秘密と偶然の名
リアルの出来事を中心に、自作小説等を載せています。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
仮面の少女 3
 ファルクが部屋を出歩いていることをコルセスが知った頃、当のファルクは未だに軍施設の内部をさ迷い歩いていた。
 ファルク自身は、早く敷地の外へ出たいと思っているのだが、敷地の出入口は表門か裏門の2か所しか無いのだ。他は高い塀に囲まれ、しかも塀の至る場所には、防衛に使う為の様々な固定装備が置かれているため、門を目指しそのまままっすぐ歩くのが中々出来ないでいる。
「こんな、塀、見飽きた。壊した、方が、楽」
 下手に進むと行き止まりになるし、避けて進んでも塀にぶち当たる。いい加減うんざりとしてきた。
 ファルクは塀に向けて手を翳す。すると、ファルクが額に付けている不気味な仮面の目に当たる部分から、うっすらと光が漏れて行く。
 仮面自身が意志を持っているかのように妖しい光。光の下には本物の眼が存在し、ファルクの前進を阻む塀を睨んでいるかのようだ。
 だが、何の前触れもなくその光は消え、何事も無かったかのように仮面はただの仮面に戻る。
「……止めた。後で、コルセスに、文句、言われる、のも、面倒」
 力を使うたび、ファルクはコルセスに説教をされてきたのだ。近くに居ないとはいえ、使ったらまた言われるだろう。
 相変わらず無表情で、一切の感情が出ない顔なのだが、その所為か幾分詰まらなそうな表情に見える。
 そのまましばらく塀を眺めた後、塀に背を向けて歩きだした。
 少しばかり疲れたので、どこか座れる場所が無いか探す積りなのだ。ファルクは華奢な見た目通り、体力は低い。出歩いていた時間は数十分だが、彼女にとっては十分動いた方だ。
 近くにあった建物の中に入り、椅子を探す。建物の中でも、地べたに座るのは服が汚れるので却下。
 しかし中々見当たらない。
 ファルクの歩いている所は、執務棟と呼ばれている場所だ。部屋の中には椅子があるだろうが、それほど広くない廊下に椅子は設置されていない。
「何なの、此処」
 外にも出られないし、座る椅子も無い。戻るにも、来た道は殆ど覚えていない。
 果たしてこれからどうしたものか、とようやく考え始めてきた。
 そんな時目に入ったのは、当然ながら部屋の中へと繋がるドアだ。
 行く当ても無くなったファルクは、考えるのを止め、適当に近くのドアに手をかけたのであった。
 椅子があるなら座るつもりで。無ければまた別の所に行こうと、そう考えながらドアを開けて中へと入って行った。
 しかしカギが付けられているのか開かない。しかしドアに付いている窓を見る限りだと、誰かは中に居るようだ。
 ドアを叩いて開けて貰おうと思ったファルクであったが、ふと手元を見ると、そこのドアは外側から閉められている形状の様だ。
 それを見て、ドアが開けられると思ったファルクは、そのまま深く考えずにドアを開けて中へと入って行った。


 待っていろ、と言われたので馬鹿正直に待っているのが、純朴な田舎少年たる所以か。ゲインは文句も言わず大人しいまま、椅子に座って待っているのであった。
「一体どんな話をするんだろうなー」
 頭に思い浮かべるのは、軍に入って活躍する自分の姿。その華々しい想像には、微塵も現実味というのもが含まれていない。
 ゲインの思い描くその姿とは、囚われの姫を助けに魔王へと立ち向かう騎士のそれと、ほぼ同じようなものなのだ。軍という所が、一種のヒーロー像と重なっているのである。
 しかし話が始まるのを期待しているゲインではあるのだが、彼の期待は叶えられそうにもない。これから訪れる相手は、家出をしているゲインを、親御さんの所に帰そうとする人物であるからだ。ゲインの願いは全く通る訳が無い。
 だがそんなことを分かる訳もないゲインは、胸を躍らせながらドアを開けて入ってくる人物を待った。
「お、来た……! って、なんだ?」
 コルセスが出て行ってからしばらくして、部屋に漸く人が入ってきた。
 しかしその人物は、ゲインの予想していた相手とは随分かけ離れている。
 その相手とは、どう見ても軍に所属している様な人物では無かった。
 それどころか、非常に華奢な体躯をしており、しかも見たところ自分とそれほど歳が離れていなさそうな少女だ。
「えっと……誰だ?」
 何がどうなのかさっぱり理解出来ていないゲインは、取り敢えず誰何するものの、相手の少女は無言で眉ひとつ動かさずに近づいてくる。
「……どいて」
 ゲインの誰何を無視しながらも近くに寄ってきた少女は、手を伸ばせば触れられそうな位置で停止し、一言そう言った。
「はぁ?」
「椅子に、座りたい。だから、どいて」
 よく分からないが、この少女は椅子に座りたいらしい。確かに今ある椅子は、ゲインが座っている物しか無い。厳密には折り畳み式の簡易椅子が、壁に幾つか立てかけてあったりするのだが、互いに存在を知らないのか無い物として認識している。
 今一状況が分からないゲインだが、一先ず椅子から立ち上がり、少女に椅子を譲る。
「ん」
 とだけ声を発し、少女は表情を変えぬまま椅子に腰かけた。
「……いや、てかだからお前誰だよ」
「ファルク・ウィックレー」
 椅子に座って気分がすぐれたのか、今度はゲインの誰何に潔く応じた。
 自分から聞いたのにも関わらず、言われた言葉が何なのか理解出来ずにきょとんとするゲイン。数秒の間が入った後、それが少女の名前だと理解する。
「えーと、ファルクだな。オレはゲイン・カシュール」
 相手が名乗ったのに自分が名乗らないのはおかしいと思い、ゲインも自分の名前を口にする。
「ん」
 名前を聞いたファルクは、そう短く返事をしてから、ゲインから視線を外した。
「……いや、それでさ。ファルクは一体何しに来たんだ?」
 自分は飽く迄も、軍の人間と話をするためにここにいる筈なのだ。軍に入れて貰えるというのは、ゲインの妄想ではあるが、部屋に入ってくるのは軍人の筈である。
 やはりどう見ても、ファルクは軍人などに見えない。
「疲れた、から」
「疲れたって、もしかして本当は軍の人?」
「違う。私は、ここに、連れ、られて、来た、だけ。出歩いて、疲れた、から、椅子に、座り、たかった」
 ますます意味が分からなくなるゲインであった。それにしても、この少女は一体なんなのか。やけに話すのが遅い……というよりは、殆ど単語単位で言葉を区切りながら喋るので、聞き取れるものの分かりづらい。
「まあいいか。そっか、連れられえてきたのか」
 一先ずファルクが発した言葉を、そのまま受け取る事にした。よくよく考えれば、自分もコルセスにここまで連れてこられたのだ。この少女ファルクも、同じような境遇なのかもしれない。
 正直に言うと、ゲインは少し喜んでいた。
 ゲインの住んでいた村は小さく、殆ど若者が居ないのだ。なんでも、自分が生まれる前に両親がどこかの街から、移住してきたのだという。
 その頃にはもう、両親と同年代から若い世代は居なかったそうだ。
 それ故、ゲインが同い年くらいの少女と触れ合う機会など、今まで数えられる程度しか無かったりする。
(しかも、結構可愛い娘(こ)だな)
 少し不健康なほど細すぎる身体なのは否めないが、ファルクはその無表情と奇妙な仮面さえ気にしなければ、十分に可憐な少女だったりする。と言うより、ゲインに関してだと、ファルクの顔ばかり見ているお陰で、仮面は目に入っていない。
 可愛い少女と2人きりで、この狭い空間にいるという事が、今のゲインにとっては新鮮であり、心躍る様な状況なのだ。何分、思春期真っただ中の少年なのだ。それが普通だろう。
「何か、飲みたい」
 すると、内心でワクワクしながらファルクを見つめていたゲインに向けて、ファルクは一言発した。
「はえ?」
 唐突だったので、素っ頓狂な声を出してしまうゲイン。その抜けた顔を見て。
「何か、飲みたい」
 と、さらにファルクは同じ言葉を繰り返す。何か飲み物を、ゲインに要求しているらしい。
 運動量でいえばそれほどでもないが、ファルクからしてみれば動いた方だ。喉くらい乾いたのだろう。
 ぽかーんと一瞬固まったゲインだったが。
「そっか、じゃあ何か持ってくるよ!」
 と、生き生きしながら部屋のドアを開け、外へ飛び出していった。可愛いと思ってしまった手前、頼まれた事には断れないゲインなのだ。
 勢いよく部屋を飛び出して、まっすぐに走り去るゲインを、ファルクは変わらずの無表情で眺めているのであった。
 部屋から飛び出したゲインは、後ろ手でドアを閉め、先ほど歩いてきた方向を戻る。
「ってか、出たのは良いけど、どうすりゃ良いんだ?」
 しかし数歩だけ走った後、直ぐに失速し、足を止めた。
勢いだけで飛び出しただけなので、どこに何があり、どうすれば喉を潤せるものが手に入るのかなど、分かる訳が無い。それに諾々と従ってしまっているし、このまま戻るのは申し訳ない――と言うより、そんな失態を見せるのは嫌だ。
「こっちは外だしな……なら、こっちかな」
 少し迷ったが、外に行くよりは中の方が何か有るのではないかと、踵を返して逆方向に進むことにした。
 廊下を小走りに走っていく。廊下には出てきた部屋と同じような部屋が、いくつか並んでいる。しかし、どの部屋も人の気配が無い。
 いや、突当たりにある部屋には、ちらほら人影があるようだ。そこで聞いてみよう。
 今出てきた部屋を通り過ぎ、意気も揚々と廊下を進む。通り際にファルクの姿を横目で確認しつつ、ちょっとだけ待っててくれよと心の中で思いながら。
 出てきた部屋と突当たりの部屋は、それほど離れている訳ではない。直ぐにドアの前までたどり着いた。
 そうしてドアノブに手を掛けようとした所で、唐突にドアが手前に寄ってくる。どうやら中にいた人が、開けて出てきたようだ。背が高く、がっしりとした体格の、いかにも軍人という姿の人物だ。20代後半くらいの歳だろうか。
 ゲインはその相手を確認し、何か飲み物は無いかと尋ねようとした時であった。
「少年、ここで何をしているのだ」
 ゲインが言葉を発する前に、相手が先にどなり声を上げた。その声の少々驚いたゲインであったが、気を取り直し、飲み物を貰おうと口を開く。
「えーと……オレ、ちょっと水か何かを貰いに来たんだけど」
「水……全く、水なら外にある水場にでも行けば良いだろう。態々軍の施設に入る、なんて遊びは関心せんな。ほら、外まで送ってあげるから、早く来なさい」
 とゲインの言葉を、この軍人は友人同士の遊びか何かで、中に入っただけなのだろうと解釈したらしい。
 普通軍の施設に勝手に入るなどすれば、大目玉をくらってもおかしくない。それを穏便に、外へ連れ出すという姿は、感心できるものだろう。この軍人は中々心が広い人物らしい。
 軍人はゲインを施設の外へ帰す為に、がっしりと腕を掴み、強制的に外に向かって歩き始める。
「えぇ? 別に友人って訳じゃないけど……って、どこに行くんだよ!」
「外で友人が待っているんだろう? これからは、こういう変な遊びはしない様にするんだよ」
「いや、そうじゃなくて、ってうわぁ!」
 問答無用で腕を引かれて連れられて行ってしまう。流石軍人というべきか、いかにもな体格を持つ人物なので、ゲインがもがこうが、びくともしない。
 そのままゲインは、今進んできた道を逆戻りし、ファルクが待つ部屋を通り過ぎ、外へと運ばれていったのであった。
「おや、なんだか騒がしいね」
 ゲインが外へ出されてから数秒後、先ほどの軍人が現れた部屋から、温厚そうで恰幅の良い別の軍人が、ドアを開けて廊下に出る。
「例の少年が逃げた……にしては、そんな気配は無さそうだね。壊された痕も無いし、鍵がかけられていと聞いているしね」
 恰幅の良い軍人は、小脇に抱えた資料――ゲインを送還するための必要書類――を取り出し、使用するべき書類で間違いが無いか確認する。
「迷子の送還なんて、滅多にないんだよね~」
 などと、のんびりとした動作で再び資料を小脇に抱え、言われていたドアへ歩いて行く。
 しかし、ドアの前に立つと、少し頭を捻らせた。その視線の先は、ドアの窓から見える、10代半ば程の少女であった。ただしそれだと何かがおかしい。
「おや……? 大佐は少年だと言ってた気がしたんだけど……聞き違いだったかな。それに、鍵もかかってないし……」
 疑問はあるが、部屋の中にいるのはどう見ても一般人だ。間違っても、連れられてこない限りは軍の施設に入れる訳が無い。それに大人しく部屋の椅子に座っている姿を見る限りは、何かを企んでるような気配も無さそうだ。
「大佐も急いでたのかな。急ぎの用事って言ってたし、きっと慌ててたんだろう。気にしないでおこうかな」
 そう結論することにして、恰幅の良い軍人は、ドアを開けて中に入っていくのであった。それにしても、ここの軍は随分と温厚な人が多いようだ。
「……誰?」
 唐突に知らない人物が部屋に入ってきたので、微かに首を傾げる少女。その様子を見て、恰幅の良い軍人は柔和な笑顔を浮かべて見せた。
「こんにちはお譲ちゃん。君だね? コルセス大佐が連れてきた迷子って言うのは」
「うん、間違って、無い」
 確かに彼女は、コルセスに此処へ連れてこられた。そして、ある意味現在迷子の身だ。そのまま首肯する。
「そうか、それは大変だったね。じゃあちょっと、質問に答えて貰っても良いかな?」
「分かった」
 そうして恰幅の良い軍人は軽く苦笑いをしながら、持ってきた書類を取りだした。
 まあ、正直に言うと何度も何度も同じような内容を書きこまなければならない、どこまでも手間が掛かるだけの書類が殆どなのだ。彼が苦笑いを浮かべたのは、ただ迷子を返すだけなのに、これだけの書類を使用するという面倒くささが理由である。
 軍隊の様に大きい組織に所属すると、小さな事でも書く報告書の量は、その分大きくなるものである。
「それじゃあ、まずはお譲ちゃんの名前からだね、フルネームで教えて貰えるかな?」
「ファルク・ウィックレー」
 そうしてファルクは、そのまま質問に答えていくのであった。


次へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。