んん? どっかした?」
 周りにいる研究者達が口を開くより早く、中心にいる女性が反応した。癖毛で撥ねている緑色の髪の上に、大きな帽子を被っており、年齢は20歳前後に見える。
「人を探してるんだが……」
「もしかして、変な仮面付けた女の子?」
「頭に変な……って、は?」
 行き成り特徴を出す前に、ピンポイントでそれを相手に言われると、一瞬訳が分からなくなるものだ。その所為で素っ頓狂な声を出してしまうコルセス。
「ってことは、大当たりっぽいね」
 当たったのが嬉しいのか、ニコニコとした表情をする女性。その姿にポカンとするコルセスだったが、気を取り直す。
「知ってるなら話は早い。どこに行ったが知らねぇか?」
「ごめんねー。ファルちゃんの姿は見たけど、ちょっと用事があったからさ。んでも、歩いてった方角は見てたから、大体の見当はつくよ?」
「本当か?! 助かる。少し案内してくれ」
「おっけ~」
 話がまとまり、女性とコルセスが一緒に行動しようとしたところで、周りの研究者達から制止の声がかけられた。
「お待ちください。アンス博士、これから王都へ向けて出発しなければならないんですよ。もうかなりの時間、出発を先延ばしにして貰っているのです。これ以上の我が儘は自粛して下さい」
 そうして、アンス博士と呼ばれた女性を取り囲む。
「えぇ~。良いじゃんそんなの待たせとけば~。あの子、ちょっと気になるんだよ~」
 しかし、本人は露骨に不服そうな顔で声を出す。
 それにコルセスとて、漸く掴んだ手がかりだ。ここで拒否されるのは痛い。取り囲んだ研究者達を眺めると、頭を下げた。
「頼む。これも軍務の1つだ。ここに居るって事は、軍所属の研究者なんだろう? なら、それに応えるのもあんたらの仕事な筈だ」
 ここの支部に所属している訳ではないとしても、コルセスは大佐の階級を与えられている人物である。その大佐からの頭まで下げられての頼みであるなら、無碍に断る事も出来ない。取り囲んだ研究者たちは、苦々しい顔をしている。
「事が済んだら、直ぐに開放するし、なるべく手短に済ませる。だから頼む!」
 こうまでされて、尚拒否するようであれば、後々の信用にまで響くだろう。
「……分かりました。なるべく手短に済ませてください」
 研究者たちは、やや不服そうな顔をしてはいるが、道を開けた。
「すまない。もし問題があった場合は、俺が責任を取る」
「はい。ですから、そうなる前に済ませてください」
 研究者の皮肉に苦笑いを浮かべながら、コルセスはアンス博士と呼ばれた女性を促して、走り出す。
「ありがとー。あたしはティンリーだよ、よろしくねコルっち~」
「コルっち?」
 研究者達を抜けて、走り出して直ぐ、女性は唐突な自己紹介と共に謎な言葉を発する。流石に意味が分からず、聞き返したコルセスだったが……微かに嫌な予感がした。
「うん。名前、コルセスって階級章に書いてあるっしょ? だからコルっち」
「……」
 嫌な予感は的中したようだ。しかしまあ、訂正しているだけ徒労だろう。
「あー、別にそれでいい。取り敢えずティンリー、どっちだ?」
「んーとねー。大まかだけど、こっち」
 そうして2人は、目標を目指して駆けていく。
 一方残された研究者達は。
「……アンス博士、そのまま戻ってくると思う?」
「いや……無いな……」
「はぁ……いつものパターンだとすると」
「私は嫌よ……前回の代理発表やったもの」
「それじゃあ、僕がやるよ。後でハンコだけ貰えば済むように、代理届けの書類作っておこうか」
「賛成……」
 などと意気消沈しながら、ぞろぞろと移動していくのであった。


「だから、俺は遊んでる訳じゃ無いんだって!」
 建物の外まで連れ出され、未だ引きずられる形で施設外へ向かわされているゲインは、喚き散らしながら抵抗を続けている。
「分かった分かった。良いから大人しくしていなさい」
 その抵抗を物ともせず、ズンズンとゲインを拘束したまま先へ進んでいく軍人。口調も完全に幼い子供をあやす程度になっている。
「俺はコルセスっていう隊長に、ここまで連れてこられたんだよー」
「何度も言っているが、ここにはコルセスなんて人は所属していない。そんな嘘は通らないと、覚えておいた方が良い」
 実際は連れられてきたのではなく、ゲインが勝手に付いてきた方が正しいのだが、招き入れたのはコルセスに間違いは無いだろう。ただし、コルセスはここの支部所属では無いため、この軍人が知らなくても無理は無い。
「それに、まだ中にファルクが居るんだって!」
「そうやって逃げる積りか? 今日はおとなしく家に帰りなさい。騒ぎにはしないであげるから。それに、中にまだ友人が居たとしても、その内直ぐに見つかるだろう」
「だから、あそこのちょっと前の部屋の中で、オレの事を待ってるんだって」
「それなら君を外に出した後に、連れ出してあげるから安心しなさい」
「話を聞いてくれよ!」
 ゲイン本人は飽く迄も本気で訴えているのだが、軍人の方は所詮子供の言い訳としか思っていない。これでは、何を言ったところで無駄だろう。
 もがけども、ゲインの力程度では全く意味は無い。そもそも相手が軍人なのだ、こうした暴れる人間を拘束して引き連れるくらい、訓練でも行われる類の事だろう。
 ゲインとて同年齢の少年比べれば、体力や筋力は多い方ではある。しかし、それなりに多いだけであって突出したものでもないし、所詮は素人に変わりは無い。
「頼むよ、頼むから放してくれ~~~!」
 それでもめげずに、喚き続けて逃げようとする姿勢を続けるゲイン。諦めはかなり悪いのだ。
 どうにかして拘束を解こうともがいている中、すこし先の方から女性の声が聞こえる。なんとなく気になったので、ゲインはそちらの方に顔を向けた。
「多分こっちの方だと思うよ、最後まで見てたわけじゃないから確実じゃないけど、なんか外に行きたがってたみたいだから、行くとしてこっちじゃないかな。まあ、守衛とかも居るだろうし、そう簡単に施設の外には出られないっしょ」
「だと良いが……それにしても、こっちに来てやがったか。殆ど入れ違いじゃねーか」
 どうやら男女の二人組らしい。女性の方は知らない顔だが……その隣に居るのは、ゲインが知る人物であった。
「コルセスー! 助けてくれー!」
「あぁ? ああゲインか」
 ゲインをあの部屋で待つように言って去って行った、コルセスその人だ。
「助けてくれよ。このままじゃ、外に出されちまう」
「お前、家出したクソガキなんだろうが。そのまま実家まで送り返されろ」
「だから……って、はぁ?!」
 これで解放される、そう思って助けを求めたゲインであったが、コルセスは最早ゲインの事を構う余裕などない状況に陥っているので、即一蹴した。
 内緒にしていた筈の事まで直球に指摘されて、思わず聞き返したゲインだったが。
「なんで俺が家出したって知ってるんだよ!」
 余程驚いたのか、自分で暴露するという愚行をやってのけた。今さら遅い気もするが、それでかなり気落ちしたのか、がっくりと肩を落としている。
「……失礼ですが、どなたでしょうか」
 一通りのやり取りが終わった後、ゲインを引きずるようにして連行していた軍人は、コルセスに質問をする。ゲインが言っていたコルセスという人物が本当に居たので、確認が欲しいのだろう。
「ああ、わりぃな、あんま長く説明してらねぇんだが……王都からの任務なんだよ。ここに直接的な関わりはないんだが、頼み事があったもんでな。そのクソガキの事、頼む」
「あ、はい。了解しました」
 コルセスの胸に光る階級章を見て納得したらしい。ゲインを左手で拘束したまま、右手で敬礼をする。
「急ぐぞ……って、おいティンリー。どうした?」
 コルセスがゲインを置いて先を急ごうとしていた時、コルセスの隣に居た女性ことティンリーは逆にゲインに近寄り、その顔を覗き込んだ。
「ねえ、ゲインって言うんだっけ? 頭に仮面付けた女の子、見なかったかな?」
 多少の情報にはなるかと思ったのだろうか、ティンリーはゲインに目的の少女の行方を聞き出そうとした。
「ティンリー。急ぐぞ、そいつに構ってる時間が無駄だ」
 一方のコルセスは、ゲインに関わる気がさらさら無いらしい。ティンリーの行動に、少し苛立っている様子が、見ていてよく分かる。
「女の子……? ファルクって子なら、さっき一緒にい……」
 ゲインが最後まで言い終える前に、コルセスは眼を見開いてゲインに詰め寄り、襟を掴んで持ち上げた。
「ぐぇ……く、くるじい……」
「いまファルクって言ったか?!」
 詰め寄ってはいるが、むしろ襟を掴んだまま力任せに引きよせている。コルセスの身長は185センチ以上だが、ゲインの身長は160センチ弱だ。その身長差だけに、ゲインの足が少しだけ地面から離れている。
「さっき……オレが居た……へ、部屋、に……」
 喉が圧迫されて殆ど声が出せないゲインだったが、絞り出すようにして何とか答える。しかしその瞬間、コルセスはゲインを放り出して全力疾走をし始めた。
 突然の事に、ゲインを拘束していた軍人も、放り出されたゲインも訳が分からず放心している。
「って、待ってくれよ!」
 コルセスが詰め寄った際に軍人からの拘束から逃れていたゲインは、その隙に――と言っても本人は良いタイミングだった事に気付いていないのだが――そのあとを追った。
「あ、こら待ちなさい!」
 一瞬反応が遅れた軍人が追う為に駆けだそうとした所で、目の前にはティンリーが立ちふさがった。
「面白くなりそうだからさ、このままにしておいてくれないかな~?」
「あなたは……アンス博士。こんなところで何を……もう王都に向けて発った筈では……?」
「気にしない気にしない。でも邪魔されると困るから、どっか別のトコに行っててね~。あ、知ってると思うけど、あたし一応佐官クラスの権限持ってるから、逆らわない方が良いよ~」
 とだけ言い残すと、ティンリーもコルセスのあとを追って走り出した。残されたのは、呆気にとられてぽかーんと、独り佇む軍人だけであった。
「どっかって事は、あの3人が向かったところ以外って事だから……これじゃ持ち場に戻れない……」
 どうしたら良いのか分からず、途方に暮れているのであった。


「どこから来たんだい?」
「知らない」
「じゃあ、どうやって此処まで来たんだい?」
「コルセスに、連れ、られて、きた」
「……家出をしたんだよね?」
「家出、じゃない。どちらかと、言えば、出された」
「出されたって事は……まさか捨てられたとか……」
「うん。その、通り」
 恰幅の良い軍人は、肩を落として少女の顔を見た。今までの会話で分かった事は、少女の名前がファルク・ウィックレーである事。歳は16。出身地は知らないらしいが、何らかの理由で家を追い出され、そこをコルセスに拾われて此処に連れてこられたという事だけだ。
 しかし、出身地が分からない事には送り返しようが無いし、自分から親元を離れた家出なら、その家に帰せば事足りるが……この場合だと、送り返しても解決にはなっていない。
 それにしても、不可解なことだらけだ。この状況を見て、コルセス大佐はどうして家出だと思ったのかも疑問ではあるが、何よりこの少女があまりに普通の少女とかけ離れていることだ。
 捨てられたと言う事は、実の親に見放されたという事。普通の少女なら絶望してもおかしくは無いのだが、飽く迄ファルクは無表情であり、淡々とその事実を口にしている。恐怖や悲しみなどの感情が無いのだろうか。
「う~ん……どうしたものか」
 送り返す場所も分からなければ送り返せないし、返したところで捨てられた少女を再び家に迎えてくれるのだろうか。更には、もし遠くから何らかの手段でここまで来たのであれば、移動だけでもかなりの費用がかかる。流石にそこまでの面倒を見てやれるほど、軍から金を出す事は出来ない。
「まいったな。大佐も随分と難儀な子を連れてきたもんだ」
「……」
 こうしてぼやいてみるが、当の少女は全く顔色を変えず、無言で座っている。自分から発した言葉といえば、会話の途中で「喉が、渇いた」という一言だけだ。与えたコップから、その半分の水を飲むと、殆ど身動きもしなくなってしまった。
「……飽きた」
「え?」
 すると、突然ファルクは立ち上がって部屋を出て行こうとする。
「飽きたって、君。ちょっと!」
 制止しようとするが、ファルクは全く聞き入れずに、ドアを開けて部屋の外へ出てしまった。
「待ちなさい!」
 そう言って立ち上がる時には、既にドアの外へ出て行ってしまった。
「一体何なんだあの娘は」
 深くため息を吐き、恰幅の良い軍人も部屋の外へ出て行ったファルクを追う。流石にこのまま軍の中を歩かせる訳にもいかない。
 駆けだそうとも思ったが、ドアを開けて周りを見渡すと、直ぐ横にまだファルクは居た。待っていたという訳ではなく、単に歩くのが遅いだけらしい。こちらに背を向けたままま、ゆっくりと歩いている。
「こら君。まだ話は全部終わった訳じゃないんだ。勝手に出歩いちゃ困るよ」
「……ん」
 一応呼びかけに答えた積りなのか、振り向いて喉を鳴らすような声を発するファルクだったが、再び前を向いて歩き去ろうとする。
「待ちなさいってば」
 呼び止めてももう反応しなくなってしまったので、仕方が無く恰幅の良い軍人は、ファルクの腕を掴もうと手を伸ばした。
「掴むんじゃねーーーーーーー!」
 「え?」という疑問を持つ前に、伸ばした手が突然勢いよく弾かれる。同時に鋭く刺すような痛みが走った。本人は この時気付いていなかったが、少し――爪の先が微かにという程度だったが――ファルクがむき出しにしている腕に触れていた。
「……痛い」
 それを不快に感じたファルクは、無表情のその顔を恰幅の良い軍人に向ける。仮面の目に当たる部分から、光が漏れ始めて行き。
「え……?」
 瞬時に、恰幅の良い軍人は、単なる消し炭へと姿が変わっていた。
「……くっそーーーーー!」
 そんな姿を見たコルセスは、握りしめた鞭を地面に叩きつけ、あらん限りの声で吼えたのであった。



第2話『家出少年の行進』へ
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